第19話『規格外の拳』
――ドシャァァッァンッ!!
「はぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「ハッハハハハハハハ!」
『大罪の大魔王ソウイチ』のダンジョンである『罪の牢獄』、その最下層フロアである『地獄の門』と酷似している空間で行われているのは、最強勇者である東雲拓真と、6本の腕が生えている黒い悪魔の姿をした『原初の魔王』による拳での殴り合い。
両者の足場である地獄の地を拳のぶつかり合いで生じる衝撃波で裂いていきながらも、両者は互いに下がらず拳を振りかぶっている。
最強の戦力を有するソウイチをもってして、単騎でありながら世界最強と言わせる東雲拓真、最強勇者が誇る3つのスキル『
「オラァッ!!」
「甘いわッ! 殴り合いであっても儂は負けんぞ!」
――ドガンッ!!
「うおッ!?」
――ドシャァァァァンッ!
『原初の魔王』の漆黒の剛腕が薙ぎ払うように振られ、東雲拓真が勢いよく吹き飛ばされていく。
地面を少し削りながら転がっていく東雲拓真から注意を逸らさぬようにしながらも、『原初の魔王』は自身の腕を見つめて大きく笑う。
自身の子どものような存在でもある『魔王』たちの力をある程度扱えるのだが、そのどれをもってしても東雲拓真に殴られた傷が再生することがなく、消えぬ痛みに思わず零してしまったようだ。
「一度消失させて新たなモノを創り出せば良い話よな!」
――バキバキバキッ!
「……ほう。霧化も受け付けぬ……滅びを逃れられぬか、これはまるで『魔王』のような力じゃな!」
「くそッ……やっぱ一撃重いからやりづらいっすね。だからって負けるのは無しなんすけど」
「普通の人間ならば肉片すら残さないほどに消し飛ぶ威力のはずだがな」
「勇者が魔王に負けたら……色んな人に怒られちまう」
「儂も『大罪』という最高傑作を引き当てたが、まさか『女神』も引き当てるとは思わんだな!」
「こんなこと言って笑ってる奴のせいで……多くの人が犠牲になってきたって考えると……負けらんねぇよなッ!」
――ドンッ!
爆発音のような音を響かせながら、猛スピードで『原初の魔王』へと迫っていく東雲拓真。
『原初の魔王』も驚愕する『
ステータスも『
『原初の魔王』は、どうにかしてでも『大罪の大魔王』へと進化したソウイチと、あまりにも勇者とは思えない凶悪な力をもった東雲拓真を全力で戦わせたかったと後悔する。
「吹き飛べッ!」
「力比べなんぞ片腹痛いぞ!」
――ドゴッ!!
2本の角に漆黒の翼、強靭な筋肉の鎧を纏いし姿になっている最強の魔王から放たれるのは、凄まじい魔力と気の籠った正拳突き。
そんな神の一撃に対し、最強勇者である東雲拓真が放つのは渾身の力をこめた右脚の蹴りという選択。
様々な力を持つ『原初の魔王』が何故こんな真正面から殴り合っているのか本人も少し疑問に思うところだが、東雲拓真が思い描く絵に進んでいってしまうのが『
――ゴシャァァァァンッ!
大地が割れ、東雲拓真の右脚から流血が見られ、『原初の魔王』の腕1本が粉々に吹き飛んだ。
人間の身体のどこにそんなパワーがあるのか、この世界を創造した『原初の魔王』でさえも疑問に思えてきてしまうレベルの東雲拓真から出る馬力の圧。
とんでもないダメージを一撃で受けながらも、奥底から湧き出てくる謎の笑いを抑えきれない『原初の魔王』。
勇者と言うには野蛮とも思える戦闘スタイル、だがこの突っ込んで殴る蹴るという様式で『皇龍』をタイマンで退けたという実績がある。
ソウイチが『女神』をボコボコに殺されるまでのお遊戯と思っていた『原初の魔王』だが、東雲拓真は今まで全ての勇者を振り返っても……圧倒的なまでの強者であった。
「『女神』の奴め……遊戯の美学だ何だの語りながら……このような化け物を召喚しようてからに」
「ぶっ飛ばすッ!」
――ドンッ!
「楽しませてくれいッ!」
――ドドドドドドドッ!!
一撃で距離を空けるパワー、そして一瞬で間合いを詰める脚力。
4本にまで減りはしたものの、それでも倍はある手数と殴り合える反射神経とフットワーク、そして東雲拓真が相手につけた傷・ダメージは決して癒えることなく永遠と残り続けるという呪いのような力。
如何なる困難に遭遇しても切り抜けられるように何かの補正のかかる祝福、そして自身が最高のパフォーマンス、思い描いた流れを掴むことができる『運命』を手繰り寄せる力。
『原初の魔王』が何度3つの能力を考えても、この肉体と魂状態では勝てる相手では無いと悟る。
(むしろ儂の魂を傷つけられてしまえば……生涯残り続けてしまうやつか)
――バキンッ!
『原初の魔王』の腕がまた1本粉々に砕け散って行く。
『女神』が『大罪の大魔王ソウイチ』を確実に仕留めるために召喚してきた『勇者』、それは2人の遊戯を容易に壊してしまうほどの力を秘めており、『主人公補正』というソウイチから言わせれば最強の加護はこの世界を創造せし神をも上回る異常であるようだ。
『女神』とソウイチが激突してそれなりの時間が経過しているのに、まだ遊戯の勝敗がついていないのも『原初の魔王』からすれば予想外であり、本気を出した『女神』を相手にまさかの善戦しているなんて思ってもみなかった。
そして東雲拓真という勇者がこんなにも規格外だとも思わなかった。『原初の魔王』は今回の遊戯は負けてしまったかと思いながらも、残る腕に気を巡らせ、迫りくる東雲拓真へと振り下ろしていった。
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