第17話 『罪の牢屋』


 『最初の火』『犠牲の火』『幸壊の火』『蝕命の火』『混沌の火』『正義の火』『否定の火』『受容の火』『運命の火』『輪廻の火』『烙印の火』『浄罪の火』、12尾に火が灯ったことで俺たちの当初の目的は達成された。


 『地獄の門』を12の力を持つ火で包み込み、『罪の牢獄』の名の如く、『大罪人』を決して逃がさぬ不朽の火牢。


 そして『罪の牢獄』全員集合と言わんばかりにウチの面々が集まった。

 さすがのラスボス様も様々な状況の急変に驚いているようだ。



「……おめでとうございます。ご立派な狐尾が12本も灯りましたね♪ これは油断できません!」


「……正直に言いなよ。こんだけ手間暇かけといて結果弱体化してんじゃねぇーよってさ」


「……最終決戦らしく盛り上げようとした私の努力を無駄にするのですか?」


「別にこれは強くなるための力じゃないからな。単純に俺たちは12個もの『大罪』に向き合いましょうって話だ」


「今から全力の戦いが幕を切るのではないのですか?」


「……そんなもんは『罪の牢獄』に来た瞬間から無理な話だな」


「この期に及んで貴方は最終決戦まで汚すつもりですか?」


「美しい殴り合いは『原初』と『最強勇者』が魅せてくれるさ! 俺たちはドロドロのクソゲーでも広げていこう」



――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!



 華やかであることが大体は約束されているであろう大詰めの最終決戦をクソゲー宣言されたラスボス様はお怒りの様子。

 だけど考えてみてほしい。俺が最後になったからといって真面目に力比べなんかするかどうかってのを……するわけないだろ? おそらく12尾の解放も自身を極限まで強化する技に見えていたからこそ許していたんだろうが、俺はクソゲー以外仕掛けられない。


 『大罪の大魔王』VS『女神』の殴り合いが展開なんていう『女神』しか喜ばない展開になんか持って行くもんかって話だ。


 『女神』の語る美学は大いに理解できる。

 1つの意見として凄く正しいことを言っているのは判るが、俺はそれでも自分が気持ちよくなれるなら何でも良い。

 実際のゲームだって、自分が気になって金を払ってプレイしてるんだ。他者のガヤガヤなんかに自分の気持ちよさを損なわれたくない。



「『12の罪火は永久の旅エクスピアーディオ』」


「……なんですか? この不快な火は?」


「どっか別次元に肉体だけ置いてきて魂を移動させて遊戯をしているお前には、俺と一緒に罪火を消すまで永遠に共同作業をしてもらう」


「何を言っているのですか? 結局は戦うと言うことですか?」


「いや……戦っても良いけど、互いの『大罪』を償うまでは絶対に死ねないぞ?」


「『罪の牢獄』……最初から勝つつもりなんて無かったのですね」


「最強勇者が『原初』に勝てばアンタの勝ちでゲームクリア。別世界から連れてこられた人たちは元世界だったり何なりと帰れるからな。言っただろ? 俺はアンタが次に悪ふざけ出来ないようにするってさ」


「私をここに閉じ込めたところで……『原初』は負けたとしても生きているのですよ?」


「成功してるか知らんけど託してきたさ。最強勇者にも愛火にも……そして次の世代にもな」



 ゆらゆらと火の尾が揺れる。

 点灯した順に奇数は紅色、群数は金色の尾というお洒落な外見をしているが能力的にはそれぞれの尾に備わっていて、『大罪』を示された者たちを償うまで永久に閉じ込めるのは『浄化の火』の力だ。


 使えるようになるまでに捧げなきゃいけないモノが多すぎるかつ、時間がかかるし、特定の相手にしか効果がないのにそんだけしか能力無いのかな……と思ったが、相手を閉じ込める力が異常であることが実験で分かったので安心だ。


 別に戦わずとも、各尾を灯すときに示した『大罪』を消すための条件をクリアしていけば、すんなりと脱出できるのだが……俺と『女神』はあまりにも色々な罪を重ねたから長い間出られないだろうな。



「……確かに肉体を捨てることが出来ませんね。こ、こんな最後をもってこの世界のフィナーレを飾るつもりですか?」


「まぁ『原初』と最強勇者が美しい戦いをしてくれるさ。俺たちはゲームがクリアされた後も何千年もかけて『大罪』を償っていこうじゃないか」


「……貴方の配下たちも一緒に償うと?」


「まぁ……みんな俺の一部みたいなもんだ。せっかく不朽不滅の存在になったんだし、アンタと遊びながら一緒に償いのためのルートを考えてくれるってさ」


「僕としては戦いたかったな~」


「どうせ儂ら一体一体に万全の対策をしてきておるじゃろうから面白くないぞい」


「妾は無限にお昼寝できそうじゃったから大賛成じゃ」



 俺は後世に色々託す想い、この無限とも思える償いの時間に向き合おうなんて思っていたが、みんなからすればこの不滅の時間を使って最強フィジカルラスボスの『女神』相手に色々実験していこうとしている。

 終わる頃には凄い経験値を得た『大罪』の魔物たちが誕生してそうだ。


 ラスボスと一緒に封印されるから、後のことはとりあえず他の人たちに託しましたよエンド……なんとも後味が微妙なエンドだし、最後の最後にきてド派手な戦いをしないなんてサッパリしないだろうが、俺はこれがベストだと思ったんだ。



「魂を縛るような牢獄……まずは本当に不滅かどうか試すところからですね」


「あぁ……やっぱ最後まで戦わないなんて無理っぽいな」



 怒りに震えるラスボス様を見て、俺は『大罪』を償い終わるまでどれだけラスボス様にボコボコになれるんだろうなと先のことを考えてしまう。


 俺たちが全てを終えて脱出することには、託した人たちが全てを解決してくれることを願うとしようか。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る