第12話 『塵芥』


 敵を滅ぼすことおいて、ウチの面々で誰もが認める『最強』の存在、今回の大事な戦に置いて俺を詰みに来る敵の主要戦力を破壊するため秘密兵器に抜擢されたハク。ポラールやイデア、シャンカラにデザイアが推薦するだけあって、誰かとの共闘は不可能なレベルな能力をしているが、単体なのになんという安心感だろうか。


 

――ゴゴゴゴゴゴッ!



「なるほど……神出鬼没にしてこの禍々しい力、王将を囮にするだけはありますな」


「マスターと同じぐらい舌が回るんだね」


「ハク……それは俺も馬鹿にされてる?」


「マスターは良いの♪」



 『兎の理』で跳んできて、いきなり背後から『始めの一太刀イーハンヤク』で斬りつける。

 ハクの一振りは『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』ではなく、凍り付いていた巨人を真っ二つに叩き切っていた。

 

 ハクに魂ごと真っ二つされた巨人は轟音を響かせながら光の粒子となって崩れ去っていく。あんなにどうしようか悩んだのに簡単に消し飛ばすのを見てしまうと、やっぱこの世界は脳筋思考が1番なのかもしれないって感じてしまう。


 『運命操作』だろうが『聖槍』としての力だろうが異能力を全て封じ、ハク以外は生まれたままの何も無い状態で戦うことを強いることのできる反則アビリティ『私だけが唯一絶対ゼロ・スペルビア』の影響で、フェルの氷も『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』が散布していた黄金の魔力も消え去ってしまった。



「……『光の巨人』はそれなりに自信作だったはずなのですがな」


「マスターが1番大事な護衛に……ぼ、僕を選んでくれたんだもん。誰だろうと絶対に消し飛ばすよ」


「さすがハク……暴論だけど実現できるから最強!」


「へへっ♪」



 『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』の背後をとり、刀をむけて完全に詰ませに行きながら無邪気に微笑むハクに何か目覚めそうになるが、その気持ちを抑えておいて、改めて状況を纏めて行くことにする。

 

 ハクが消し飛ばせたってことは『光の巨人』とやらは何かしらの能力で俺やフェルがどう対処するか悩ませるような耐性を持っていたってことになるし、『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』の力も今のところはハクである程度封殺出来ているのは大きな情報だ。


 しかし、こんな状況になっても『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』は相変わらず余裕そうな雰囲気だ。



「まぁ……ここでハクに斬られてもどっかしらで蘇ってくるんだろう」


「さすがは『原初の魔王』に選ばれしプレイヤーであるな。その通りなのである」


「羨ましい能力だよ……何回かは簡単に死ねるなんてな」


「吾輩は『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』。唯一無二の『聖槍』なのである」


「……ムカつく」


「こんなにも呆気なく散るのは誤算ではあるが……我らの想定とは違う敵が来てしまったモノは仕方ないということにしておこう」



――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!



 『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』の発言に引っ掛かるところがあったんだろう、ハクがどんどん不機嫌になっていき、周囲の空間が歪み始めてしまっている。


 ここで『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』を斬り刻んだとしても、どっかしらに『聖槍』本体が隠れているか、『女神』の力でただただ復活させることができるのかは不明だが、死体すらも残さず消えていきそうなのでどうしたものだろうか?


 このままだとハクが周囲をまとめて吹き飛ばしてしまいそうな1撃を放ってしまいそうなので、止めておくべきか。



「『独覇道・無限廼終卓ムゲン・シマイノタク』」


「……ん?」



 禍々しい『傲慢プライド』の魔力が世界を覆い、空間が歪み景色もろくに見ることのできない歪な世界の中、圧倒的な不機嫌オーラを放ちながら、『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』に冷たい視線をむけているハク。


 わざわざ『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』に『独覇道・無限廼終卓ムゲン・シマイノタク』を見せるってことは何かしらあると信じて良いんだろうが、この状況では俺もフェルも大した役に立てないのが痛い。



――シュンッ



「『清らかなる一色滅界チンイツ・メツ』。僕がこの世から『聖槍』ってのを消し飛ばしてあげる」


「…な、何を……?」



――ゴトッ



 俺がツッコミを入れる間もなく、『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』の首と槍先が転がっていた。

 あまりにも一瞬のことで言葉がでないんだけど、『清らかなる一色滅界チンイツ・メツ』は種族殺しの連鎖型のスキルだったはずなんだけど、効果はあるのか?


 気付けばフェルが凍土にしていた場所も更地になり、光の粒子となって消えていく『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』と、そんな光景を冷ややかな目で見つめるハク、あまりにも展開が速すぎて着いて行けない。



「効いてそうか?」


「自分で唯一無二のなんちゃらって言ってたからやってみたんだ」


「『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』ってのが消滅してたら御の字だな。俺たちがフリーになれたから戦況に一手加えれそうだ」



 まぁムカついたから『聖槍』ってのを根本から滅ぼしてやろうってノリで『清らかなる一色滅界チンイツ・メツ』を抜いたってことだが、もし効き目があるんだったら大収穫なので良い判断だったと思うべきだ。


 『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』はイデアにデザイアあたりが助っ人にくることを望んでいたし、ある程度の対応策を用意してきてるみたいな言い方だったから、逆にどんな策を用意していたのか気になるところだ。

 ハクはこの世界の戦いを根本から否定するような王様能力持ちなので、対策できなかったと考えていいのだろうか?



「ハクの安心感凄い」


「やった♪」


「ガウッ」



 ハクのウサ耳とフェルの体毛を楽しみながら、俺たちは今後何をしていくのがこの戦いを終わらせられるか考えてみる。

 阿修羅に五右衛門、外からバビロンにシャンカラといった面々が王都に湧き出ている化け物たちを討伐してくれているので、そっちに合流しても良いんだが、こんなに呆気なく行き過ぎると誘われている気がする。


 もし『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』が王都に戻っていて、王都内をまだ見ぬ戦力と一緒に固められたら面倒だ。



「シャンカラが1度やったけど……何が眠ってるか怖いんだったら丸ごと吹き飛ばすか?」


「僕はその意見に賛成だよ!」


「……みんなの意見を聞くか」



 もしかしたら、今までやったどんな作戦よりもぶっとんだことをするかもしれない流れになったが、何が待ち構えているか怖いので仕方がないと自分の中で言い聞かせることにしよう。


 『女神』相手に出し惜しみなんて意味無いし、慎重に行き過ぎて相手に万全な対応をされたくもない。



「魔王らしく行きますかね」

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