第18話 『捨てきれない美学」


 最強のフィジカルに耐性能力、全てを武技で圧倒できる手札の多さ、相手の力から逃れられる不認知の力、相手の能力を視ることで模倣し改良することのできる最強レベルの対策力。


 これほどまでに恵まれた神の力を持ちながら、12の尾を解放し『罪の牢獄』に『大罪』を償うまで永久に閉じ込める手に引っ掛かってしまったのだろうか。


 

「まぁ……ネタバレしたら対策されそうだから言わないけどさ」


「私がこんな気味の悪い火に囲まれた牢で永久を過ごす?」


「今までの『大罪』を償えば……すぐにでも脱出できるぞ? 互いに美学を捨てる必要があるけどな」


「『神』なる存在を容易に封じ込める能力が存在するわけありません。すぐにでも喰い破ってさしあげます」


(俺が色々失い、自分と対称の罪をそれっぽく言葉形にすること……しかも言葉にして示し合わなきゃいけないのに、それが容易な条件なのかね?)



 たかだか『原初』に選ばれた何番目だかも忘れるような『選択者』如きが色々犠牲にした程度で『神』を自身の理の中に封じ込めるような手が打てることが理解できないみたいだ。


 多くの条件と犠牲、最終的には自身の人生すらも捧げるとか言う、使い手からすれば最悪の力なんだがラスボス様からすれば容易な力であるらしい。

 俺が最後に配合することで爆誕させた最終兵器『天狐』の力。『大罪』に『神狐』『火焔皇』の『魔名』を継いだ最強のお狐様の『大罪』こそが罪の尾を具現化させる能力だ。


 

「まぁ……名前知られるだけで対策されても困るから絶対に明かさないけどな」


「本当に互いに不朽不滅の存在になっていますね。まずはその力の全てを視させていただきます」


「いやいやッ! この牢屋の完成で俺はお手上げだ。後は戦いたがりの皆に任せて永久の時を昼寝して過ごすさ」


「その程度の嘘を私が見抜けないとでも思っているのですか? この火牢が完成してから弱まっていた貴方の力が強まって行くことが感じます」


「今の力を十全に使うにはフィジカル猛者じゃないといけないからな。俺には向いてないよ」


「東雲拓真が『原初』に敗れた場合どうするつもりなのですか?」


「あれは負けないでしょ? 王道の勇者とは違うのかもしれないけど、あれは間違いなく最強の存在。俺が『原初』だったら怒り狂ってるね」



 『女神』が『大罪』の力と戦い方に怒っているのならば、『原初』も最強勇者に怒っても良いと個人的には思っている。

 拳1つで薙ぎ払っていく姿は王道に見えるのかもしれないが、実際の能力は理不尽そのものだ。選択者の力は『原初』と『女神』に通じるっていうルールが前提ではあるが、最強勇者の3つの能力は考えうる最強クラスの能力構成をしていると思う。


 勝手に自分が優位になる展開に『運命』が動く。『主人公補正』という具体的に何かは不明なモノに相手は振り回されるのが確定しているのがヤバすぎる。


 もし俺があの能力を持っているならば、『女神』との戦いだって正面から殴り合うルートを選んでいただろう。



「リーナという便利な目をせっかく途中から譲り受けたのに……本当に面白くないです」


「どうせそんなことだろうと思ってルジストルに投げたからな。序盤からいる隙の無い影のあるメイドは裏があるってゲームのお決まりみたいなもんだろ」


「とことんゲームを面白くなくする天才ですね。最終決戦からは逃げ、道中は初見殺しを押し付けて勝っていく」


「ゲームなんてのはプレイヤーが達成感や充実感を味わえれば良いんだよ。それを他者に押し付けるのは問題だと思うが、俺は俺なりにこの道中を満足できるような選択をしてきただけだ」


「……なるほど……数千年は脱出できないと言い切る理由が見えました。私たちは互いに他者の意見を受け入れられないタイプのようですね」


「あぁ……不滅の身体を使ってどちらかが折れるまで、とりあえずは一旦殴り合ってみようじゃないか、ウチの面々もアンタもそれで1度落ち着けるだろう」


「勝ったような顔をしていますが、『神』の力を侮らないほうが良いですよ。この牢を力技で脱してみせますから」



 お互い好き放題話をしていると、気付けば内容が一巡して戻ってくるのが笑えるところではあるが、『天狐』の『大罪』を完全に知られてしまった場合はもしかしたらこじ開けられるかもしれないな。


 片目に痛覚、一部能力なんかを失い、人間であったモノも捧げた。ゲームクリアによって元の世界に帰れることも無いだろう……なんせ元の世界の人間であった部分を捨てたからな。

 


「まずは貴方が来なさいッ 『大罪の大魔王』という舐めた存在を殴らないと気が済みません」


「まぁ……不滅だから良いんだけどさ。疲れたら後退するからな」


「その火の尾を理解することから始めるとしましょう。その紅と金の尾を引っこ抜かせてもらいます」


「んじゃ俺が交代コールしたら頼むぞ。どっか端によって順番決めててくれ」



 はーい、とウチの面々が気持ちよく返事をしながら『地獄の門』の端へとワラワラと寄っていくのを確認する。

 別に『罪の牢獄』を能力で囲って完全な牢にしているので階層の変化は可能なのだが、そこらへんも知られるまでは明かさず進めるのが良いだろう。


 銃も美徳も捧げて消えてしまったが、今の俺には新たな力があるのでそれを互いに不滅の肉体にてぶつけさせてもらうとしよう。



「我が手に灯れ『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』」



――ゴウッ!!



「……それは『火焔皇』の力……やはりその金の火尾は『火焔皇』の力ですか」


「ウチの嫁さんの自慢の『黄金の火』だ。ずっと憧れててさ……いざ使えるとなると震えるモノがあるな」


「消し飛ばしてあげましょう♪ 肉体は違えど『神』の力は偉大であることを牢破りで示してあげます」


「『大罪の大魔王ソウイチ』、好きなモノは不意打ち初見殺しッ! 最強と時間効率プレイが大好きな餓鬼んちょ様だ」



――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!



 さぁッ! 俺たちの長きに渡るであろう激戦は、まだまだこれからだッ!!



 

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