第14話 『創造主』


 阿修羅の出し惜しみの無い力技のおかげで、第9尾の解放まで辿り着くことができた。『女神』との殴り合いは本気の阿修羅であっても厳しかったようで、『原罪』を解放しながらも、階層を切り替える直前ではボロボロになっていた。


 さすがに1度見せた『原罪』は対応策なり何かしらの解答を持ってきているようで、『天狐』を誕生させた選択が本当に正解だったなと改めて感じた。


 階層は変わり、『鬼の花道』からイデアが管理する『白い塔』へと世界が切り替わった。



「……これまた随分とボロボロにされたね」


「されたじゃなくて……自分からボロボロになっただけどな」


「アマツが1撃でやられたのは報告受けたけど、ここまで生き延びただけ良い感じかな?」


「そうだな~……ラスボス様が俺の最終手段を知りたそうにしてるから、油断しなきゃ最後まで行けそうだな」


「ラスボス様には私が創り出した子たちと遊んでてもらおうかな♪」



――ギャオォォォォォ!



 俺とイデアのいる塔の最上階から外周を見てみると、イデアが創りだした大量の竜種&ネメシスと戯れている『女神』の姿が確認できた。

 数の暴力をものともせず、その身1つで巨大な竜種たちや様々な武装を用いるネメシスたちを粉々に砕いては叩き潰していっている。


 あまりの蹂躙劇にイデアは渋い顔をしているが、相手が相手なので仕方ないといった感じですぐさま切り替えていた。



「残り何本程度で完成の予定なんだっけ?」


「おそらく12本くらいで足りると思う。ここまで『大罪』持ちは欠けてないのが良い感じだ。アマツの渾身の頑張りも効果ありそうだしな」


「私が創るよりも速く殺されて行っているから……あんまりもたないよ?」


「スキルなんてものは使わずとも敵を粉砕できる力……まさかハクと同じタイプだったなんて考えなかったな」


「あれだけ人間に能力布教してるのにね」


「能力は身を護る技だけあれば良いみたいなスタンスっぽいもんなぁ……あれが出来たら誰も苦労しないっての」



 イデアが創造する魔物たちは決して弱いわけでないし、耐久力だけ見ればSSランクとも言えるようなのはたくさんいるのに、次々と空中で薙ぎ倒していくラスボスの圧巻の姿を見ると……今更ながら恐怖を感じる。


 俺にはあそこまで戦いを楽しもうなんてことは出来ない。どれだけ自分が優位な立場であっても、あんなにも笑って敵を屠ることは絶対に出来ないだろう。


 先ほど人間の名を捨てたことで、この世界から戻れたとしても……おそらく人間じゃない何かだったり、そもそも人間で無くなった存在なのだからこの世界から逃れられないのかもしれないが……そこまでしても残り3つは燃やさないといけないのは難しい問題だな。



「自分の可愛い子たちが、ああも簡単に壊されて行くと、ラスボス様の感情も少し理解できる気がするね」


「俺たちが今の『女神』みたいに好き放題暴れてたって感じか?」


「……うん。あんなに無残に破壊されちゃうと想うものがあるよ」


「創った側と、それに対峙する側の考えや思いは、なかなか交わることが無いってのは難しい話だな」


「私たちと『女神』の考えが交わらないのと一緒だね」


「先から色々ラスボス論を聞いてるけど、確実に相容れないからな俺たち」



 製作者とプレイヤーでの考えの行き違いなんてのは、よく聞く話である。

 互いに目指しているところが違っていたり、面白いポイントの捉え方だったりと、それは時代だったり製作者とプレイヤーのそれまでの歩み方によっても大きく変わってくるだろう。


 どれだけ製作者側が面白いポイントだと主張しようと、プレイヤー側が面白いと感じることができなければ、せっかくの作品は駄作だと評価されてしまうことがある。


 イデアが創り出してくれた魔物たちも、本来であれば強くて耐久に優れた子たちのはずなのに、『女神』からすれば特に記憶にすら残らない雑兵程度だと認識されているんだろう。



「創造主だからって好き放題やった『女神』、創造主の意図を全て無視して好き放題した俺たち……まぁ何度も出てる答えなんだけど、互いに自己中すぎたよな」


「燃やす前に少し出来る限り頑丈にしておくから待って……『天威創生・悪の宇宙プレーローマ』」



――キィィィィィン



 イデアの『原罪』である『創悪クチーナ』の力が塔の最上階に広がっていく。

 ボロボロ限界のクソ雑魚になってしまった身体を12本目解放まで持つように手早く造り替えてくれるみたいだ。

 魔王の身体すら好き放題にすることができるって、今考えるとイデアの『原罪』とんでもなく強く無いか? 戦闘向けじゃないなんて自分で言ってるけど、無限の可能性が見えるぞ。


 『創悪クチーナ』の魔力が俺を包み込み、痛覚がほとんど無いので何が行われているのか感じないが、少しずつフラフラとしていた意識が明確になってきて、気怠い感じも消えてきた。



「『不完全生成の秘儀エレシウスノヒギ』……肉体は少し頑丈になったけど、私の『原罪』でも失われた機能は戻らなかったから我慢して」


「イデアの『創悪クチーナ』でもダメとなると……逆に天狐の力に信用性が出てきたな」


「もう9本目解放してるんだから……ダメだったら終わりじゃない?」


「確かにそうだな。……元気になったし、10本目行きますか!」


「時間無いから巻きで頑張って」



 互いの『大罪』は先の製作者側とプレイヤー側の身勝手のくだりで大丈夫そうだが、問題は第10尾にまで来ると、何を薪にすればいいか難しいところだな。

 さすがに片目を捧げてるから、もう片方行くと何も見えなくなって詰むし、腕や足も困るし五感もこれ以上は出来れば勘弁しておきたい。


 ちなみに尾の数が多くなるほど捧げなければいけないモノの価値が大事になってくるらしい……誰も試したことがないから確かな情報かどうかは微妙だがな。



「来い……『大罪の天魔銃アポカリプス』」



――ボウッ!



 俺は数少ない俺の攻撃の要である『大罪の天魔銃アポカリプス』を召喚して試してみたが、火が灯ったので成功判定のようだ。

 これで『美徳』も『大罪の天魔銃アポカリプス』も『罪の魔眼』も失ったので、肉体はイデアに修繕してもらったが戦えるパワーはほとんどなくなってしまったな。


 今だったら俺単騎の戦力は最低レベルにまで下がっているだろうから、『女神』が実験体なんかを呼び出したりしたら殺されかねない。


 そうだとしても……どんなリスクがあったとしても、ここまで来たなら行くしかない。



「『輪廻の火』を第10尾に……残り2本で完成できそうだな」


「ここまで時間にしてみれば3分程度だけど、あれだけ用意した子たちが3分で壊滅させられるのを見ると……この作戦で良かったかもね」


「ゴール直前だからこそ、気を引き締めていこじゃないか」



 俺は残り2本の解放を急ぐために、イデアとの会話を打ち止めして階層を切り替えた。

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