②
床にペタンと座り込み、涙を流す。
でもここには、私の涙を
「ほら、そんなに泣いたら目が
シドはさらりとした黒髪の紅い目をした青年で、私より三つ年上の十九歳。私の従者でありながら、ローゼリア王国きっての
百八十七センチの身長はこの国の平均より少し高めで、黒の下衣を
ダークグレーのローブで
右耳に光る赤いピアスがよく似合い、
小説のキャラじゃないのに、容姿チートな魔導士は誰よりもかっこよく見える。
うちに来た八歳の頃はとにかく
私の前では
さらにシドは、『前世の記憶』や『悪役令嬢の運命』について話したので全部知っている。
いずれ
今だって、
「お嬢、俺がお守りしますからご心配なく。夢なんて、しょせんは夢ですよ。もしも未来視の力だったとしても、わかっているなら変えられますって」
私の前世の記憶のことは夢だと思っているけれど、まったく信じていないわけでもなくて、「未来視」の力じゃないかとシドは言う。頭がおかしくなったと
私にとって、
「ククリカ・ラリーがいなくても、お嬢の人生が終わるわけじゃないですよ」
「ううっ……! まだなんとかなる?」
「はい」
優しい笑顔で
「でもここからどうすればいいの? いきなり
私が十二歳のときに両親は事故で亡くなり、それ以降は美しく
そんなお兄様を捨てて
それに私は、シドのことが好きなのだ。彼のことを
でも、そもそもククリカがいないんじゃ話にならない。
「信じられない。入学していないだなんて」
国立ローゼリア学園は、貴族子女ならまず通う場所。結婚している人や、病に
そうしなければ、よい
「ククリカ・ラリー男爵令嬢はどこへ行ったの? 入学してくれないと困るのよ!」
わぁっと感情を
「お嬢、入学してないってことは未来視が間違っていたってことじゃないですか? あるいは、お嬢ががんばったからすでに未来が変わっているとか」
え、何その前向きな考え方。
「私が、がんばったから?」
「ええ。そうですよ、きっと」
シドを見つめると、いつものように笑ってくれる。そして彼はそっと私の目元を拭うと、にこっとさらに笑みを深めた。その優しさにキュンとくるけれど、でも今はときめいている場合じゃない。
「すでに未来は変わっている? でも私ががんばったのは、家を
混乱が加速する。悩む私に、シドが
「そのククリカ・ラリー男爵令嬢は、
「見つけたって、今さらどうにかできると思う?」
「う〜ん、金さえ積めば編入できますからねぇ。うちがごり押しして学園にねじ込むことはできますよ?」
はっ! そうだわ、ヒロインがいないなら連れてくればいいのよ!
お金、権力、ありがとう! 悪役令嬢らしい
私はシドの提案を全面的に受け入れ、うんうんと何度も頷いた。
「いったんこのことは俺にお任せを。それより、お嬢は明日の入学式のことを考えてください。きっと制服がよく似合うはずですよ」
そうだった。明日の入学式は、無様な姿なんて
いずれ婚約
シドの助言で少し落ち着いた私は、スッと立ち上がる。
「私に制服が似合うなんて当然でしょ?」
いつものように、堂々とした態度でシドを見下ろす。
彼は何かに
「はい、もちろんですよ、お嬢。なんなら
「いらないわよ!」
差し出された手をペシッと払い、私はサロンを出て部屋に戻った。
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