第22話 ようこそ『至高天』へ


――ラァァァァァ♪



 コウリュウの龍鱗から放たれる不快な金属音と、『天獄界・ヘル&ヘブン  第六天・木星天ドミナシオン』によって出現した数体の人型精霊の美しい歌声が響き渡る。

 

 2つの音が交じり合い、ポラールとコウリュウの周囲の空間が歪んでいく。

 『第六天・木星天ドミナシオン』の精霊たちの歌声は聴いた者の精神に効果があり、幸福感に包まれながら自害される力があるのだが、コウリュウから放たれる金属音が完璧に歌声を相殺している。


 こんな完璧に読まれることなんてあるのかってぐらいコウリュウの対応が上手すぎる。

 天獄の順序が完全に読まれていることもポラールも気付いているだろうが、今回は順番通りに天獄を展開していく必要があるため変えようがないのだ。



「しっかり勉強をなされているようですね」


『さすがに気付いたか……貴様らの主がいた世界の逸話であったり神話というモノが、貴様らの能力原型になっておりのを聞いてな』


「なるほど……『原初の魔王』か『女神』どちらかが教えたのかは知りませんが、我らがここに来ることは予想されていたということですね」


『然り』


「なれど我は曲がらずというやつですね。『天獄界・ヘル&ヘブン  第七天・土星天ラピス・カルカリウス』」


『『天牢重落』』



――ギギギギギギギッ



 コウリュウの周囲に大量の金剛石のプレートが出現し、コウリュウを固めるために次々と襲撃するが、コウリュウの身体から黒い波動が放出され、プレートが次々に地面へと落下してしまった。


 魂に反応し、敵を金剛石のプレートで拘束し永遠に封印するという『天獄界・ヘル&ヘブン  第七天・土星天ラピス・カルカリウス』だが、コウリュウの『天牢重落』による下方向への超重力によってプレートを機能不可にする……対策してきたとは言ったが、内容聞いただけでこんな完璧にやってくるもんなんだな。


 ポラールは防がれようが何でも良いから素早く最後まで展開していこうという組み立てに完全に切り替えているな。



「『天獄界・ヘル&ヘブン  第八天・恒星天レシデンシア』」


『『天星崩界』』



――ゴゴゴゴゴゴゴッ!



 ポラールの周囲に虹色に輝く7つの光球と、十二宮が突如として出現する。

 『第八天・恒星天レシデンシア』は世界に現れた十二宮がポラールに虹色の光球を付与し、十二宮が全て破壊されるまでポラールを全ての事象から守る無敵の状態にすることができるという、なかなか珍しいタイプの地獄だ。


 そんな『第八天・恒星天レシデンシア』が発動された瞬間、コウリュウが返したアクションは十二宮へと降り注ぐ高速隕石群。

 十二宮が出現した瞬間に降り注いできたのもあり、ポラールも自身の視界を遮る隕石を破壊したのだが、十二宮に降り注ぐ隕石を防ぐことは叶わず、『第八天・恒星天レシデンシア』が一瞬にして破壊されてしまった。


 ポラール的にも、次の段階に進むのを考えたら、わざと守らなかったのかもしれないな。

 コウリュウは完璧な自身の『天星崩界』に少し満足げな顔をしている。


 本来なら1つ1つが絶大な力を持つ『天獄界ヘル&ヘブン』だが、ポラールが最後まで駆け足で進めているってのもあり、今のところ使い捨てみたいになっており、コウリュウの自動体力回復が凄いそうなのも相まって、削ることが全然できていない。

 『絶望的デッド・エン六法則ド・シックス』の対象にもなっていないだろう。


 

 「『天獄界・ヘル&ヘブン  第九天・原動天ホーロロギウム』」


『『天禍瞬効』』



――カチッ!



「……元々戦闘タイプも似ていてスキルまで似ているとなるとは思いませんでしたね」


『その小さき身体で、これほどまでの世界を変える力……少しは認めてやろう』


「『第九天・原動天ホーロロギウム』の超加速は知られていても問題無いと思いましたが……面白いです」


『舐めるでない』



 俺も何があったのか目に見えていなかったのだが、2人の会話から察してみると色々あったようだ。

 『第九天・原動天ホーロロギウム』はポラールのみ、1秒という時間で10秒分の動きを出来る加速状態になるというモノなのだが、コウリュウの『天禍瞬効』も同じ加速状態になるものだったようだ。


 お互い一瞬の時間の中で、互いに加速していることが分かったので動くことが無かったと見て良いんじゃないだろうか?

