第11話 『不認知』


 『瞬間交差刹那ノ拳ジャストカウンター』による瞬間無敵&反射ダメージと、『一発逆転一撃必殺ファイナルカウンター』での特大カウンターの2つを盾に、本橋恭弥と五右衛門の戦いは本橋恭弥が一方的に距離を詰めにいき、五右衛門がひたすら牽制技を放ちながら距離をとり続ける構図になっていた。


 触れられるスキルだけを『瞬間交差刹那ノ拳ジャストカウンター』で無効にしているだけでなく、五右衛門の『空撫瞬ノ一筆書カラノヒトフデ』のような触れること無いスキルすらも防がれているという五右衛門からすれば突破口が掴みにくい状況。



「今のところは拳以外には脅威には見えんのが幸いじゃな」



――ドンッ!



 ルビウスの街中から外へむけて跳びまわりながら、五右衛門は本橋恭弥の戦い方を分析しつつ、今のところまったくもって効果は無いが『瞬間交差刹那ノ拳ジャストカウンター』の攻略法を考えていた。


 本橋恭弥も『女神』に弄られた基礎能力と勇者の身体能力を前面に出し、人間とは思えない速さで着いてくるのだが、さすがに跳躍力で蛙には敵わないようで距離感は最初から変わることは無い。


 ポラールに対し、1撃で大ダメージを与え、ソウイチに今1番とも言えるような危険分子と認定され、自分も今までの敵であるならば瞬殺してきたスキルを放っているが、傷1つ与えることが出来ていない初めての状況に五右衛門は少し燃えていた。



「儂らの戦い方には遠いかもしれんのじゃが……たまには漢を見せてみようかのぅ」



――ドンッ!



 距離をあけ続けていた五右衛門が急激に反転。


 『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』を本橋恭弥に向け、高速で跳びはね回りながら接近していく。

 そんな五右衛門に対し、本橋恭弥は減速しながら五右衛門の攻撃を仕掛けてくるタイミングを完全に見計らってカウンターを叩き込むために体勢を整える。


 『強欲グリード』の魔力と勇者の気が爆発的に戦場を満たし、両者はついに激突した。



「『朧陽炎之陣』」


「『瞬間交差刹那ノ拳ジャストカウンター』」



――ドドドドドドドッ!!



 分身した五右衛門たちが次々に本橋恭弥を囲むようにして襲い掛かる。


 斬れれば対象から『文字』を奪う『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』による分身たちの剣舞の嵐に対し、本橋恭弥は凄まじい身のこなしから、全ての刃に対し拳をぶつけて相殺していく。


 五右衛門の斬撃に対する『瞬間交差刹那ノ拳ジャストカウンター』の反射の衝撃波が五右衛門の分身を1撃で消していく。


 音も気配もない『朧陽炎之陣』による分身殺法も、的確に対応しながら1撃で分身を消せるカウンターを何度も連発できる本橋恭弥に驚きを隠せない五右衛門。

 12体目の分身が『瞬間交差刹那ノ拳ジャストカウンター』により消滅したところで、本橋恭弥の視線が五右衛門の本体へ鋭く向けらた。



「『一発逆転一撃必殺ファイナルカウンター』」


「さすがに読めとるわ! 『一発逆転一撃必殺ファイナルカウンターッ』」



――バァンッ!



 五右衛門の背後に突如として現れた2人目の本橋恭弥による『一発逆転一撃必殺ファイナルカウンター』の強襲。

 自身の背中に『一発逆転一撃必殺ファイナルカウンター』による右ストレートが叩き込まれる直前、五右衛門は『一発逆転一撃必殺ファイナルカウンター』の名を叫んだ。


 気が溜まっていた本橋恭弥の『一発逆転一撃必殺ファイナルカウンター』は、五右衛門がスキル名を宣言した瞬間に胡散し、ただの右ストレートとなり、五右衛門を軽く吹き飛ばす程度で終える。



(『儂之物ハ儂之物、ディザイア・オブ御主之物モ儂之物・アヴァリティア』が無ければ危険じゃったのぅ)



 完全にスキル名を知ったモノを宣言すると、そのスキルを10分間使用不可にすることができる五右衛門のメインアビリティである『儂之物ハ儂之物、ディザイア・オブ御主之物モ儂之物・アヴァリティア』の効力が発揮したのだ。


