第15話 『無尽蔵』のエネルギー


 『聖天号令・空の門』

 天に浮かび、白い雲に囲まれし巨大なコロシアム。

 『女神』が『七元徳』を通して俺たちに課してきた最後の関門は2対2の3本勝負であり、俺たちの勝ちは3本すべてに勝つこと……何故なら負ければ死ぬからだ。

 2本勝てば良いという考えは大事な配下を失うことになるので絶対に避けなければいけない嫌らしい条件戦。


 俺が出ようとも観戦しようとも、とにかく2対2であれば良いようなので皆と相談させてもらった。



「まず個人戦じゃない時点で悪意モリモリなのがムカつくけど……舐めて貰っちゃ困るよな」


「若……手震えてるぞ」


「……気のせいじゃないか? やる気満々なあの2人ならやってくれるさ」


「ますたーが考える前に……勢いで決まっちゃってたけど」


「あの勢いは止めちゃダメだろう」


「妾たちも納得した選択じゃ。それに連携の薄い我らの中でも、あの2人は連絡関係無いほどに相性が良いもんじゃ」


「考えたことはあるけど許可だすとは俺も思わなかった」



 俺たちはコロシアム中央に堂々と立っている2人を観客席から全力で応援させてもらう。

 『女神』と『七元徳』に赤っ恥かかせてやろうじゃないか。





―――



「ふむ……リトスよ、今回は特別に許可をしてやるので好きにやるがよい!」


「きゅっきゅ♪」



 『女神』側から用意されたモニターがコロシアム中央付近で敵を待つバビロンとリトスのコンビを会話を映してくれている。

 バビロンはあんなにも使い捨てアイテムのようにスケルトンを好き放題やっているのに、リトスの養分にする作戦は気に入らなかったようで拒否していたらしいが、今回はリトスがやる気だったのを見てコンビを名乗り出てくれた。


 トリッキーかつ相手に強制不利を押し付けれる『虚飾ヴァニタス』に、とにかく『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』や『飢渇悪神アクガミ』といったエネルギーさえ確保できれば切り札が多い『暴食グラトニー』のコンビ。



「ほぅ……それで2体とは片腹痛い」


『1つの肉体に2つの魂宿れり……我が名は『レム』、貴様ら2体を狩りに来た者なり』


「きゅっきゅ♪」



 バビロンとリトスの前に現れたのは王国の国境付近でも出てきた機械天使と似たようなモノだった。

 全長は3mほどあり、白銀の装甲に1対の機械翼、左翼に女の顔があり、右翼に男の顔のある不気味なデザイアが特徴的で、手足はスマートだが並々ならぬ魔力を放っており、外見以上の威圧感を持った機械天使。


 観客席からでも感じる白銀に輝く装甲から滲み出てる魔力は、少しだけ感じ慣れた感覚のある不思議なモノと、もう1つは何度か戦ったことで覚えた『勇気ブレイブ』の魔力。



『貴様らの力は何度も見させてもらった』


「今までの戦いで我らを知ったなど笑止なり!」


「きゅ~♪」



――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!



 地面から大量のスケルトンが這い出てくる。

 『虚飾ヴァニタス』の魔力を纏ったスケルトンは瞬く間にコロシアムを埋め尽くすほどに這い出てきており、浮かんでいるレムは特に構えることも無く這い出てくるスケルトン達を見下ろしている。


 バビロンの被っている王冠の上に器用に乗っかったリトスは己の魔力を爆発させた。



――ブブブブブブブブッ



『……貴様らは何をしているのだ?』



 リトスの魔力から生み出された大量の蠅たち、『暴食グラトニー』の名の如く這い出てくるスケルトン達に襲い掛かり、魔力を吸い尽くしていく。


 バビロンのメインウェポンとも呼べるようなスケルトンを、まさかのリトスが消していく事態にレムを困惑してしまう。自身に危害がないので相手のアクション街ではあるが、目の前の事態がプログラムされたモノでないことに先が読めないと言った感じだろうな。


 レムが右手に巨大なライフル銃のようなモノを召喚し、バビロンとリトスに向ける。



『……『神域は焼灼に至りてテオ・ビッグバン』』


「きゅっ♪」



――ジュッ!



 レムから放たれたのは『勇気ブレイブ』が誇る最強火力技である『神域は焼灼に至りてテオ・ビッグバン』だった。

 本来であればチャージ時間が必要なスキルだが、レムから放たれたのは最大級に『破壊の火』を溜め込んだ火球であり、放たれた瞬間観客席の俺たちは驚いてしまったが……今のリトスには問題無かったみたいだ。



『……なるほど……骨の王は餌になることを許容したということか』


「我らが仲良く共闘したところで上手くいくことは少ないのだ! 今回はリトスのやる気に免じて我が兵たちを無限の魔力としてくれてやったまで!」



 バビロンの魔力を与えられたスケルトン達が凄まじい勢いでリトスの『暴食グラトニー』の力で吸い尽くされていく。

 『全てを啜り尽くす蠅王エダークス・トゥルマ,その姿暴虐が如し・ベルゼビュート』に効果で魔力を吸い尽くした者は死亡するのだが、ただ死亡しただけのスケルトンはバビロンの力で再構築されるだけなので、バビロンの魔力が尽きるまでリトスは無限にステータスを上昇させ、体力も回復し続けるモンスターになる。


 スケルトン達から凄まじい勢いで魔力を吸いあげているリトスは、レムの放った『神域は焼灼に至りてテオ・ビッグバン』を『啜る大喰らいグラトニーストロー』で丸ごと吸収した。



「我が力を吸っておるのだ! この程度の機械すぐに片付けてみせよ!」


「きゅっきゅ♪」


『我らを舐めてもらっては困る』



――バリバリバリッ!!



 白銀の鎧から空を震わせるようなほどの蒼い雷が迸る。

 魔力で構成された雷ならば、リトスの蠅が吸収するのかと思いきや、その蒼雷はスケルトンごと蠅を焼き尽くしてしまった。


 レムから感じた……どこか感じ慣れた魔力の正体、この雷と似たモノを俺たちは知っている。



「ふむ……同じではないが……確かに我らが同胞であるアヴァロンのモノであるな」


「きゅ~?」



 アヴァロンの『雷神招来』。

 雷の化身となることで無限のエネルギーを得て、自らを破壊の権化とする『原罪』である『無限インフィニット』の力。

 レムから感じるモノは『無限インフィニット』とは少し違うのだが……似たモノを感じるのは確かだ。


 蒼雷にてスケルトンと蠅を消し飛ばしていくレムは巨大な剣と盾を召喚し、大剣をバビロンとリトスに向ける。



『『原罪』の力とやら……楽しませてもらおう』


「紛い物で慢心する愚か者よ! 我らが王に授かりし真の罪を刻み込んでやろうぞ!」


「きゅっきゅ♪」



 レムから放たれる蒼雷を自身たちの魔力で押し返しながら、バビロンは『黙示録の獣』を呼び出し、リトスは溜め込んだ魔力で『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』召喚の陣を構築していた。


 両者の挨拶が終わり……本当の戦いってやつが始まるみたいだ。

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