第11話 『凍える地』にて


 シャンカラが王都と言う名の『女神』様の実験場の化けの皮を剥がしたことにより、さらに戦いが激しくなっている中、俺とフェルは相変わらず凍土にて巨人の監視を続けている。


 フェルの力で氷漬けにされ、動きは停止しているものの、まったくダメージを受けている様子はなく、解除されたらすぐにでも大暴れしそうなので目を離せない。

 俺とフェルがいるので問題は無さそうだが、お相手さんがこの巨人を放置しておくなんて思えないので、どう処理するか考えておかないといけない。



「覗きに集中しすぎて何も考えてなかったのが問題だな」



 とてつもなく寒い中、フェルの体温に温めてもらいながら各地を『美徳の堕落天アビス』で覗き見することに夢中になってしまっていた。

 一緒に凍土で留守番をしているフェルを見ると少し眠そうなので、それなりの時間を覗き見に費やしてしまっていたってことか……。


 巨人の対処は力技でいけば、そんなに難しい問題じゃないんだけど、今後も巨人に遭遇する可能性があることを考えると1度戦っておきたいような気もする。

 死体が残ってくれればいいんだが、光の粒子で構成された巨人が撃破後に死体を残す可能性は無さそうに見えるのも頭が痛いところだ。


 そんなことをフェルに引っ付きながら考えていると、フェルが顔を上げて俺たちの背後を注視した。



「ガウッ」


「まぁ……やっぱり来るだろうな」



――パキパキッ



「実際見ても煌びやかな槍だなぁ」


「ふむ……驚かないのかね?」


「あの熱血騎士君が槍の付属品の1部でしかないってのは、なんとなく分かってたから問題無しだな」


「吾輩が学習するために用意されたプログラムの1部である」


「俺はアンタも本体ではないって踏んでるんだけど?」


「それを知るのは主だけでよろしい」


「従順なことで……」



 優雅に凍土を踏みしめながら近づいてきたのは1人のダンディーなおじさん。

 この世界では見慣れない立派な黒スーツに青ネクタイという真面目な服装、整えられた白髪に白髭といった絵にかいたようなスーツ老人である。


 そして右手にはシャンカラが消し飛ばしたかと思われた『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』が握られており、黄金の魔力が留まることなく漏れるように周囲に散布されている。


 フェルがいつでも攻撃できるように構えてくれているが、おしゃべりに付き合ってくれるなら飽きるまで付き合ってもらおう。

 一応俺自身、長話することで強くなる能力の持ち主だからな。



「シャンカラの1撃は気持ちよかったか?」


「まさか王都ごと巻き込むような大技を躊躇なく放ってくるとは想定外であった。シャンカラとやらは王都が主の巣窟であることを見抜いたのであろうな」


「ご立派な実験場をお持ちで……さすがは天下の女神様って奴だな」


「お主は相当な皮肉屋と聞いておる。他者を嫌な気持ちにさせることに生きがいを感じておる腐った青年だとな」


「お陰様でクソゲーの中を生き抜いてこられてるんだから良いだろ。人のファイトスタイル批判なんて、わざわざ口にして言うもんじゃないぞ」


「このような会話も互いにとって学びの場である以上……どのような牽制を放とうが自由であろう?」


「輝いてる槍だけあって説得力あるな」



 俺より少し身長が高く、金色の瞳に老いの感じる肌感、漂ってくる老人特有の余裕を感じる雰囲気と、こう話をしている感じだと普通の人間のような感覚があるんだけど、このおじさんの中身もとんでもない化け物が封じられているんだろうか?

 『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』っていう本体を砕くことができれば良いんだろうが、シャンカラの1撃から生還しているだけあって、何かしらの術を持ち合わせているんだろうとは考えておかないとな。


 それにしてもどうやって『星を飲む灼天彗星キラナ・デル・ソル』から逃れてきたんだろうか?



「吾輩は『運命の槍』である。吾輩たちの陣営が勝つにはお主1人を落とせば良い。しかも狼1匹が護衛にいるのみで丸腰同然……であれば吾輩がここに導かれるのは必然である」


「……なんの説明にもなってない気がするな」


「お主は配下の魔物たちの摩訶不思議な力を全部説明できるのかね? 我ら人智を越えし者は凡人には理解できぬ範疇にいるのである」


「……そういうもんか」


「吾輩がここに降臨しただけで……『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』の運命力による戦局操作は、そこの氷狼では妨げられいほどに動いているのである」


「俺に流れを説明しても困らないような『力』であるってことね」


「王手をかけた状況でお主の動きと、吾輩『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』の運命力……どちらが上手をとるかの実験である」



 俺が自分を囮にするってことも前見せたから、この状況でフェル以外の戦力が相手のアクションに対してカウンターで出てくるってのも読んでの王手をかけてくる大胆さ……『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』を重要な戦力として見ているからの実験なのか、捨て駒として役割なのか不明ではあるが、なかなかに『運命操作』ってのは面白い力だ。


 陣営の勝利を最適に得るために、やられたと思ったら王将の前まで跳んでくるって考えると恐ろしい能力だなって思うけど、『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』が言う通り、人知を超えた奴らの力を一々考えていたら頭痛くなるから仕方ない。


 フェルのことを甘く見過ぎってツッコミを入れてやりたい気もするが、どうせ巨人を確実に処理するためにも誰かしらは来てもらう必要があったので、フェルには『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』のお相手さんがこないかどうか気を張っていてもらうのが良さそうだ。



「お主をこんな戦場まで囮に使って……一体どんな魔物が出てくるのかね? こちらの陣営としては『ゾビアーの水鏡』とやらの魔導を使う偽龍のデータが欲しいのである」


「……確かにイデアは目立っているんだけど裏方だから、そちらさんからすれば嫌だろうな」


「先の吾輩とシャンカラとやらの戦いに姿を見せた蜘蛛とその主でも良いのである」


「そっちの注文通りにやってやるかなんて俺次第ではあるな」


「ふぅむ……吾輩が出張った以上、お主の首をとるか手痛い傷を負わせなければ採算合わぬのだ」



 『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』はお相手さんからすれば、どれなりに重要な戦力であることがありがたいことに判明した。今回の戦に限った話なのかもしれないが、さすがに『聖槍』+『七元徳』+『女神の力』ってのは重い要素らしい。


 イデアやデザイアを想定して、俺を討ち取れるかもしれないって流れを見ている時点で、かなりの強さなのかもしれない。

 まぁ……巨人を確実に処理するってのと、この大きな戦で俺が囮になる以上、その策は確実に成功させなければならないっていう条件上、お相手が想定している流れになんかしてやるはずがない。



――ゴゴゴゴゴッ!!



 空気が一瞬にして重くなり、辺りの氷が一斉にして罅が入っていき砕け散る寸前なところまで崩れかけていく。


 先ほどまでの余裕な表情だった『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』の顔が少しだけ歪み、嫌な予感がしたのか後ろを振り返ろうとする。



――バキバキバキバキッ!



「よかったね。1番強い僕が消し飛ばしてあげる」



 刹那の一振りが黄金の魔力を薙ぎ払った。

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