第15話 『家族』


――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 ルビウスでの危ない戦いを制し、とりあえずダンジョンに帰ってくることができた。

 今は食堂に集まれる面々で盛大に食事の時間だ。食事ってよりもお祭りってくらい盛り上がっているので、決戦前の一休みって感じがする。


 俺は正面に座るリーナとルジストルと他愛のないような会話をしつつ、ガヤガヤと騒がしい食堂の空気を楽しんでいる。

 ちなみにメニューはバラバラで、それぞれが好きなモノを好きなだけ食い散らかしている感じだ。



「お茶漬け染みるなぁ」


「……閣下は若い魔王のはずですが、年季を感じますな」


「……」



 リーナは今まで散々『罪の牢獄』から遠ざけられて警戒されていたのに、突然こんな近くに来させられたことに驚いているんだろう。

 俺たちとしては今更『原初』の爺さんを警戒したところでな感じもするし、『女神』と繋がっていて情報を流していたとしても、すでに知られていることが大半だろうから気にしなくなった。


 リーナも俺たちの考えを察してか、会話には所々混ざりながらも黙々と、俺がオススメしている鯛茶漬けを食べている。


 ルジストルは俺が呟くことに一々ガヤを入れつつも、鯛茶漬けをのんびりと食べている。



「本当……賑やかになったもんだな」


「共に過ごした時間は短いかもしれませんが、内容は濃く激しいモノでしたから……家族のようなモノでしょう」


「そう見えます」



 隣のテーブルではガラクシア・ポラール・イデアがわいわいと、大量に用意されたケーキを頬張りながらフェルを可愛がっている。

 食堂の端では、次元の切れ目にいるウロボロスに向けて食材を投げ込みながら、これも大量に用意された酒を飲み比べしている五右衛門・阿修羅・マスティマのおっさん組なんかもいたりする。


 バビロンの自慢話を上手く聞き流しながら、アセナに餌やりをしているのはシャンカラだ。よくあの怒涛の自慢話を流せるものだ。

 天上付近をフワフワと浮かんでいるアマツに乗りながら眠っているのはメル。この騒がしい中眠れるのは才能だ。


 イデアはゼブルボックスに何やら芸を仕込んでいるのか、紅茶を優雅に飲みながら熱く何かをゼブルボックスに語っている。

 本来はデザイア専用の玉座のはずである、ニャルラトホテプに取り付けてある玉座をデザイアから奪い取りご満悦気にご飯を食べているハク……可愛い。


 ハクに自分の椅子を奪われたデザイアは、レーラズとグレモリーにガヤガヤと愚痴を言っている。レーラズとグレモリーはご飯を食べながら優しくデザイアの愚痴を聞いている。

 リトスは次々と出てくる料理を吸い込むように食べまくっている。そんなリトスを見守っているのはシンラだ。



「まぁ……各々好き放題やってる感じで家族ってのもアレだけどな」


「『大罪』陣営らしくて良いのではないでしょうか? 皆閣下に似たのでしょう」


「それは俺を自己中野郎って言いたいのか?」


「相変わらず閣下は自意識過剰でございますな! 偉大なる閣下の配下がそんなことを言う訳ないでしょうに」


「……はぁ~」



 このやりとりも慣れたもんだが、全員集まったときのガヤガヤした感じ、それぞれが好きなように楽しむ空気感、本当に最初っから変わらない。

 まだ『大罪』の力を誰も持っていなかった黎明期から変わらない安心した空気。ただでさえ個性が強いウチの面々なので、それほど魔物の数は多くしていないのも今の家族感に繋がっているのかもしれないな。


 『原初』から面白くないからって途中からガチャを引かせてもらえなくなったが、それでも最初のあの頃を思えば、考えられないような陣営拡大をしてきたもんだ。


 今思えば、『大罪』とかいうデメリットまみれの力だけを持って、1からダンジョンを創り上げていたあの頃も……楽しかったなと思える。



「『原初』と『女神』のお遊戯なんて無くって、ただただダンジョンの主として長い時を生きるだけの人生だったら……どんなもんだったかな」


「感傷に浸っているのを見ますと、何故だか近いうちに死んでしまいそうな気配が致しますね」


「やめろ! 勝手に死亡フラグ扱いするな」


「閣下……我らも命尽き果てるまで奮迅致します」


「お前前線に出ること無いだろうが」


「全ての力を使い……応援させていただきましょう」


「……なんか疲れたよ」



 実はリンさんの『魔名』を貰っていたりするので、最終手段として戦力が厳しくなったら、『聖遺物』がイマイチだが残った『魔名』を使って『枢要悪の祭典クライム・アルマ』を増やすという手段を取れるので、無理に前線を増やさなくても大丈夫ではある。


 ルジストルを最後の『枢要悪の祭典クライム・アルマ』候補で話をしていたが、本人が嫌と言うのでしていなかった。

 それに2度目の配合は失敗の可能性もあるから本人的にもリスクある行動は嫌というのがあるんだろう。



「ん~……過去の遊戯を生き残った勇者を出してくるのは想定外だったな」


「形振り構わずといったところでしょう。本来であれば別世界から今回の戦いのために連れてきた者、世界創造時に自陣営に所属していた者で行われるモノです。」


「『原初』爺さんの最終門番は誰がやってるんだ? 『星魔元素』じゃなかったのか?」


「鍵はクラーク様でしたが、門番はもちろん『皇龍の魔王クラウス』様です」


「あの人は先の勇者みたいに過去の遊戯を乗り越えてきたわけじゃないんだよな? 1人だけ雰囲気違う気がするんだけど」


「そこまで詳しい情報は伝えられておりません」


「『星魔元素』は大丈夫だと思ったけど、『皇龍』は最強勇者でも怖いかもな」


「どうなさるのですか?」


「ん~……『女神』の出方次第にはなるな。他を見る余裕は無い」


「アークに攻め入れられるのも時間の問題でしょう」


「準備は粗方済んでるから、なるようになるさ」



 こんなガヤガヤ盛り上がっている中でする話ではないかもしれないが、ルジストルが真面目に話を振ってくるっことは、俺にしっかりと考えておけと言っているようなモノなので、しっかりと自分たちの動きを定めておかないとな。


 『女神』さんよ……『罪の牢獄』はそう簡単に攻略できるダンジョンじゃないぞ。

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