第20話 『クソゲーの決着』
この世界を知る者であればあるほど驚愕の惨劇が繰り広げられている。
世界の創造神の一柱である『原初の魔王』が最強勇者との呼び声高い東雲拓真に対し、一方的にボコボコにされているという光景。
『霧化』することで自身の身体をいかようにも変身させることができる『原初の魔王』であったが、巨大になろうと龍になろうと東雲拓真の打撃を肉体が受け止め切ることができないという結果だけが残る。
東雲拓真の『
「ただ殴る蹴るだけで全ての戦いを終わらせる者……あれだけ美学を語っておいて、奴の召喚した最高傑作がこれは笑えるモノではあるな」
「こんなクソみたいな世界を創っておいて、そんなしょーもないことで争える精神は凄いっすけどね」
「儂らとお主らでは生きている世界が違うのでな」
「2人で楽しむ分には良いけどさ……俺たちに迷惑かけてんじゃねーよッ!」
――バギッ!
崩壊寸前の身体に容赦の無い右拳一閃。
『原初の魔王』は塵となって砕け、最後の言葉を発する間もなく消滅した。
魔王陣営からすれば『原初の魔王』がたった一人の勇者に手も足も出ずに完敗するという悲劇のような結末。
東雲拓真を召喚し、力を分け与えた『女神』ですらここまで戦果は予測できなかったことだろう。ただ一人この圧勝劇を見据えることができていた人物と言えば、東雲拓真を最強勇者と呼び続け、ひたすら彼と戦うことを避けたソウイチくらいのものであろう。
『原初の魔王』が消滅したことによりゲームは終わる。
東雲拓真の勝ちは『女神』の勝利、今回の遊戯は『女神』の勝利に終わり、すぐにでも次の遊戯の準備が始まるのがいつもの流れではあるが、今回ばかりはそうはいかないのである。
「あっちの魔王さんが上手くやってくれたみたいっすね。後は俺たちの努力次第ってやつっすか」
東雲拓真は脳内に流れる『congratulation』を聴きながら、自身がいつでも使われる勇者人形にされていない事実から、ソウイチが上手く『女神』を抑えてくれたのだろうと察する。
勇者人形が何なのやら、『原初の魔王』と『女神』は魂だけで本体は何なのやらは全てソウイチからの情報であり、信じるかは東雲拓真次第ではあったが、この結果を見る限り良い感じだと直感的に東雲拓真は思っていた。
「後は時間経過で勝手にそれぞれの世界に戻されるらしい……この世界で死んだ人たちは死んだまま……終わってるっすね」
頭の中に流れ込んで来る情報に呆れながらにツッコミを入れていき東雲拓真。なんとも呆気の無い終わりではあるが、こんなクソみたいな結末のために各世界線から呼び寄せられた人たちが多く犠牲になったのだ。
『女神』『原初の魔王』、そしてソウイチがゲームとしての認識をしっかりと前提にこの世界の攻略だったり生き方を見ていた中、東雲拓真は『原初の魔王』を倒した今でもゲームと言う認識に納得が言っていない。
「ゲームと現実の区別をつけれない馬鹿げた『原初の魔王』と『女神』……マジでイカれてるっすよ。こっからも忙しい予定なのも最高」
ソウイチと合わせた予定通りに今後も物事が進んでいくのならば、自分は『原初の魔王』本体をどうにか探し出し、ソウイチが『女神』を抑えて遊んでいる間に殺さなければいけないという任務が残っているのだ。
ソウイチの恋人である愛火や妹の凛菜、ソウイチが関わってきた巻き込まれた人たちにも色々託していると東雲拓真は聞かされており、元よりサボるつもりなど無かったが、自分がやらねば解決できない問題でもあるので、こっからが気合の入れ所だと自分に喝を入れ直す。
「よしッ! ……ってか自分と『女神』が残るから世界は壊れないらしいけど……どこまで予測できてたんすかね?」
大体ゲームなんてそんなもんだ的なノリがソウイチの予測に含まれていたなんて東雲拓真からすれば思いもしないことだし、自分の『
今持っているこの世界での記憶を完璧に元の世界線に持ち帰れるなんて誰も知らないようなこともソウイチが予測していたことにも驚いたのだが、不思議とソウイチの言葉は信じても大丈夫そうだと感じたのを今更ながらに東雲拓真は思い出して、軽く微笑む。
「まさかゲーム制作者がゲームに閉じ込められるなんて考えてもなかったんだろうな……ナイスっす!」
聞こえることはないのだが、東雲拓真は役目をとりあえず果たしたソウイチにむけて感謝の言葉を送った。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
「あぁ~……ここは崩れるっぽいから……全力ダッシュッ!」
『原初の魔王』と『女神』が創造した世界。
呆気の無い幕切れとはなったが、東雲拓真が『原初の魔王』に勝利したことによりゲームクリア。
今回の勝者は『女神』となったが、当の本人はここから罪を償うまで永久に檻の中で『大罪』たちと戯れることになる。
これが『原初の魔王』と『女神』による『遊戯』の終わり、その第一歩である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます