第14話 『聖母の壁』


 真面目に戦っていくのが面倒になり、王都ごと消し飛ばせば戦局は進むだろうと思って実行に移してみたが……結果としてニコニコ楽しそうな『七元徳』が地下から出てきたのを見ると少しだけムカつくな。


 『七元徳』の外見は特に変わってなく、まさしく天使様って感じだが……纏っている魔力は少し歪な感じになってるような気がする。

 バビロンとデザイアには一旦距離をとってもらったので、瓦礫の荒野に『七元徳』が漂っているだけで俺たちはそれなりの距離感にある。



「まぁ……このレベルなら距離感なんてあって無いようなモノか」


「僕が相手だったら……また転移させられるんじゃないかな?」


「『聖天号令』だったかな? まぁそれならそれって感じだな」



 さすが前回上手く返したので『聖天号令』をやるにしても1手変えてくるのは確実なので警戒はしておかなきゃいけない。

 ウチの面々が集まっている中、あれだけの余裕を見せているんだから『七元徳』は手札をいくつか揃えてきてるはずだ。


 俺たちだって『七元徳』か『女神』のどっちかは出てくるだろうと想定してやぅてきてるんだから焦るような盤面じゃない。



「何やら阿修羅やポラールのような能力拒否の力が発動しとるようじゃな」


「我らが王よ! なかなかの舞台が整いましたぞ!」


「……2人ともご苦労様。『大罪』系統の魔物に近しい感じになってそうだな」



 天使と言えばウチの面々と真逆のような能力構成が特徴の魔物だった。

 敵にデバフするのではなく味方にバフをし、個人であることよりも集団であることを最重要とした『七元徳』の力、少しだけ近距離で見てきたバビロンとデザイアは『七元徳』の変化を感じ取ってきてくれた。


 ウチの面々が俺の下に集まってきてくれているんだけど、もし『七元徳』が『大罪』よりに能力変更があったのならば、こっちが集団で居ると不味いので誰をどう配置するか決めないといけない。

 このままだとハク以外の戦力が無駄になってしまうからな。



「ここから斬ろうかと思ったけど……なんか変な感じする」


「ハクが嫌な感じするなんて……どんな進化をしてきたんだか」


「ゆったりと近づいてきておるが……随分と余裕そうじゃのぅ」


「とりあえず俺と話でもしようって流れなんだろうな」



 会話中に不意打ち即殺っていう俺が好きな流れも当然警戒されてるだろうから、せっかくだし『女神』のヒントも欲しいから話をするのは俺としても嫌ではない。

 この世界での経験上だが、意外と敵さんの口が軽いので話をすれば欲しいモノを教えてくれる可能性がある。


 すんごいニコニコ笑顔で近づいてくる『七元徳』に対して、俺なりのニコニコ笑顔でとりあえずお出迎えする。



「お久しぶりですね。とても元気そうで安心しました」


「そっちも元気そうなことで……とんでもない化け物に改造されて出てくるのかと思ったよ」


「強そうに見えるよりも……外見弱そうに見えた方が良いと貴方なら考えそうですけどね」


「まぁ……それには賛同だな」



 心温まる再会を果たしたわけだが、相変わらず胡散臭さと怪しさの塊みたいな天使様だし、余裕のある感じは変わって無いけど……少し性格が俺と似たんだろうか?

 ハクにバビロン、デザイア&ニャルラトホテプが居てくれるから安心と言いたいところだが、『聖天号令』は俺だけ連れていかれてしまうので発動タイミングを見逃さないようにしとかないといけない。


 バビロンとデザイアが感じ取ってきてくれたように、『七元徳』を近くにすると『大罪』の魔物と同じようなオーラを感じる。

 『美徳』の神熾天使たちの気配はあまり感じないので……外見は変化なしだが内側は相当魔改造ルートは確定っぽいな。



「まぁ……やっぱ『女神』に合うには完全に殺さなきゃいけないんだな」


「これが最後の関門だと思っていただければ良いですよ。あちら側も終盤らしいので」


「最強勇者様が負けるとは思えないからなぁ~」


「やはり……1番面白そうなのは貴方と勇者を激突させることのようですね♪ その可能性すら考慮しているようですが……」


「頼りになる味方が多いからな」



 なんだか『女神』について快く語ってくれるような雰囲気でも無いし、あんまりこの場に長居するのも怖いので決着の流れだけ見つけて終わらせに行くのが良さそうだ。


 ハクたちが手を出せていないってことは、そのまま叩いても意味無さげな感じだろうし……このニコニコは企みがあるのを教えているようなモノなので面倒だが尋ねることにしよう。



「……で? 『七元徳』と『大罪』の最終決戦はどんな形で進めるんだ?」


「また『聖天号令』でも良かったのですが……主が決めてくださったので、そちらで行こうと思います」


「『原初』と『女神』って良い立場だよな。こういう場合俺たちに拒否権も逃げる選択肢も無いんだろ?」


「世界の創造主とはそういうモノですよ」



 出来ることなら俺がルールも戦場も決めれるような激熱バトルをしたいんだが、『原初』と『女神』が創った世界でそんなことはさせてもらえるわけもなくって感じかあぁ……。

 魔王陣営はダンジョンを創って、自分たちが上手く戦える戦場でのやり取りを生まれてから勉強させられるのに、ここまで来て相手有利の条件戦は本当に面倒だ。



「その露骨に嫌な顔……主は貴方を苦悩させるのが好きなようなので喜びそうです」


「まぁ……『原初』に勝つなら俺を苦悩させるのが1番だろうからな」


「私としても勝ちたいモノなので参りましょう♪ 『聖天号令・宙の門』」



 消し飛んだ王都跡だった世界が一瞬にして白い雲に囲まれたコロシアムに跳ばされてしまった。


 ……なんかこの世界の奴らコロシアム好きだな。

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