第13話 血に『飢えし者』


「魔王もそうだけど、勇者ってのも多すぎると希少価値が下がるな」


「おぉ? ここまで出張ってくるんもんなんだな」



 大量の本橋恭弥が発生し、ポラールと五右衛門がそれなりの傷を負ったという報告を受け、俺と阿修羅はウロボロスに迎えに来てもらいルビウスまで転移してきた。


 そこには今にも砕け散りそうなポラールの『第九圏・永久氷獄コキュートス・凍てつく嘆川ヘル・カイーナ』の世界、そして黒髪黒目で少しだけ老け顔、身長は俺と同じくらいな勇者が手を天に掲げていた。


 俺が来たのが驚きだったのか、何かしようとカッコよく手を掲げていたのを下げ、律儀に挨拶をしてきてくれた。



「俺が来たら色々釣れると思ったし、もしかしたら『女神』本体来てルビウスで最終決戦になる可能性もあった訳だしな」


「ウチの大将は近くまで来てたけど、東雲拓真に会いに行っちまった」


「今更最強勇者に会って何すんだか……アンタ『女神』の実験体って感じじゃないな」


「んあぁ~……あいつらと同じみたいなもんさ、勇者なんて便利な玩具だからな」


「魔王も玩具みたいなもんさ……来い『大罪の天魔銃アポカリプス』に『美徳の堕落天アビス』」


「大将が嘆いてたぜ! 今回の選択者はどっちも強すぎて面白くないってさ!」


「勝手に巻き込んでおいて知ったことかよ。お前たちの筋書き全部破壊して終わらせるために俺はこの世界に来た」


「カッコイイね~……覚悟も強さも十分、小賢しさもあって配下の作り方も上手いときた。そりゃ並の勇者じゃ足下にも及ばねぇのも仕方ない」



 『女神』の力と勇者の気、その2つが合わさった強大な力が黄金の魔力となって敵さんの体から溢れ出している。

 辺り一帯幻想的な光景になり、本気では無いとは言えポラールの『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』の領域侵攻を押し返す力を持っているのは戦う前から恐ろしい存在だ。


 話をしている感じ、『女神』陣営の中でも、それなりに『女神』と近しい存在であり、何度も『原初』とのお遊戯を経験してきている存在のようだ。

 この世界で創造した者と呼び出した者以外の戦力が出てくるとなると考えなきゃいけないことが多くなるから本当に嫌なんだけど……。



「何回お遊戯経験してるんだ? どうせ過去のお遊戯で選ばれた勇者で気に入られてるやつと見た」


「おぉ~……さすが身内好きさにこの世界に飛び込んで来たイカれた君、素晴らしい読みだな」


「『女神』と『原初』よりもイカれた野郎なんて存在しない、あれに比べたら俺は素晴らしいくらいに常識人だ」


「ハッハッハ! 面白い魔王さんだぜ……そういえばアンタと会話してるとアンタ強くなってくんだっけか?」


「んなもん誤差だと思ってる顔してるぞ?」


「この世界でステータスなんて上に行けば行くほど気にならないもんだろ?」


「能力バトルになってるってのは同感だけど、ステータスってのは大事なもんだぞ?」



 俺と名も知らぬ勇者さんとの会話をしながら情報を頭の中で整頓していく。

 誰も会話に入ってこない感じ、しっかりと勇者に対しても、『認知の隙間を生きる者コード:アンノウン』に対しても警戒を怠っていない。


 ポラールと五右衛門、バビロンとガラクシアはまだまだ沸いてきそうな本橋恭弥だったり、他の強敵の警戒をしてくれているのがありがたい話だ。

 なんてたって先から後ろの阿修羅からメラメラと気の高まりを感じる。さすがに勇者さんもあからさまに殺気立っている阿修羅に気付いて警戒しているような視線配分をしているので、相当殺気が漏れ出ているんだろうな。



「その後ろの鬼さん物騒すぎない? お仲間さんたちも引いてるぞ?」


「俺が頑張って武器出したんだからさ、もしかしたら俺がやっちゃうかもしんないぞ」


「そんだけ殺気出した鬼さんが何もしないなんて……そりゃないぜ」



――ゴゴゴゴゴゴゴッ



 ついに阿修羅の気で空気が震えはじめた。

 スキル発動のタイミングを見計らってるんだろう。おそらく勇者さんは話しながらも何かしら仕掛けている俺と同じで小賢しいことが出来るタイプに見えるから警戒を怠らずって感じだ。


 阿修羅の『暴虐フォルテ』を魔力が濃くなった瞬間、阿修羅以外の面子が少し離れたところまで跳ばされた。



「『天下風雷ノ陣・大狂界天狗道』」


「『夢現ヲ裂ク極ノ剣アルテマソード』」



――バキンッ!!



 跳ばされた俺たちの視界に雨風集いて死地を作り上げる阿修羅の『天下風雷ノ陣・大狂界天狗道』が見えた瞬間、その結界は蒼い剣閃にて真っ二つに割れる。

 

 勇者の右腕から伸びた蒼と黄金が混ざり合った魔力の剣が阿修羅の『天下風雷ノ陣・大狂界天狗道』、そして暗雲が集ってきていた空を裂いた。


 俺たちを巻き込まないと転移させてくれたポラールやその他の面々からも少し驚いた声が上がったのが聞こえた。勇者が抜いた『夢現ヲ裂ク極ノ剣アルテマソード』によって、結界は容易に裂かれ、少し離れた俺たちからも見えるレベルで阿修羅の左肩から出血が確認できたからだろう。



「ベタだけど勇者らしく最強の剣で行かせてもらうぜ。俺の名は隼人だ覚えときなよ」


「……ふぅ~」


「普通は掠っただけで真っ二つなんだけどな。さすが鬼って感じだなッ!」



――ドンッ!!



 『美徳の堕落天アビス』を通して阿修羅と隼人とかいう勇者の戦いを観察させてもらう。

 基本的に横やりを入れるつもりはないが、何かあればポラールかウロボロスが入る流れではある。相手も1人じゃない可能性は十分あるし、阿修羅がソロ専なのもあってまだ様子見で良いはずだ。


 勇者が阿修羅に真っ直ぐに突っ込んでいく。

 『夢現ヲ裂ク極ノ剣アルテマソード』は見た感じ魔力の剣、先の一振りを見るに伸縮自在っぽいのでリーチは自在のはずなのに、阿修羅に対して自分から詰めていくってのは相当近距離戦に自信があると見える。


 『女神』お気に入りの勇者、過去の遊戯を乗り越えてきてるだけあって自信に満ち溢れてるし、能力が勇者って感じがする。


 勢いよく詰めていく勇者に対し、阿修羅は自身の傷を確認しつつ、まるで子どものように無邪気な顔で喜びを表していた。



「『陶酔フィデス』にて死地で酔い狂うとしようッ!」


「『|夢現ヲ裂ク極ノ剣《アルテマソードッ!』」



 黒血とも呼べるような色をした魔力と勇者の蒼と黄金の交じり合った剣がぶつかり合う。

 我らが暴君、最強の鬼である大嶽丸こと阿修羅が『原罪』を解放する宣言はしっかりと戦場に木霊していた。


 暴虐と暴威の修羅が……暴れる時、その舞踊は瞬く間に終わってしまう。

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