第16話 『最後の火』


 第11尾『烙印の火』を灯すことに成功した。

 『女神』が自ら多くを語ってくれたおかげで楽に点火できたので、一応ラッキーだったという風に思っておくことにしよう。


 捧げたモノは『不快之極』というアビリティだ。

 実は自分の能力の中で1番気に入っていた力だったので悲しいところだが、1番気に入っていたからこそ第11尾の薪になることができたのかなって思う。


 片目に痛覚、武器もいくつかの能力も失い……『不快之極』という即死攻撃に1度耐えられる保険すらも消えてしまった。



「……というか立ってるのもキツイんだよな」


「……そろそろ貴方の配下の数的にも終盤でしょうが、その状態で持つのですか?」


「我らがご主人様を舐めないでください」


「あら♪ 『大罪の魔王』の右腕様がご登場と言うことは、ここが最後の場なのかしら?」


「一応そのつもりだ。ようこそ『罪の牢獄・地獄の門』へ」


「『地獄の門』を管理するサタナエルことポラールです」



 コアルーム前最後の階層である『地獄の門』まで辿り着いた。

 時間にしてみれば一瞬だったかもしれないが、その一瞬で多くのモノを失ったので凄まじく濃密な短時間だったな。


 階層を移動してすぐにポラールが隣まで来てくれたおかげで、ボロボロの身体はどうにか最後まで守り通せそうだ。

 ここまで来たら控えている面子も安心して飛び出してこれるかと思ったが、先の殴り合い的に見ても、『女神』のフィジカルに対応できる控えはデザイアしかいないので出来ればポラールに頑張ってもらおう。


 ポラールの能力は1番と言って良いほど知られているはずなので、どんな対策しているのか不明だが、とにかく俺は最後の火を灯さなくちゃな。



「参りましょう。『怒涛ドラゴネス』と『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』の真髄をお見せしましょう!」


「……そういえば『原罪之欲シン・ディザイア』とかいう影の薄い能力ありましたね♪」



――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!



 俺の視界がポラールの転移によって一瞬にして変わる。

 気付けばポラールと『女神』から随分と離れた『地獄の門』の端まで跳ばされていた。

 階層全体が大きく揺れるほどの気のぶつかり合い、俺の見立てではポラールと『女神』は戦闘タイプ的に似ているだろうから武技とパワーの押し付け合いになりそうだ。



「第12尾は条件は簡単なんだけど……時間を貰うよポラール」



――ボッ!



 真紅の炎が俺の身体に少しずつ燃え広がっていく。

 まさしく敵の動きを受け止めた上で破壊してこようとしてくる王道なラスボススタイルが如くな感じで、なんとか最後まで駆け抜けることが出来た。


 互いが犯した11の大罪を薪にして、大魔王という器をも焼くことで成立する『天狐』の『大罪』。

 今考えてみれば、それっぽい感じにしていいという緩い条件ではあるが、罪の多さに自身を焼きつつ失うモノが多いというクソみたいな性能をしている。


 この創られた世界と、俺たちの元居た世界はある程度リンクしているらしく、ゲームクリアができた場合、一部の者は力を持ったまま元世界へ帰還することが出来るらしい。

 ……力を持ったまま帰還した奴なんてほとんど存在しないらしいけどな。



――ドシャァァァァンッ!



「『奈落天ならくてん大焦熱地獄だいしょうねつじごく』」


「あらあら♪ なるほど……これが『怒涛ドラゴネス』ですか♪」


「『焔覇大黒天掌ダイコクテンッ!』」


「『怒れる神の掌底シーラ・ナ・ギグッ!』」



――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!



 灼熱の大地が展開されたと思いきや、次の瞬間には天井までもが燃ゆる炎に包まれる地獄のサンドイッチな光景が一瞬にして視界へと飛び込んできた。


 ポラールの『奈落天ならくてん大焦熱地獄だいしょうねつじごく』が『怒涛ドラゴネス』された結果、同じ地獄が同時に展開されるという、まさしく地獄絵図な能力の使い方だ。

 もちろん燃費的には悪いので、俺はあまり好まないがスリップダメージ2倍というのは嫌らしいところだろう。


 しかも、ポラールの武技も『怒涛ドラゴネス』によって時間差でリピートされるため、さすがの『女神』でも攻勢に回るのは厳しそうだ。



「『焔覇八天黒閂クシナダヒメ』」


「これは厄介ですねッ! ずっとそちらのターンじゃないですか!」


「攻め手を渡す危険性を理解しているからこその行動ですッ!」


「『大罪の魔王』が己を削ってまで準備せずとも、先ほどの配下や貴方が最初から全力で向かってくれば良い勝負になったでしょうに♪」


「我々はそれが出来ぬからこそ秘密の手段に出ているのですッ!」



――ドドドドドドドッ!



 激しい打撃戦が繰り広げられている。

 最後の火が解放されるのが近づいてきているのを感じながら、絞り出せる全ての魔力を自分の身体を燃やしている真紅の炎につぎ込んでいく。


 ポラールの怒涛の武技祭りは『女神』を万が一にも俺のところへ転移するタイミングすらをも与えないがための選択なんだろう。

 スリップダメージが効いているのかは不明だが、ダメージ判定があるときは転移は発動できない仕様らしいので、そこを狙った良い環境支配な戦法だ。


 『天狐』の能力を使った秘密な奥義は、いつぞやに『原初』より送られてきた冒険者人形に魂を送り込んで遊べるやつで試した。

 自分たちの遊戯の元になっているらしき発言のおかげでこの戦法で行こうと決めれたので、使用頻度は多くなかったが……あの玩具には感謝しよう。



「アマツの死に際の呪いも完璧。そして俺とアンタが積み上げてきた『大罪』も、誰もが呆れるレベルで膨れ上がっててよく燃える」



 俺の身体を燃やしていた真紅の炎が少しずつ、地面を伝って『地獄の門』全域に広がっていく。

 『奈落天ならくてん大焦熱地獄だいしょうねつじごく』で至る所が燃え続けているから、パッと見じゃ俺から火が広がっているように見えないから気付きにくいだろう。


 あぁ……覚悟は前々から決めてたはずだが、いざとなると怖いもんだな。



「さて……若のビビる姿は面白いものだ」


「大将の決死の覚悟を笑うな」


「妾たちの出番が無かったのは助かったのぅ……おかげで昼寝が出来たぞい♪」


「そうですねぇ♪ 最後の仕事前に良い時間でした」


「クソッ! 俺も死ぬほど寝ておけば良かった」


「ご主人様、12本目の解放ご苦労様です」


「ありがとうポラール……まぁ後はなるようになるさ」


「皆さん大集合でどうなさるのですか? ついに全員で戦えるようになりました~! みたいな展開ですか?」


「そんな王道な展開が俺たちにあるわけないだろうよ。第12尾『浄罪の火』は灯った……こっからは償いのお時間だ」


「この階層燃え尽きてしまいそうですが……嫌ですよ、そんな地味な死に方」


「ここは『罪の牢獄』だぞ? 安心してくれ……もう罪を償いきるまで俺たちは不滅だからな」


「……はい?」



 最後の火は灯った。

 全ての『大罪』も揃った事なので、ラスボス戦の仕上げに参ろうか。

 世界の1番地味で後味の悪い……『女神』様が大嫌いな展開で締めさせてやらないとな。

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