第17話 たくさん『遊ぶ』


――グチャッ ムシャッ



 リトスの力を知っている者以外が見たら、今の状況に困惑を隠すことはできないだろう。

 リトスが召喚した『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』をリトス自身が美味しそうに喰い散らかしている。喰われている『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』は無言で喰われながら消滅していっている。


 完全な無防備状態だが、目の前の光景を理解しきれず、さすがのレムも動きを止めてしまっている。



「我は特等席で眺めさせてもらうとするぞ!』



――ガシャンッ!



 コロシアムの淵にいたバビロンの周囲に降り立ったのは『欺瞞色に染められしロイヤル・ストレ栄華に満ちた天の花ート・フラッシュ』の五騎士たちだった。

 降り立った騎士たちはバビロンを守るように盾を構え、バビロン達の周囲には『奇跡カラミティー』の力が展開される。


 『原罪』を解放してまで攻撃ではなく、身を護るだけのバビロンの行動に混乱が深くなったのか、レムは大剣を構えるも動き出すことなく、リトスの食事が終わるのを見ることしか出来ていなかった。



「きゅ~♪」


『何が起きているのだ?』


「「「「「「「「「「遊びましょ♪」」」」」」」



 リトスが『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』を喰い尽くし、ご機嫌な顔をレムにむけた瞬間、コロシアム内に突如として出現した色とりどりな宝石たち。

 様々な形をした巨大な宝石たちには人間のような口だけついており、「遊びましょ♪」という言葉だけを呟きながら空中を漂っている。


 あれがリトスの『原罪』の解放とともに発現する不気味な宝石たちである『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』だ。

 『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』たちはリトスが溜め込んだ魔力が分け与えられており、外見からは想像もできないような魔力量による威圧感がある。



「さぁ! お主の『遊戯オブリーヴィオ』で王を楽しませるのだ!」


「きゅっきゅ♪」


『砕く』



――バリバリバリッ!



 さすがに止まっているわけにもいかないとレムも大剣に再び蒼雷と破壊の火を纏わせ、明らかに怪しい『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』を叩き割ろうと狙いを定めている。


 バビロンが『欺瞞色に染められしロイヤル・ストレ栄華に満ちた天の花ート・フラッシュ』の五騎士を召喚してでも防いでいるのはリトスの『原罪』である『遊戯オブリーヴィオ』だ。ちなみに『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』が召喚された時点で発動しているのでレムはもう効果範囲内にいるということになる。



「「「「「「「「「「『煌煌とした視線に歓喜カクレンボ♪』」」」」」」」」」」



――ギロッ!



 『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』たちの側面に目の模様が1つ浮かび上がり、模様が眩いばかりの輝きを放ちだす。

 蒼雷を纏わせた大剣で叩き割ろうと動き出していたレムの一部が『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』の1体から放たれる輝きに照らされた瞬間のことだった。



――グシャッ!



「美味しいなぁ~♪」


「きゅっきゅ♪」


『馬鹿なッ!』



 レム自身も右半身を喰われたことに気付けないほどの速さ、光に照らされた刹那の瞬間にレムの半身はレムを照らした『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』に喰われてしまった。


 機械の身体だろうと関係ない。


 『遊戯オブリーヴィオ』はリトスの考えた『遊戯』を効果範囲内にいる全ての対象に強制参加させる『原罪』。

 どの『遊戯』も敗者側は『遊戯オブリーヴィオ』に無差別に喰い散らかされ、喰われた者は一生治ることのない傷を刻まれ、死ねば蘇ることもなく魂ごと喰われてしまう地獄の『遊戯』こそリトスの力。


 リトス自身は楽しい遊び程度にしか思っておらず、魔力を溜め込んで少しお腹いっぱいになったから遊ぼう程度の無邪気な思考なのが恐ろしいところである。



(バビロンが『欺瞞色に染められしロイヤル・ストレ栄華に満ちた天の花ート・フラッシュ』を展開してなかったら効果対称になって終わってたな)



 『煌煌とした視線に歓喜カクレンボ』はリトスの『遊戯オブリーヴィオ』の中ではルールが簡単なほうで、『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』から放たれる光に照らされないように相手は逃げ回るだけで良いっていう遊びだ。

 照らし出される方向は『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』ごとに30秒で変化して大変だが、攻略方法はいくつかあるので簡単な方だ。


 光に照らされてしまった場合、照らされた者は照らされた部分を『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』に喰われ、3分間隠れ続ければリトスの魔力が減るというルールだが、レムは理解する前に半身とおさらばになってしまったみたいだ。



「きゅっきゅ♪」


「ウ……グゥ……」



 バビロンは『嘘で塗り固められた王スケルトン・ゼロ』・『虚言にて世界を壊す王キング・スケルトン』・『虚飾を真実にする王スケルトン・エース』の効力を最大限に発動しているから『遊戯オブリーヴィオ』に参加せずに済んでいるが、レムからすれば地獄のような瞬間だろう。


 さすがに半身を失ったので、機械のような外見をしていたので痛覚とか無いのかと思ったが、反応を見ている感じ外見が機械なだけで天使と変わりは無さそうだ。



「「「「「「「「「「もういいか~い♪」」」」」」」」


『ナッ!?』



――グシャッ!!



 30秒経過による『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』の照らし場所の切り替えに半身では反応できなかったレムが完全にリトスの養分になってしまった。


 ケタケタと不気味に笑う10体の『夢と希望の魔宝石ドリーマーズ』たちは効果対象であったレムを完全に喰い尽くしたということで消えていく。対象がいなくなれば解除されるのは『遊戯オブリーヴィオ』の良いとこでもあり悪いとこでもある。

 リトスは『遊戯オブリーヴィオ』をその名の通り遊びとしか考えてないし、遊びと食事を同時に楽しんでいるだけだが、こうしてみると『原罪』の中でも特殊なので観ていて面白い。



「リトスのやる気にバビロンが応えたと思ったら、こういうことじゃったか」


「……『遊戯オブリーヴィオ』の効果対象になる確率を0%にして、ヤバくなったら助けるだけの仕事」



 デザイアとメルはバビロン&リトスの共闘スタイルじゃないけど無理矢理噛み合わせに行ったやり方に対して、それなりに感心をしているみたいだ。

 バビロンが自分が無理矢理合わせにいくなんて思ってもみなかったという反応がウチの面々を見てると感じる。バビロンとリトスは割と仲の良い方だし、連携も悪くなさそうだが、バビロンがあそこまでサポート側になるなんて普段の言動からは想像できないもんなぁ……俺もできない。


 反対側の観客席に座っている『七元徳』は満足げにコロシアムを眺めている。

 レムがあんな悲惨なやられ方しといて楽しそうにしているのは理解に苦しむけれど、俺が『女神』の立場だったら『大罪』陣営の切り札である『原罪』をまた1つ確認できたので収穫だと考えるのだろうか?


 『七元徳』は今回の戦いで勝ちに来てるっぽいけど、初戦は様子見程度だったのか? 一応次勝てば完全勝利に王手になるんだけど……。



「まぁ……見せれば見せるほどに完璧に似せてくるのは、俺たちとしても収穫だな」



 俺たちは次に出る2人について作戦会議をするのであった。

 

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