第4話 『罪雨』


 『世界創造罪徳天ワールド・クリエイト・【大罪の牢獄】』。

 簡単に言えば対象を『罪の牢獄』へ招待する俺の奥義的なスキルであり、どこでも入り口を創れるので、『七元徳』と同じような流れで1vs1に持ってかれると前々から想定していた俺が、今日の今日まで隠してきた手札である。


 俺の手札を全部粉砕してから殺すと宣言していた『女神』は、特に抵抗することなく『罪の牢獄』へと招待することができた。


 各階層のギミックを順々にぶつけていき、最後まで凌がれた場合、このスキルは解除され元の空間に戻るのだが、とりあえず俺が『女神』に連れ去られたことが皆に伝わるし、俺が『世界創造罪徳天ワールド・クリエイト・【大罪の牢獄】』を発動したということが、どれだけピンチを物語っているのかを伝えることができるので良い選択だったと思いたい。


 『女神』は自身の格好を白と金の軽鎧スタイルへと変化させ、最初の3フロア分を何事も無かったかのように粉砕した。



「そういえば貴方はGランクしか召喚できない縛りがあったのですね」


「それが無ければ今頃……とんでもない戦力だったと思うぞ」


「大魔王が創り上げたダンジョン……その内3フロアがこれでは悲しいですね」


「ゴブリンやスケルトンだって、ダンジョンには重要だと思うんだけどなぁ」


「お次の階層はどうでしょうか?」



――ドドドドドドドドッ!



 ダンジョンの景色が灼熱火山に変わり、現れた偽イブリースから放たれるのは腐敗の力を宿した炎弾の雨。

 降り注ぐ偽イブリースからの攻撃をまるで無いかのように、抵抗することなく受け入れる『女神』、まったく傷も無ければ腐敗の影響も無く、燃えていることもないのでまったく効いていないと言って良いだろう。


 さすがにこの階層の力では意味が無さそうだな。とりあえず受けてくれるなら時間稼ぎにもなるし……ゆっくり見せてもらおう。



「貴方の配下にもいると思いますが……一定レベル以下の力は受け付けませんよ?」


「あぁ……それは本当に時間の無駄かもな。ご丁寧にどうも」


「二度と貴方のような選択者に遊戯を台無しにされないためにも、ここで貴方の全てを学び……そして否定することで、今後の遊戯を楽しむのです」


「俺のこと嫌い過ぎて笑えないな」



 『女神』の防御力はSSランクからじゃないと何も通りそうに無いので、マスティマとグレモリーが務めてくれている階層である『崩壊した楽園』まで一気階層を進めることにする。


 空に浮かぶ崩壊した都市、人の気配がない瓦礫の山と伸び放題な草木の世界、そこに待ち受けてくれているのは2体の悪魔。

 脳筋に見えて万能型のマスティマと、敵の見抜き的確に弱点を突くグレモリーは『女神』の姿を捉え、行動させる間もなくスキルを叩き込む。



「『審判の日・天堕ジャッジメント・デイ』」


「『虹描く魔導ノ砲弾エレメント・フレア』」



――ゴシャァァァァンッ!



 白と黒の光が『女神』の足下より天に伸び、グレモリーの周囲に展開された七色の魔法陣から各属性を宿した魔弾が放たれる。

 

 階層が変わった瞬間に放たれた不意打ち気味の2つのスキルは『女神』に何もさせる間もなく直撃させるが、天に伸びる光の中に姿勢の変わらぬ影が1つ。



「ふむ……通常のダンジョンと違って、そちら側で任意に階層を跳ばせるのが厄介ですね。お得意の不意打ちを喰らってしまいました」


「……どっからどう見てもダメージ受けてないだろ」


「貴方もこのレベルの攻撃で仕留められると思っていませんでしょう?」



――ドシャァァァァァァァ!



 まるでマスティマとグレモリーのスキルが存在していないかのように、俺のツッコミに対して律儀に返答してくれる『女神』、あの軽鎧が凄いのか、何かしらのアビリティで防いでいるのか……それともステータスがとんでもなく高いのかってとこだ。


 俺たちのことを、今後遊戯を楽しむための傾向と対策と認識しているようで、とりあえずは全部見てやろうという……最高に上から目線でムカつくのだが、自分のダンジョンに引き込んでおいて、ここまで余裕持たれるとコチラが少し焦ってしまいそうだ。



「ハッ!」


「「――ッ!?」」



――ドゴォォォンッ!



 『女神』から放たれた気によって、マスティマとグレモリーは仲良く吹き飛ばされてしまった。

 あんなピンポイントで気を当てて吹き飛ばすって……やっぱ『女神』は武闘派タイプなんだろうか? 実験体や勇者に与えた力を見るに後衛タイプの線も考えてたんだけどなぁ。


 さすがにSSランクでは歯が立たないようなので、次の階層である『荒れ果てた荒野』へと移動することにしよう。


 景色が星空に覆われた寂れた荒野へと姿を変える。



――バキバキバキッ!



「あらららら?」


「ワオォォォォッ!」



 不意打ちはやはり効くようで、フェルの『氷月ノ神魔槍グングニル・ハティ』によって、『女神』の身体がゆっくりと氷漬けになっていく。

 何故か氷漬けになっていく自身の身体を見て楽しそうに微笑んでいるが、一応僅かな時間を稼げそうだ。


 近寄ってくるフェルを撫でながら、改めて『女神』について考えてみる。



「相当今回の遊戯で俺がしたことが嫌だったみたいだな……次無いように俺を完全解剖して、今回みたいなことを繰り返さないようにするって感じか」



 俺として即殺されなかったので一安心だが、じっくり耐久型で来られるとやりにくいものがある。

 出来ることなら攻撃的でいてもらって、隙をついて全力叩き込めば殺せますよぐらいのスタンスで居て欲しかった。今の耐久型だと完全に受け身になられて隙がまったく見当たらないし、フェルのスキルでも笑って受けられるとなると、本格的に雲行きが怪しくなってくるな。


 おそらく……『天狐』以外全ての手札を知られてる可能性がある気がしてきた。あんな簡単にダンジョン内にいる俺を的確に狙い撃ちできたんだから、模擬戦やら何やらも知られてるのかもしれない。


 ……そうなると本当に最終手段で行くしか無さそうだ。



――バキバキッ! バリンッ!



「思考のお時間は終わりましたか?」


「……そうだな。俺とアンタの『罪』でも数えることにするよ」



 互いの犯してきた『大罪』を語りながら……牢獄の奥地まで行こうじゃないか。


 

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