 俺なんてポラールに加速されたら1秒で20回は殺されるだろうに……。



「それでは……ようこそ『天獄界・ヘル&ヘブン  第十天・至高天ブラゾン・エンポリオ』へ」


『『天龍転生ッ!』』



――ラァァァァァ♪



 世界が銀色の光に照らされ、ポラールの背後に巨大な銀色の薔薇が咲き誇る。


 それに対しコウリュウのほうは、咆哮をあげた後、何が起るのかと思えば脱皮のようなことを行っており、何度も白くなった鱗やら皮が剥がれ続けていく。


 『天獄界・ヘル&ヘブン  第十天・至高天ブラゾン・エンポリオ』、天獄の最後の段であり、『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』の最終形態の1つだ。

 ポラールの背後に咲く『天上の薔薇ベアトリーチェ』を視た者や近くにいる者に効果があり、相手の思考を無限の彼方へと旅立たせ、『天上の薔薇ベアトリーチェ』が咲き続ける限り、ポラールは永遠不滅の存在へと昇華するという効果だ。


 本来ならば、発動した瞬間にコウリュウの思考は彼方へと旅立ち、肉体は停止するはずなんだが、永遠と脱皮を繰り返しており、さすがのポラールもその有様に苦笑いを浮かべている。



「……なるほど。今まで蓄えてきた力で死と再生を繰り返すことで、死亡時に受けていた力に耐性を得る能力ですか」


『……30回滅びねば耐性がつかぬスキル……そのスキルは『最強』と認めてやろう。だが我が力は不敗なり』


「ハクとデザイアに破られた時点で、他にも抜けてくる者はいると思っていたので問題ありません。私の目標は『天上の薔薇ベアトリーチェ』を咲かせることで達成されました」


『我は耐性を得たッ! その不滅になる力をも今では喰い破れるのだ。残るは貴様らの切り札である『原罪』とやらだけであろう?』


「貴方が頑丈なのは認めましょう。その頑丈さは『大罪』を司る者たちには無い力です。ですがその程度で私の『原罪』を覗けると思うのは少々浅はかではありますね」


『ほざけッ! 『龍皇の咆哮ゼタブレスッ!』』


「誇り高き龍皇に『怒り朽ちる渇望』の理を! 『真覇渇望・原罪アヴェスター・を抱け怒りの理までディエスイーラ』」



――グオォォォォォォォォッ!



 凄まじい勢いでコウリュウに魔力が溜まっていくと思った瞬間、ポラールの背後に咲いていた『天上の薔薇ベアトリーチェ』が散っていく。

 その散りざまをコウリュウが見た瞬間、藻掻き苦しむ唸り声をあげながら、コウリュウが天から落ちていく。


 落ちていくコウリュウの身体が少しずつ崩れて塵となって消えていく。


 『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』の『天獄界ヘル&ヘブン』を最初から順に使用していかないといけないとかいう面倒な条件を満たして使用可能になる必殺スキル『真覇渇望・原罪アヴェスター・を抱け怒りの理までディエスイーラ』。

 効果は『天上の薔薇ベアトリーチェ』の効果範囲内に存在していた者に『理』を1つ強制することができる。この強制は『絶対』という力を捻じ曲げるので、今のコウリュウは止めることのできない『怒り』という感情に支配され、怒れば怒るほどに自らの肉体と魂は朽ちてしまうという筋書きを強制されてしまった状態だ。


 まぁ……『女神』が面白くないというのも今の戦闘を見てもわからなくもない。激しいぶつかり合いもなく、お互いその場から動くことも無くスキルをぶつけ合い、概念を捻じ曲げて何かしらの手法で殺すという盛り上がりにかける戦いだからだ。


 だけど、俺はこの戦いは1番好きだ。そして『女神』にはもっと面白くない戦い方で勝とうって思っているからな。

 

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