第20話 『来訪者』
おそらく真名持ちであった黒竜騎士、そして数えきれないほどやってくるドラゴンたちを退けることに成功した俺たちは、『皇龍』のダンジョンから援軍がやってこないか気を張りながらも、聖都上空で心温まる会話を広げている。
聖都への攻撃が落ち着いたということは、ダンジョンに送り込んだ最強勇者が大暴れしているってことだろうから、『皇龍』の本体が暴れはじめるのも時間の問題なんだと見ている。
最強勇者は能力で道に迷うことも無いだろうし、他のお仲間っぽいのもシンラが跳ばしたようだから上手く連携とってやっているはずだ。
俺たちがここにいる限りは安心して暴れてくれると信じておこう。
「ソウイチの配下たちの中でも見かけたことは何度かありましたが、転移以外の能力を使用していたのは初めてかもしれません」
「まぁ~……この大きさだから別空間から出てこないし、本人もガンガン戦うって性格してないしな」
「かなり戦闘向きな外見はしていますけどね」
ウロボロスに感心するアイシャの質問に真面目に答えている。
ウチの面々の中でもシンラやレーラズと並んで表で戦闘したがらないのがウロボロスだし、『
ウロボロスは『
Lvを下げれるデバフは、俺の中では最強デバフの一角だと思ってるくらいには凶悪だからな。
「アイシャの火力も俺からすれば驚きだ。『黄金の火』強いな」
「相手の意表をつくような立ち回りは出来ませんけどね」
「元々そんな意表をつこうと思うような性格でもなければ、戦い方しない癖に」
「私が『大罪』であったら考えが変わっていたかもしれません」
「アイシャが『大罪の魔王』だったらか……面白そうだな」
アイシャとダンジョンからの襲撃を警戒しながら会話を広げていると、ガラクシアとポラールが戻ってきた。
ウロボロスの頭上でのほほんとしている俺たちとは違い、2人はどこか悩まし気な表情をしていた。
「ご主人様……『女神』候補がすぐ近くにいると思います」
「よく掴めるな……それにしてもやっぱ来てたのか」
「私は何となく掴めるようになってきました。イデアもそんな感じはしてそうですが……」
「マスターには確信無かったから言わなかったけど、この感じはやっぱりそうなんだね」
『……本当に面白くな陣営ね』
「おぉ~……なんかやっぱエルちゃんが『女神』だったのか」
現れたのは久々に見たエルちゃん……という皮を被った『女神』。
俺たちの予想は正しかったのが証明されたのが嬉しいのと同時に、こんな20m範囲内まで近づかれてるのに、まったく気付けなかったことに少し恐怖心が出てくる。
いきなり毒づいてくる感じ、本当に俺のやり方が面白く無さ過ぎて、『原初』とのお遊戯もどんな形でも良いからとっととぶち壊してやりたいって思ってるのが滲み出ている。
相当嫌われてしまったものだが、元よりこいつらに好かれてやろうなんて思って無いから構わない話だ。
『『大罪』はここで私が殺しても良かったのだけれど、この『皇龍』と『東雲拓真』の戦いだけは『原初』から台無しにするなって言われてるから何もしないであげる』
「んじゃ……わざわざ何しに来たんだ?」
『さぁ……なんででしょうね?』
「俺からすれば碌なことじゃないってのが嫌なんだよなぁ……せっかく気持ちよく話してるんだから勘弁してくれ」
『東雲拓真は勝つでしょうから……これで両選択者が辿り着けさえすればいつでもラストマッチできる段階になりました』
「次会った時が最後的な?」
『そうなると思います。この『原初』のお楽しみが終わったらすぐにでも会いに来て良いですよ。東雲拓真が『原初』と戦うより先にお願いしますね』
「俺にヘイトが凄すぎるだろ」
『せっかくの楽しみを台無しにした者ですからね。たくさん苦しませて殺してあげます』
「今まで通り……つまんない戦いで勝たせてもらうさ」
――ギャオォォォォォッ!!!
世界が震えた。
最強勇者と『皇龍』が戦っている空に浮くダンジョンから響き渡る竜の雄叫びが、世界を大きく震わせ、『女神』という最大の脅威と話をしていたというのに……一瞬『女神』の存在を忘れてしまうくらいに呆気に取られてしまった。
鳴り響く雄叫びから一瞬、聖都にまで届くのは『皇龍』の濃い気配と魔力。
「……『女神』は最強勇者の大事な殺し合いを観戦しに来た感じだったか」
「いなくなったと言うことはそうなのかもしれませんね」
気付けば消えてしまった『女神』。
おそらく自分の選択者である東雲拓真の大きな見せ場であり、勝てば『原初』が楽しみにしていた戦いの勝者にもなるって意味合いで見に来たんだろう。
『皇龍』のダンジョンの山頂付近から、ウロボロスよりも大きくて長い龍が唸り声をあげながら爆誕している。
あれはおそらく『神滅ノ皇帝龍』とかいう『皇龍』最強の真名持ちだったはずだ。確か真名はコウリュウだった気がする。
ウロボロスより大きい魔物なんて珍しいし、しかも浮遊しているなんて最強勇者の性能を持ってしても厳しく見える。周囲に雷が落ちまくっているのを見ると何でもありな遠距離攻撃も何個も持ってそうだ。
「コウリュウと『皇龍』の2体と戦うのは……やっぱり厳しそうだな」
「行って参りますご主人様」
「『
「ありがとうございます♪ 私の我儘を聞いてくださって」
「普段真面目にやってくれてるポラールのお願いは断れないだろ」
「プライドバトルみたいになりますが……魔王界最強の右腕魔物の座を勝ち取ってきます」
「確実に今まで戦ってきた相手の中で最強だろうから気張ってな」
「あの日舐められた分をお返ししてきますね」
『豪炎』に勝った後だったか忘れたが、『最古の魔王』たちに拉致られて品定めされたあの日をポラール的には忘れられない嫌な日として記憶していたようで、あそこにいた魔王たちの右腕ポジションの魔物たちの中で最強になりたいそうだ。
普段我儘を言わないポラールからの熱いお願いだったし、結局あの2人を最強勇者に任せると危険ってのもあってポラールにお願いすることにした。
もちろん不味い状況になれば皆で殴り込みに行くことになっている。
こんな命懸けの危険な殺し合いなのに……どこか楽しそうに向かっていくポラールの背中は、とっても大きく感じた。
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