第5話 『互いの大罪』


――バキバキバキッ!



 フェルの『氷月ノ神魔槍グングニル・ハティ』と『貪り縛る足枷グレイプニル』という拘束に特化した2つのスキルを中心に、どうにか『女神』の動きを少しの間止めて、色々観察しようと試みているのだが、今のところまったく通用していない。


 一瞬だけなら凍ってくれたり、『貪り縛る足枷グレイプニル』に少しだけ絡まってくれたりするんだが、微笑みを崩さぬまま容易に抜け出されてしまう。


 先ほどまで違って、フェルのスキルは何もせず受けるようなことはしていないところを見ると、やはりSSランク以上なら一応通用はしそうだ。



「フェルの動きも容易く見抜き、あの拘束技の嵐も効かないのは嫌だな」


「ラスボスが正面からの殴り合い以外で用意に倒れるようでは……遊戯として面白くないでしょう?」


「やっぱりそこなんだな。俺とは本当に相容れない考え方だ……気付かれず迅速に殺すほうが確実だろうに」


「その思想が世界を壊しました。『大罪の魔王』の名の通り、遊戯を壊す『大罪』です」


「平和に暮らす人々を駒に遊戯をしてる『大罪人』が何言ってんだ」


「無駄に増え続ける人間を神の遊びに参加させてあげているのですよ? 我々を倒せば与えた力を持って元の世界、又は別世界を支配できると言うのに♪」


「……なんだと?」


「あらあら♪ 少し話すぎてしまいましたか?」



――ワオォォォォォンッ! バキバキバキッ!



 『女神』の口から衝撃的な発言が放たれ、あまりの衝撃に隙を見せてしまった俺をカバーするようにフェルが動いてくれた。

 響き渡る遠吠えとともに放たれるのは『氷月ノ神魔槍グングニル・ハティ』と『貪り縛る足枷グレイプニル』、2つのスキルは地面と空中の両面から『女神』を囲い込むように放たれる。


 フェルの代表する2つのスキルを放っても2秒も動きを止めれないのだが、俺があまりの衝撃に隙を晒したのが悪いので、素早いカバーをしてくれたフェルには感謝しかない。


 フェルの特殊状態異常の『災禍』が効いてくれていれば話が変わったのだが、さすがラスボス……状態異常が全然効かない。俺のスキルも含めてだ。



――バキンッ!



「ほんの少しですが、一々凍らされては風邪を引いてしまいますね」


「風邪って概念存在してっるのか?」


「私の気分次第ですかね♪ そこの狼さんは何度も見ているので通用しませんよ。さすがに今まで見せすぎましたね」


「グルルルルッ」


「状態異常効かないのが俺たちに効きすぎるぞ」


「言ったでしょう? ラスボスですよ……と」


「ステータス化け物で火力も凄い、まだまだ変身を残していて正面からの殴り合いに特化できるような力があるってことね」


「概ね正解です。貴方のようなタイプがラスボスなのは私は認めることができません。邪道であり『大罪』です」


「アンタみたいに自分の命がかかっていないゲームだったら良い意見だが、こっちは命がかかってるんでな」


「私も魂を一時移しているので、この身体が活動中は本体が動けないのですよ? 貴方が手に入れていた人形と同じようなモノです」


「それのせいで、何度でも世界を創って、何度でも遊戯が出来るってか……それこそ俺たちからすれば特大の『大罪』だ」



 フェルのスキルもまるで通用せず、俺が眉間に皺をよせて困っている姿が余程気持ちが良いのだろうか、『女神』はなんでもペラペラとお話してくれる。

 おそらく肝心なことは言っていないし、今まで言っていることも過去の話から推測できそうなモノなので、あくまで会話のキャッチボールを楽しんでいるようだ。


 ラスボスモードの『女神』の基本的なスペックが、とりあえず見えてきたので収穫としては良いのではないだろうか? みんなが考える最高の『勇者』のような正面からの堂々ファイトに持っていける力と、神としてのインチキ能力ってところらしい。


 『女神』と楽しい会話を広げていると、フェルから凄まじい気が溢れだした。



――ワオォォォォォッ! バキバキバキッ!



「あらあら?」



 『女神』の足下から一瞬で天に向かって巨大な氷柱が伸びる。

 『女神』を閉じこめながら天に向かって伸びていく巨大な氷柱は、荒野を徐々に凍土に変えていきながらダンジョンの天井まで伸び切って完成した。


 フェルが放てる最強の拘束氷技である『神を凍死させる氷獄柱グラン・ブリザード』、発動から拘束、完成までが凄まじく速く範囲も広いという最高スペックの拘束スキルだ。

 今のように不意打ち気味で放てるのが1番の強みだし、相手の足下ピンポイントで発動できる……今まで見せていないはずのスキルだ。


 さすがに10秒以上は『女神』の動きを止めてくれるはずだ。



「まずは自慢でも無い赤メッシュの部分で良いか……告白した罪とともに捧げよう」



――バチバチッ



 俺の身体が所々燃え始め、髪の色が少しくすんだ白色に変化していく。元々の色が色だから、そこまで変化してなさそうだが、痛みとともに髪が変化していくのが分かる。

 これが俺がラスボス戦の切り札として用意した最後の『大罪』、それの準備段階だ。

 とりあえず俺と『女神』、互いの罪を曝け出し合い……俺は自身の何かを捧げることで存在を昇華させてもらうことにする。


 まずは1尾……まだまだ無数にあるだろう互いの『大罪』を曝け出し、己をどこまで捧げられるかの勝負と行こうじゃないか。



「まぁ……アンタは自分の身体を犠牲にするなんて絶対嫌だろうけどな」



――バキバキバキッ! バリィンッ!



「……あら? この数秒でイメチェンしたのですか? 少し髪の色が汚くなりましたよ?」


「こっからアンタが止められるたびに……どんどんお洒落になっていこうかなって作戦だ」


「勝つ気があるのかどうか知りませんが……見る分には少し面白そうですね」



 フェルの最強拘束スキルである『神を凍死させる氷獄柱グラン・ブリザード』が10秒も経たずに崩壊していく様に今更衝撃も受けることなく、俺は特に傷も何もない『女神』と再び会話を広げる。


 人間からしたら最悪の災禍、巻き起こる邪悪を封じる狼の氷天を持って第1尾とさせてもらう。



「ありがとうフェル……次の階層へ行こうかラスボス様よ」


「切るのが速いのは良いことです。どれだけ進もうと全てを砕いてあげましょう」



 俺は余裕の表情を見せる『女神』、そして自身の身体を蝕みはじめた燃えるような痛みにイラつきながら、次の階層へと世界を変えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る