第15話 『審判の呻き声』


 イデアの力で第10尾『輪廻の火』を灯すことに成功した。

 俺の見立てでは残り2本で灯す火は十分なはず……というか残り2本が俺の限界だと思うので足りて欲しい。


 捧げる薪も、体力的にも2本解放することで全て尽き果てそうなレベルではあるが、イデアの便利な『原罪』のおかげで耐久性が元に戻ったので道中は安定して行けそうな気がしてきた。


 一応全階層すぐにお助けに入れるように待機しているデザイア・シンラ・レーラズの3人が居てくれるので、ここからは3人の不意打ち時間稼ぎも狙いにしていきたいところだ。



「とっても良い運動になりました~♪ 完璧なダイエットですね」


「姿形を自由自在に変えれるんだから意味無いだろ」


「そういう正論をすぐ言うところも面白くないですね」


「……理不尽なラスボス様だよ」



 階層は変わり、ここは『大いなる大自然』というシャンカラが管理してくれている場所で、蓮の花が美しい自然溢れる穏やかな階。


 蓮の花を眺めながら、先ほどイデアの力で創造された竜種やらネメシスを千切っては叩き潰してを繰り返していた感想戦を1人で行うラスボス様。

 聞き流そうと思っていたのだが、あまりも純粋な感想が飛んできたのでツッコミを入れてしまった。


 シャンカラはすでに『雷霆ト天空ノ神インドラ』に『神化アヴァターラ』して正面から殴り合う気満々のようだ。

 今更正面から殴り合う必要あるのかなんていうことはシャンカラに言わない。ウチの中では王道を征くのがシャンカラだからな。



「このしっかりとやりきった達成感♪ これこそ遊戯に欲しいものですね!」


「アンタなら効率よく……敵に触れさせないまま勝つこともできただろうに」


「『効率』やら『時間』やら『強技』やら『ノーダメージ』やら……本当にゴチャゴチャ面倒ですよね♪ それらにも美学はあると思いますが、いつからそれを評価点として押し付けるようになったんですか?」



 思った以上にラスボス様がキレてしまわれて内心焦っている。


 『時間効率』『最強能力』『ノーダメージ』これらは俺的にこの世界を勝ち続けるために必要だと思って来た要素であり、いかにこの3つに辿り着けるかで内容を評価する基準点的なモノだ。

 ウチの陣営は誰もがこの3要素を多く持っているかが強さの上下にもなっているので、ここまでラスボスにブチ切れられる内容だとは思わなかった。


 俺も大人になってから少しゲームなんかはやっていて、現代では割とゲーマーたちが気にしている要素だと思っていたが、ラスボス様が大嫌いのだようだ。



「少しでも負けがこめばクソゲーと評価し、上手くやれない自分を正当化しようとクソゲー評価を他者に共感させにいく。時間効率と手軽さが武器や技の評価点となり、それらが足りないモノは存在から否定される……悲しいです」


「さすがゲームと言って世界を創る神様、何度試してその怒りに辿り着いたのかは聞きたくないな」


「次第に忌み嫌う評価たちが正当な評価点として一般化され、それらの評価点を声を大にして喚き続けた者たちの評価に多くの者たちが流されてしまう」


「間違ってないとは思うが、言い方もそうだし、アンタのその考えも多くの中の1つに過ぎないだろ」


「ゲームテンポが遅い・敵の配置や能力が意味不明・サブクエストが面白くない・報酬が全般的に少ない・仲間になるのが終盤の癖に役立たず……面倒くさい面倒くさい♪ 何から何まで貴方たちが気持ちよくするために用意してほしいのですか?」


「……まぁ俺もそれは思いそうではあるけど、そんなことを今押し付けて何が言いたいんだ?」


「そのくせ貴方たちが気持ちよくスムーズにやれる内容にすると、すぐにクリアできてしまう内容の薄いクソゲーだの、寄り道なんかせずストレートにやっても楽々やれちゃう薄味クソゲーだの……皆殺しにしたいです♪」


「こんな命懸けのゲームでそんな評価する敵さんがいたんだな」


「死に際の嘆きも含まれていますけどね♪ 貴方も生まれてから今まで散々口に出してましたよ」


「……まぁ……な」



 『原初』との遊戯を楽しむことに全てを懸けているのかもしれないんだが、こんなにも怒るのかよってぐらいドン引きしている。

 しかも俺に対する殺気が膨れ上がってきていて、俺が何するか最後まで見た上で殺したい発言を忘れたんじゃないかって感じで『女神』の目が極まってきている。


 あれ? 俺これ普通に殴り殺されるルートじゃないかと思った刹那、怒れるラスボスへと一筋の雷光が映った。



――バチバチバチッ!



「『真を撃ち抜け渦雷崩拳ルタ・プラマーナッ!』」


「ッ! 『神なる拳打の陣ゼロ・オレオーラム』」



――ドドドドドドドッ!!



「うわっ!」



 雷速と神速の殴り合い。

 今の俺にはほとんど見えていないが、痛々しい打撃音が穏やかな大自然に鳴り響き、その打撃戦から生じている衝撃波が周囲を吹き飛ばしていく。


 俺もシャンカラと『女神』の打撃戦からくる衝撃波に簡単に飲み込まれて吹き飛ばされてしまう。

 ラスボスの話をしっかりと聴くし、それでもって戦闘方法は正面からの殴り合い……『女神』の好きそうなタイプだから楽しんでそうだな。



「まぁ……これ同じこと言ってるかもしんないけど、結局俺もアンタも一々評価しすぎなんだよな。しかも勝手に評価してそれを正論みたいに周囲にも言ってるときがあるからたちが悪い」


「『不変の月光、雷クータスタ・鳴を裂く刃となりてカウムディーッ!』」


「ハァァァァァァァッ!」


「ウッ!? ……色々ヤバいな!」



――バリバリバリッ!!!!



 シャンカラと『女神』激しい攻防もヤバくなってきたが、第11尾の火を灯せそうだが、イデアの力で再構築した身体をもってしても気怠さが半端ない。

 おそらく痛覚を捨ててなかったら痛みで叫びまわって死んでたかもしれないな。


 眩暈と激しい気怠さに襲われながらも、俺は第11尾を解放するために自身に火を灯す。

 あれだけ語ってくれたから、それっぽい感じで燃やすのは簡単だったのはありがたいことだ。



「さぁ……第11尾『烙印の火』の点灯だ。残るは1つ、俺の魂が消えちゃう前に終わらせに行こう」



 残り少ない体力、そして燃え尽きてしまいそうな魂が灰になる前にと、俺はおそらく楽しく打撃戦を楽しんでいる2人を現実に引き戻すように……最後の階層へと世界を変えた。

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