 なかなか見せたことのない力だったので、対応されること無く適用されたのだが、もし効かなかったら致命的だったと五右衛門は冷や汗をかく。



「なるほど……これは困ったもんじゃ」



 体勢を整え、再び『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』を構えなおす五右衛門の目に映ったのは、6人の本橋恭弥だった。


 先ほど急に出現した本橋恭弥が『一発逆転一撃必殺ファイナルカウンター』をぶつけてきたのを見るに、『瞬間交差刹那ノ拳ジャストカウンター』を使用しながらでも、本来受けていたはずのダメージを蓄積し、『一発逆転一撃必殺ファイナルカウンター』に繋げられるようになっている。


 しかも、全ての本橋恭弥が蓄積エネルギーを共有していると見て良いだろうと五右衛門は頭の中で素早く結論づける。



「「「「「「行くぞ」」」」」」


「儂の刃は簡単には止まらんぞい?」


「「「「「「『百点満点拳弾グラーデ・マグナム』」」」」」」


「参るッ!」



――ドンッ!!



 6人の本橋恭弥と五右衛門が交差する。


 見事な連携を組み立てながら次々と拳を振るってくる本橋恭弥に対し、跳び回りながら『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』で捌いていく五右衛門。

 

 相手の身体に当たれば防御能力と相手のステータスを無視してダメージを与える『百点満点拳弾グラーデ・マグナム』をなんとか捌きながら、まだ隠しているであろうカウンター攻撃に蓄積させないように最大限意識を張り巡らせる五右衛門。



――バァンッ!



(う~む……かと言って仕掛けんわけにもいかんのぅ)



 6人の本橋恭弥からの攻撃に対し、凄まじい反応と機動力をもってして捌く五右衛門だが、少しずつ本橋恭弥の『百点満点拳弾グラーデ・マグナム』が通りはじめ、五右衛門の身体に傷をつけ、五右衛門を象徴する和服をボロボロにしていく。


 攻めは『百点満点拳弾グラーデ・マグナム』、そして相手のアクションに対しては『瞬間交差刹那ノ拳ジャストカウンター』。『女神』と『勇者』という2つのハイブリットな基礎性能をした本橋恭弥に、今までにない苦しさを感じる五右衛門。


 

「『翼を簒奪する邪気の刃アメノハバキリ』」


「『瞬間交差刹那ノ拳ジャストカウンター』」


「「「「「『百点満点拳弾グラーデ・マグナム』」」」」」



――ドシュンッ!



 刃に触れし者の五感を封じる五右衛門の剣技である『翼を簒奪する邪気の刃アメノハバキリ』。そんな絶技も本橋恭弥1人の『瞬間交差刹那ノ拳ジャストカウンター』によって相殺され、一瞬の隙に5人の本橋恭弥が『百点満点拳弾グラーデ・マグナム』が撃ち込まれる。


 本橋恭弥の拳により、五右衛門の血が宙を舞い、完全なる隙を晒した瞬間を6人の本橋恭弥は見逃すはずもなく、一斉に拳を向けた。



「「「「「「『百点満点拳弾グラーデ・マグナムッ』」」」」」」


『停止』


「「「「「「ッ!?」」」」」」」



 天より響くは無機質な声。

 隙を見せた五右衛門を仕留めようと、五右衛門の周囲に集った本橋恭弥たちが、天からの声により一斉に動きを止める。

 五右衛門に振るわれる寸前だった拳は、五右衛門の目の前で急停止し、届かせようと必死なのかプルプルと震えている。


 五右衛門と本橋恭弥の頭上より現れたのは『天津甕星あまつかみぼし』ことアマツ、言霊を司りし古代兵器。

 『罪の牢獄』秘蔵っ子が満を持して登場したことに、さすがの五右衛門も嬉しく感じるが、そんなことを話をしている場合ではない。



「『時を齧る虚無の刃フツノミタマノタチ』」



――シュンッ!



 『天津甕星あまつかみぼし』の唯一とも言えるスキルである『真理之言霊アマツシトリガミ』の『永久躊躇ヘジテーション』により、五右衛門に届くことなく止まっている本橋恭弥たちに振るわれたのは、相手の時を奪う絶技『時を齧る虚無の刃フツノミタマノタチ』であった。


 

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