第16話 『蒼雷』が駆ける


――バチッバチッ!


 

 白銀の機械天使レムから放たれたのはアヴァロンの『雷神招来』と似たような雷を感じる蒼雷、近づくだけでバビロンとリトスの配下を消し飛ばすだけの出力があり、レムが『大罪』の力を模倣しているみたいなニュアンスを匂わせていたので『無限インフィニット』と近しいモノなんだろう。


 コロシアムに蒼雷が迸る中、バビロンは『黙示録の獣』を召喚してレムから少し距離をとり、リトスは大量に溜め込んだ魔力を使い、コロシアム中央に『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』を召喚した。


 大剣を蠅の大王に向け、レムはモニターから見ている俺たちから聞いて余裕感のある言葉を『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』に放った。



『さて……骨の王が後ろに控える中……見せてみるがいい』


『くず鉄如きが……何上から語っとんねんや!』



――ゴゴゴゴゴッ!!



 観客席にいても圧し潰されるんじゃないかって言うレムと『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』の圧力が俺たちに襲い掛かる。

 互いに睨み合いが続いており、その間にリトスはしれっとバビロンのほうへと後退しているので……バビロンと『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』は相当レムを警戒しているようだ……リトスはバビロンの周囲で蒼雷を少しずつ喰らって楽しんでいる。


 スケルトンを通して大量の魔力を吸い取っているのもあって、『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』は割と好き放題スキルを使える状況なので、レムが『雷神招来』に似た行動と『勇気ブレイブ』のスキルを合わせてきたとしても対応できるはずだ。



『『蒼雷獣舞弾アジュールショット』』


『スクラップにしたるッ! 『啜る大喰らいグラトニーストロー』』



――バリバリバリッ!



 コロシアムを駆け巡っている蒼雷が獅子となって『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』に次々と襲い掛かっていく。

 そんなレムの『蒼雷獣舞弾アジュールショット』に対して『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』は蠅を自身の周囲に展開して『啜る大喰らいグラトニーストロー』で次々と吸収している。


 尽きない蒼雷の獣たち、吸収し続ける『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』という図が長く続いている。

 レムの様子を見る感じ、わざわざ近接武器を召喚しておいて遠距離スキルで様子を見る感じ、『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』の近距離でのアクションを警戒しているのと同時に、どのレベルまで吸収できるのか見極めたいんじゃないかと思える。


 本当に『無限インフィニット』と同じってことなのか?

 


『『群がり抉る鋼鉄蠅ビーネンヴァ―べッ‼』』



――ドドドドドドドドドッ!



 魔力をたんまりと吸ってサイズと強靭度が増した蠅たちが一斉にレムに向かって勢いよく突っ込んでいく。

 コロシアムを駆け巡っていた蒼雷で消し飛んでいた蠅たちだが、『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』によるバフと蒼雷を吸収したことによる頑丈になったことで可能になった蠅の弾丸は俺の目でギリギリ追えるレベルの速度だ。



『『蒼雷駆ける無窮の空ドゥンケルブラオ』』



――バリバリバリッ!



 破裂音のようなモノを響かせながら、レムが『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』の『群がり抉る鋼鉄蠅ビーネンヴァ―べ』にへの解答策は雷速の剣舞。

 あまりの速さで破裂音は聞こえるんだけど、俺の目には追える速さではなく、次々と蠅たちが叩き斬られていく。


 雷を纏い、凄まじい速さで斬り刻んで破壊していく姿は『雷神招来』を使用したアヴァロンと重なるモノがあり、見ている俺も少しビビってしまうレベルだったが、『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』は冷静にレムを見ているようだった。


 蠅の目の構造がどうなっているかは知らないのだが、レムの雷速を追えているようだし、自身のスキルを返されても慌てること無く淡々としている。

 いつもエセ関西弁で騒いでいるのが今回に限って酷く静かなのだけ気になるところではある。



『爆ぜんかいッ! 『無差別に降り注ぐフライ・フライ・空腹蠅コメット!』』


『無駄だ』



――ドゴォォォンッ!



