外伝 『骨の争い』


「頑固者めがッ! 今回ばかりは譲ってもらうとしよう!」


「……」



 『罪の牢獄・闘技場』。

 そこに立ち会うのはウチの面々の中でスケルトンから派生し、『大罪』の力を得て強くなったアヴァロンとバビロンの2体。

 単体でのみ力を発揮し、剛剣によって全てを破壊する『無頼ソリトゥス』の騎士王と、数と再生力で圧倒し、あらゆるモノを捻じ曲げ支配する『虚飾ヴァニタス』の王。


 まぁ……戦闘スタイルも性格も元は同じ魔物とは思えないほどにタイプが違う骨2体だ。


 何が原因かは聞いてないけど、一発闘技場で喧嘩すると報告を受けたので見に来てみたら今にも始まりそうな雰囲気だ。



「お主に『虚飾ヴァニタス』の力は効かぬが……我が軍勢が敵ともなればお主の力も万全では無かろうて!」


「……」



――ゴウッ!



 闘技場を覆い尽くす2つの『大罪』の魔力。

 並みの魔物であればそれだけで気を失ってしまいかねない息苦しい2つの魔力が闘技場中心でぶつかり合い、闘技場の空気を大きく震わせる。


 『黙示録の獣』に座すバビロンと雷を纏いし大剣を構えるアヴァロンが動き出したのは……ほぼ同時だった。



「我が無限の軍勢よッ! その分からず屋を圧し潰すのだ!」


『『無限彼方まで届く雷霆ケラウノス・ヤケレ』』



――ドシャァァァァンッ!



 次々と湧き出てくるスケルトンの軍勢に対し、アヴァロンは親玉であるバビロン目掛けて雷の矢を放つ。

 雷速の矢が射線上にいるスケルトンを消し飛ばしながらバビロンへと向かっていくのだが、次々と湧き出てくるスケルトンと『黙示録の獣』による障壁のせいで届くことなく勢いを失う。


 2発目の矢を放ち終える頃にはアヴァロンは完全にスケルトンの軍勢に囲まれ、『無限彼方まで届く雷霆ケラウノス・ヤケレ』を放つ隙を失った。



「圧し潰すのだッ!」


『『雷雹剣雨ヴァルテクス』』



――ドドドドドドドッ!



 アヴァロンから発せられる機械音でのスキル宣言の後、高速で振るわれた大剣から放たれた雷の魔力は、天へと昇りて剣となって大地に降り注ぎ始める。

 いくら普通のスケルトンよりも動きが速くアクロバティックとは言え、高速で降り注ぎ続ける『雷雹剣雨ヴァルテクス』の雨を躱すことはできないようで、スケルトンの軍勢は次々と雷の剣で貫かれ破壊されていく。


 破壊されては再生し、そしてまた破壊されては再生を繰り返し続ける地獄絵図。

 バビロンへと降り注ぐ『雷雹剣雨ヴァルテクス』はスケルトンや『黙示録の獣』が全力で防ぐ中、アヴァロンはゆっくりとバビロンへと向けて歩を進めている。

 

 アヴァロン側としては単騎状態なので『無頼ソリトゥス』の力は万全、スキルダメージを反射できるスキルはバビロン相手には使いどころが無さそうなので距離を詰めて叩くしか選択肢が無いのが難しそうだ。

 バビロン側としては数を出したとしても一蹴されるので時間稼ぎにしかならない状態であり、『虚飾ヴァニタス』による恐怖心を動かし心を破壊する力もアヴァロン相手には効果が期待できないので攻め手にかける。


 ……攻め手に欠けるバビロン側から動かないと厳しそうではある。



「『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』」


『『無念無想ミョルニル・ラ雷霆万鈞・サンクティオ』』


「我が軍勢を甘く見たことを後悔させてやろうッ!」



――ゴウッ!!



 闘技場がバビロンによる『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』に覆われる。

 そんな特殊結界にすぐさま反応、スキル発動の隙を突こうとしたアヴァロンの動きは『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』によって強化されたスケルトンたちによって阻害される。


 さらに速く強くなったスケルトンたちをアヴァロンが雷速で立ち回りながら白雷の剛剣にて粉砕していく展開だ。

 さすがに『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』でスケルトンたちを強化したとしても単騎状態のアヴァロン相手には分が悪すぎて結局時間稼ぎにしかなっておらず、徐々にアヴァロンがバビロンへと距離を詰めている。


 そんな展開であっても、バビロンは高笑いを交えながら『黙示録の獣』の上で余裕そうにしている。



「やはりこの手札では傷1つ与えるのも難しいか! なれどお主の刃が我に届くことも無いと知るが良いッ! 『欺瞞色に染められしロイヤル・ストレ栄華に満ちた天の花ート・フラッシュ』」


『……『雷神招来』』



――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!



 世界が大きく揺れている。


 2つの『原罪』が同時に解き放たれた。

 バビロンは『奇跡カラミティー』を起こす5体の骨騎士を召喚し、アヴァロンは白黒の神雷を周囲に降らせながら、自身を『無限インフィニティ』の力を秘める雷神へと転化させる。


 『原罪』の相性で言ったらバビロンの『欺瞞色に染められしロイヤル・ストレ栄華に満ちた天の花ート・フラッシュ』によるルール捻じ曲げに分が上がりそうだが、『無限インフィニティ』と元のパワー差によるアヴァロンの攻撃力も侮れない。



『『雷鳴剣ブロンテス迅雷風烈電光雷轟ケラウノス・サエッタ』』


「普段お主がやっておるように……我もスキル自体を妨げられる力を持つことを忘れておるかッ!」



――バリンッ!



 アヴァロンの大剣に纏いし雷が砕け散る。

 バビロンへと攻撃を通すにはバビロンに1番脅威となる事象の確率を0にする『嘘で塗り固められた王スケルトン・ゼロ』、100%絶命条件を設定してくる『虚構を貫く哀れな王ジャック・スケルトン』、12個のスキル発動を妨げる『仮初にて突き進む王クイーン・スケルトン』、バビロンへの直接ダメージ以外の被害を消す『虚言にて世界を壊す王キング・スケルトン』、そしてバビロンに触れたとしても1撃で仕留め無い限り何かを起こしてくる『虚飾を真実にする王スケルトン・エース』という5つの騎士を乗り越えなくちゃいけない。


 設定された100%絶命行為を起こさせずに、まずは12個のスキルを使用し、複数の詰手でバビロンに直接ダメージを与え、出来れば最初の1撃で仕留めるのが理想だ。


 『奇跡カラミティー』によるバフ・デバフは俺でも把握できてないほど種類と理解を越えたモノがあるので、そこも用心しないといけない。



「ここからは雷速を我が捉える戦いとなる。骨の頂点を決めようぞ!」


「……」



――ゴウッ!



 単純な速度とパワーで押しきれるアヴァロンと、法則を捻じ曲げ鉄壁の守りと数の暴力で潰しにかかるバビロン。


 2体の元スケルトン同士による喧嘩は、まだまだ終わりそうにない。


 

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