12月15日第2巻発売記念②


 こんな勢いよく燃え盛る火に襲われても死んでないのを考えると、俺の耐久性能ってのはなかなかに捨てたもんじゃないなと感じる。


 だけど大魔王なんて名乗ってる立場の者が、こんなにも圧倒されているってのは情けない話なんだよな。



「……ふぅ~……『美徳』も通じないのかぁ」


「どんなものがあるか知っていますからね……得意な初見殺しのほうが良い選択肢だと思うけれど?」


「彼女にボコボコにされといて……今更小細工で勝ちを目指すってのは格好つかないだろ?」


「その面倒な性格……元の世界に帰るまでには捨ててきてくださいね」


「……善処する」



――ゴゴゴゴゴッ‼



 シンラとの融合時間は終えてしまい、『破壊の火』を全力出力でぶつけてみたけど『黄金の火』の前には脅威にすらなり得なかった。

 『黄金の火』は今まで何度も目にしきているんだけど……なんだか見るたびに凶悪的に強くなっているのは何があったんだろうか?


 今のところダメージをまったく与えられていない俺と、多くの手札を捌きながらも、確実にダメージを負わせていっている愛火という図式、けっこうボコられてしまっている。


 そろそろあの余裕を崩してやらないと意気込んで魔力を解き放つ。



「『神化アヴァターラ』『雷霆ト天空ノ神インドラ』」


「『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』」



――バリバリバリッ‼



 俺の身体から爆発的に放たれた雷と、愛火が薙ぎ払うように振った『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』がぶつかり合う。

 雷と『黄金の火』のぶつかり合いは眩さと轟音を撒き散らしながら闘技場を荒らしていく。


 愛火に対抗するには『速さ』は必要不可欠、そして鋭く一点を撃ち抜けるだけの火力も外せない。そんなことを考えていると『雷』の属性ってのは本当に戦闘面では最高に万能だと俺は思うんだよなぁ……。



――バチバチバチバチッ‼



「『我は唯一無二カイヴァッリャ・の神雷為りスヴァルガパティッ‼』」


「くッ!? 『天穿つ黄金の絶炎ゴールドプロミネンスッ』」


「さすがに遅いなァ‼ 『不変の月光、雷クータスタ・鳴を裂く刃となりてカウムディー‼』」



――ズシャァァァァンッ‼



 至る所から迫りくる『黄金の火』を雷速をもって避け、一瞬で懐まで移動してからの渾身の手刀を愛火にぶちかました。

 『黄金の火』を鎧のように纏わせていたので、それを裂きながらもダメージを与えようと思っての『不変の月光、雷クータスタ・鳴を裂く刃となりてカウムディー』だったが、吹き飛ばしただけでダメージを入れた感覚は得られなかった。


 さすがに模擬戦なので少しは加減したけど……それにしても頑丈だ。左上腕に本当に当たったのかって思うほどに硬かった。



――ブワッ‼


 愛火を吹き飛ばした衝撃で破壊した闘技場の壁際から、思わず顔を歪めたくなるような熱気と魔力が溢れだしてくる。


 砂埃が舞い上がり、視界が悪い中でもハッキリと感じる……明らかにギアを上げ、戦闘を少し楽しみ始めた愛火を。



「『戦女神は太陽を纏いてプロミネンス・アテナ‼』」


「……俺も言わせてもらうけど、愛火こそこの世界から戻るまでに、その好戦的な性格捨ててきてくれよ」


「……努力しますッ‼」



――ドゴォンッ‼



 『黄金の火』の力を宿した鎧を纏って突貫してくる愛火。

 凄まじい速さでありながら、通り過ぎた箇所を『黄金の火』で燃やしてしまう非常に面倒な追加要素まで有してインファイトを仕掛けるつもりの愛火に少しドン引きをしてしまう。


 ため息の一つをつく間も無く、『黄金の火』を纏って突進を迎撃してやるために、俺は拳に魔力を集中させる。



「ハァァァァァァッ‼」


「わざわざ突進って…脳筋かよ‼ 『真を撃ち抜け渦雷崩拳ルタ・プラマーナッ‼』」



――ドシャァァァァンッ‼



「ぐほッ‼」



 『黄金の火』を纏った愛火の突進と、俺の『真を撃ち抜け渦雷崩拳ルタ・プラマーナ』は凄まじい爆発を起こし、互いに闘技場の壁際まで吹き飛ばされる相打ちで終わった。


 あまりの勢いで大魔王の身体であっても吹き飛ばされた衝撃で痛みを感じてしまった。相当な速さで吹き飛んだんだろうな。


 愛火の『戦女神は太陽を纏いてプロミネンス・アテナ』とぶつかり合った俺の右腕は焼け焦げていた。

 少しの時間があれば再生するんだろうが、『雷霆ト天空ノ神インドラ』の雷を纏ったとしても関係無しに焼き尽くしてくるってのは厄介極まりない。



(でも遠距離戦をやる方が厄介だからな……ある程度は妥協しないとな)



 とても悲しいことに、俺は右腕焼かれているのに同じく吹き飛ばされた愛火のほうからは、さらにギアが上がって元気ピンピンな気配がしてくるのが嫌な話だ。

 もちろん愛火も『黄金の火』を最大火力で使っているわけではないので、消費魔力的にも長期戦余裕なんだろうけど、それにしても元気すぎて困るな。


 雷速への反応はさすがに間に合っていないようなので、速さで攻める方法は間違ってはなさそうだが……さすがに触れるような攻撃は不味かったな。



「その勢い……完全に止めてやろうじゃないか」


「手の内を必要以上に見ようとする。それは良い時もあるかもしれませんが、最後の戦いでは危険かもしれませんよ?」



――ボウッ‼



 闘技場の至る所で燃え盛っていた『黄金の火』が勢いを増し、俺目掛けて襲い掛かってきた。

 模擬戦とは言え、これ以上痛いのは勘弁だからな。こっちも愛火を圧倒してやるくらいの気概でガンガン攻めさせてもらうか。


 使う『大罪』の魔力はレーラズの『怠惰スロース』。

 魔力に触れたモノを鈍化させたりと行動を止めることに尖った力。本人は戦いたがらないから日の目を浴びることは少ないが、『怠惰スロース』の力の恐ろしさを俺なりにやってみようじゃないか‼


 俺は左腕を正面に向け、迫りくる『黄金の火』の大波に魔力を放つ。



「『原罪:堕落カロス』解放。『世界よ止まれ、ダイヤモ不朽の氷美を今ンドダスト』」



――パキッ パキパキパキ



 『闘技場』に『原罪』である『堕落カロス』の魔力が広がり、その魔力に触れし『黄金の火』は活動を停止しながら凍てついた。

 『黄金の火』の輝きを秘めた氷の結晶たちが空を舞い、『闘技場』の温度を一気に下げていく。


 元気で勢いのある相手ってのは……冷めるよう眠りをプレゼントして落ち着かせないとな。

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