第12話 最強の『遺物』


――ドサッ!



 『永久躊躇ヘジテーション』により動きを止められ、五右衛門の『時を齧る虚無の刃フツノミタマノタチ』を受けた本橋恭弥たちが倒れ伏していく。

 『時を齧る虚無の刃フツノミタマノタチ』を受けた者は一時的に肉体の時を止められ停止状態にされるため、死ぬことはないのだが解除されるまで動くこともない状態になるスキルである。


 ボロボロになった五右衛門は、自身の受けたダメージを改めて確認しながら本橋恭弥たちが確実に止まっているかどうか確認していく。



「正直危なかったのぅ……アマツが来てくれたから落ち着けたんじゃが、『原罪』を渋ったのは悪手じゃったな」



 『罪の牢獄』の戦力の中で、今まで目立ってなかったが超強力な力を持つアマツに対し、確実に対策がなされてないだろうと読んでの援軍が効いた形である。

 

 五右衛門はここまでボロボロになるぐらいなら『原罪』を早く切っておいたほうが良かったと後悔する。今の自身の状態は続いて大きな戦いになった時、自信を持って前に出にくいほどにダメージを受けすぎている。

 五右衛門は他者からバフを奪わなければ自己回復効果が発動しないので、こういった何もない状態では傷の自然回復が遅いので、容易に削られる選択は失敗であるという判断である。



(じゃが……こうもボコられたのは身内戦以来なもんじゃから、少し楽しくはあったのぅ)



 ポラールもそうだが、かなりの傷を負うという今までの戦いでは無かった経験。今まで大したダメージを負ってこなかったことが不思議なくらいであり、幸運だったのだが、いざ追い込まれると血が騒いでしまったというのが五右衛門の感想だ。


 ストレートに此方を仕留めに来る能力セット。

 ソウイチが弓使いの勇者に殺されかけたと聞いた時、今まで自分たちが行ってきたように、相手も理不尽な死を押し付けてきているのだと感じたが、いざ自分が押し付けられてみると、これは誰が死んでもおかしくない戦いになってきたと五右衛門は肝を冷やす。


 感傷に浸っていると、不意に大量の殺気に囲まれたのを感じた。



「アマツ跳べッ!!」



――ドンッ!!



 大量の殺気を感じた刹那、五右衛門はアマツを抱えれるように大きく跳躍した。

 勢いよく跳躍した五右衛門はアマツを抱えながら、自分のいた場所を確認すると、さすがの五右衛門も驚愕するような光景が広がっていた。


 先ほどまで苦労して斬った本橋恭弥が30人以上五右衛門のいた地点を囲むように拳を構えて立っていたのだ。


 

――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!



「離脱じゃッ!」



――ブワッ!!



 大きく跳んだ勢いに、追加して八咫烏の羽ばたきが巻き起こした風を利用して遠くまで跳んでいく五右衛門と天津甕星あまつかみぼし

 大量の本橋恭弥が姿を現した瞬間、少し離れたところで実験体たちを蹂躙しているであろう者が魔力と怒りを解き放ったのを感じ、五右衛門は離れるように跳んだのだ。


 大地が大きく震え、本橋恭弥たちを『憤怒ラース』の魔力が覆い尽くす。



「『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』『第九圏・永久氷獄コキュートス・凍てつく嘆川ヘル・カイーナ』」



――バキバキバキバキッ!!



 ルビウスの街の一部が一瞬にして氷獄に沈んだ。

 

 30人ほどの本橋恭弥は抵抗する間もなく氷獄に沈み、活動を完全に停止させた。五右衛門が止めていた本橋恭弥もポラールの『第九圏・永久氷獄コキュートス・凍てつく嘆川ヘル・カイーナ』により沈み切った。


 本橋恭弥の増援が現れてから、一瞬にして寄ってきては本橋恭弥たちに反応させるまでもなく地獄に叩き落したポラールに対し、さすがの五右衛門も苦笑いしつつ、まだまだ増援が来るだろうと跳びながらも気配を探っていた。



――ドウッ!



「素早い離脱素晴らしかったですよ」


「お主の反応の速さのほうが恐ろしかったもんじゃがな」


「閣下たちもルビウスに来るようである」


「もぉ~バビロンとウロボロスの配下多すぎて仕事少なかったよ!」



 五右衛門たちががポラールの近くに着地したのに合わせたかのように、バビロンとガラクシアも集まってきた。


 ポラールと五右衛門は『認知の隙間を生きる者コード:アンノウン』に完全にしてやられ続けていることを報告すると、バビロンとガラクシアは自分たちの耐久力だと不味いでは済まされないなと少しばかり引いた感情が出てしまう。

 耐久力は優れている訳ではないので、とにかく火力と広範囲をぶつけるのが良いとされる判断なのだが、あのカウンター性能を見ると難しくも感じてしまうのが本橋恭弥に対しての総意だ。


 ここに集った全員の1番の感想としては、本橋恭弥が普通の実験体たちと同じように大量生産されているのが不味いという点である。



「さすが世界の創造者……なんでもありですね」


「我らが王の仰る通りであるな。勇者など女神の玩具にされるために呼び出されてるに過ぎぬ」


「人のこと言えないんだろうけどさ~……面倒な能力してるよね♪」


「相手からすれば儂らも相当面倒じゃろうからお互い様じゃな」


「不認知の力にも少しばかり慣れた気がします。こちらに何かが近づいてきていますよ」


「儂も戦ってみて少し掴めたかもしれんぞ。この慣れを逆手にとられる可能性はあるんじゃがな」



 不認知とは言えど、実際はそこに何かが存在しているという事実に変わりはなく、如何なるスキルでも捕捉することはできてはいないのだが、自分たちから発せられている強大な『大罪』の魔力の波や放たれる気、力の領域に揺らぎを見つけることで不認知を何となく捉える感覚をポラールと五右衛門は先の戦いで会得した。


 武人気質であるポラールと五右衛門の感覚に納得はするが、自分たちが同じ感覚を掴もうとは思わないバビロンとガラクシアだが、両者とも『罪の牢獄』戦力でも自身の世界を創り閉じ込めることに関しては長けているので、今の話を忘れないでおこうと頭に刻んでいる。


 そんな『大罪』陣営に近づく者が1人。



「あぁ~……歴代の『原初』陣営でも最強レベルだな本当に。ウチの大将が試合捨てるわけだ」


「勇者の気を感じますが……その言い草、外の世界から連れられた者ではないのですか?」


「んな恥ずかしいこと聞かんでくれよ」


「暁蓮とかいう勇者と外見はそこまで変わらんのじゃが……人間では無さそうじゃのぅ」


「あぁ~……今回選ばれてた勇者の1人か? あいつよりは老け顔だけど、確かに魔物基準で見たら同じような顔してんのかもな」


「え~? 最強勇者って言われてるアレよりピリピリしてるね♪」


「そりゃ勇者としての年季が違うんでな。これでも何回も戦争生き抜いてるから……覚悟しな?」



――ゴウッ!!



 ルビウスが強大な勇者の気に覆い尽くされる。

 凄まじい量の黄金の気が放出されたことで、氷獄の一部は衝撃で砕け散り、瓦礫は吹き飛び粉々になる。


 ポラールたちを前にして、圧倒的余裕を見せる謎の勇者が、その右手を天へと掲げた。

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