 少しの衝撃で大爆発を起こす蠅たちを周囲に解き放つも、雷速で動くレムには遅いようで爆発は発生しているのだが、爆風に掠るような気配も無さそうだ……俺にはあんまり見えてないんだけどな。


 ここまで『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』のスキルを容易く返しており、速度で圧倒的に上回っているのに……ここまでして近づいて攻撃してこないのは警戒度の高さゆえなのだろうか?

 それともレムが動き回るごとにコロシアムを駆け巡っている蒼雷が激しくなっていることに何かしらの策があるのだろうか?



『『心に勇ましき熱を、スピサ・カロール拳に撃滅の炎を・スブリマシオン』』


『来てみいッ! 『死招く食卓デッドテーブル』』



 レムは蒼雷では足りないと踏んだのは自身に『破壊の火』を付与するスキルを大剣に纏わせて2属性で『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』にダメージを与えに行こうとしている。

 

 そんなレムに対して『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』は自身の周囲に黒い靄を発生させて、レムが自身を斬りに来るのを誘う。

 『死招く食卓デッドテーブル』の効果は単純で、黒い靄に触れた者は一瞬で魔力やら生命力が枯れ果てるほどに吸い尽くされるという攻防一体のえげつないスキルだ。

 効果範囲が悲しいレベルで狭いってことぐらいでレムの接近を許さない技としては十分ってことだろうか?



『……そのようなスキルがあることも織り込み済みだ』


『どっちの顔がしゃべっとんのか分かりづらくてイライラするんじゃ! 儂にビビり散らかしとっては終わらへんぞ?』


『我らの力吸い尽くして見るが良い』



――バリバリバリッ!



 轟音を響かせながらコロシアムを駆け巡っている蒼雷が激しくなる。


 『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』が凄まじい勢いで吸い続けているが、レムの出力が上回りはじめたのか、『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』の身体を少しずつ傷つき始めている。


 レムのボディーにも蒼いラインが浮かび上がってきており、溢れ出る魔力の出量がとんでもないことになってきている。

 本当にアヴァロンの『無限インフィニット』と似た力だ……リトスがこっそり吸い続けてるのには気付いて無さそうだ。



『痒いもんじゃッ! さっさと漢らしくデカいの打ってこんかい!』


『望み通りにしてやろう。『勇者の炎と王の蒼雷ベルデマール』』



――ドシャァァァァァァァンッ!!



 『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』の軽い挑発に対し、レムは蒼雷と破壊の火を纏った大剣に魔力を追加でチャージし、大きく振り下ろした。

 2種の属性が爆発的にコロシアムを飲み込み、コロシアムを駆け巡っていた蒼雷も『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』を囲むように集まって轟音とともに『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』を襲った。


 コロシアムが崩壊するのではないかと思える一撃だったが、砂埃が舞い上がり、巨大なクレーターが出来た程度で収まったのは、『女神』印のコロシアムだからなんだろう。


 砂埃が晴れ、クレーターの中央にはボロボロになった『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』が堂々とレムを見上げていた。



『虫の息というモノだな』


『ふん! 余さず喰ってやろうと欲張ったら……喰い過ぎて腹が少し破れただけじゃわい! もう少しゆっくり喰わんとあかんかったわ』



 『勇者の炎と王の蒼雷ベルデマール』を余すことなく吸収しようとした結果の惨状のようだ。あの一瞬であの出量のスキルを吸収しようと言うのも理解に苦しむんだけど、腹が破れて元気なのも理解に苦しむ。


 ボロボロの『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』にトドメを刺そうと大剣を構えようとしたレムより先に、眷属がボロボロなのに何故かご機嫌なリトスが先に『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』の傍に居た。



『儂がしばきまわしても良かったんじゃが、今回は主がやる気だもんでな!』


「きゅっきゅ♪」


「さぁ! 王の御前で見せてやるが良い! 我も『奇跡』を起こしておくとしよう!』



――ガブッ!



 バビロンがコロシアム全域に響き渡るような宣言を放ち、リトスは『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』の顔を餌と同じようにかぶりついた。


 

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