第10話 地下水路での『遭遇』


 阿修羅とハシュマリムの戦いが激化し、不意に訪れたデザイアによって、さらに混乱を極める王都市街地であった廃墟での戦いとほぼ同時刻、王都の地下水路では1人ブツブツと小言を呟きながら歩いている五右衛門の姿があった。


 王都の地下水路は、ファンタジー作品に在りがちな魔物がはびこっていたり、悪い人間たちのアジトになっているわけでもなく、ただただ普通の下水道としての役割を全うしている場所であった。



「シャンカラの暴れた後……一瞬にしてこの様子……地上は酷いことになっとりそうなもん」



 王都にいた人間が化け物へと変貌し、女神の実験場としての真実が明らかになった地上と同じ、地下水路も突然アンデット系統の魔物が出現したのである。

 残念ながら五右衛門の相手にはならず、五右衛門が王城地下へ到達するまでの僅かな時間稼ぎにしかならない程度の力の差である。


 五右衛門は地下水路の大変貌から、地上は地下以上に恐ろしいことになっているであろうことを悟り、最早当初の作戦は意味の無いモノになるだろうなと考える。


 

「それにしても………主から聞いとった地下水路のイメージとは違うもんじゃな」



 ソウイチが五右衛門に話をしていた下水道は酷いものであり、魔物や盗人がおり、暗く臭く狭いような場所だというモノであったが、五右衛門が目にしているのは、ソウイチの語っていた場所とはまるで違うモノであった。


 明るく広く、そこまで臭いわけでも無いし五右衛門からすれば気になる要素がないので、少しガッカリしている部分があるが、さすがに魔物が現れ始めるとなると話が変わってくるようだ。



「さて……ここまで開けた場所が多いのは不自然な気もするもんじゃなぁ」



 人間が使用するにしても不自然なほどに開けた場所がいくつもあると五右衛門は歩きながらも色々と勘ぐってしまう。

 王都ほどの広さならば仕方ないとも片付けられるが、水の臭いとアンデット系統の魔物たちの中に1つ嫌な香りが紛れ込んでいるのを解っての独り言である。


 勢いよく流れている水の音が響く中、五右衛門のいる開けた場所の中心地に、巨大な魔力の塊が出現する。



――ガシャンッ



「ふむ。デザインは同じじゃが……色のセンスが圧倒的にアヴァロンのほうがお洒落じゃの」


「侵入者を排除する」


「アンデットで騎士とかいうコンセプトも同じみたいじゃな。しかも立派な『聖盾』を持っとるようじゃしな」


「『ダスティア』任務開始」



 五右衛門の前に現れたのはアヴァロンと色が違うだけで瓜二つともいえる全身鎧のアンデット系の気配のする魔物であった。

 右半身が赤色で左半身が青色という色合いのデザインまでアヴァロンと同じであり、武器種も同じであり大剣と大盾を携えた騎士である。


 五右衛門は愛刀を抜きながらダスティアの動き出しを観察しようと目を細める。



「性能までアヴァロンと同じであるならば……周囲におる魔物たちは邪魔な気もせんでもないがのぅ?」


「『雷聖剣エスメラルダ』」



――バリバリバリッ!



 ダスティアが大剣勢いよく掲げると、体験から稲妻が発生し、地面の至る所を這いながら五右衛門へと迫っていく。

 

 両肩に八咫烏を召喚しつつ、属性もアヴァロンと似ていることを確認し、確実にアヴァロンと近しいように造られているであろうことを確認した五右衛門は自分へと迫りくる稲妻を迎え撃つ。



「『乱れ風奏華』」



――ブゥンッ!!



 八咫烏の羽ばたきと五右衛門の風を纏わせた一振りが真空の刃となってダスティアの放った稲妻とぶつかり合い、轟音を響かせながら相殺されていく互いのスキル。


 五右衛門はスキルが発動できたことと、スキルの威力的にアヴァロンには遠く及ばない可能性が大きいということに安堵し、ダスティアの出方を再度待ち受ける構えをとる。


 五右衛門が考えるアヴァロンの厄介な点と言えば、まずは『永遠伝説十エーヴィヒ・トゥエル二ノ苦難ブ・ザ・レジェンズ』によるスキル耐性であり、多くの技を持つ五右衛門ですら使用スキルの順番を考えていかなければ詰まされるほどの守備力のあるアビリティだ。

 そしてもう1つが『星をも砕く狂気メテオヴァーンズィン』の防御無視性能だが、鉄壁のアヴァロンだからこそ厄介であり、スキルが通るのならば問題無しと五右衛門は判断した。



「『地獄の大釜』よ‼ 奴を封じよ」



――バリバリバリバリッ!



 五右衛門の周囲の空間が捻じれ、そこから大量の鎖がダスティアに向けて伸びていく。さらに五右衛門とダスティアの間に落ちてくる巨大な大釜、まずは序の口と言わんばかりに今まで見せていない手札の1つで様子見というのが五右衛門の考えである。


 自身を捕らえようとする鎖の群れに対し、ダスティアがとった行動は至ってシンプル、全身に雷の魔力を纏わせ、正面に対して『聖盾ブレスハート』を構えるのみ。



「弾け『彼方へ導く大聖堂セイントハスラー』」



――ガリガリガリガリッ!



 『聖盾ブレスハート』から展開された雷の魔力を帯びた巨大な魔法陣は、五右衛門がダスティアを捕らえるために展開していた鎖を全て吸引しせき止める。

 鎖を止められてしまい、茹でる相手のいなくなってしまった大釜は、ポツンと五右衛門とダスティアの間に置いてあるだけのモノとなってしまった。


 アヴァロンとは少し違うスタイルに、模造品としては中途半端感をダスティアに対して抱きながら、相手の戦闘運びに対して色々と考えを巡らせる。



「ふむ……とにかく手の内を見てやろうということに感じるもんじゃな。この期に及んで勝ちを目指さんもんなんじゃな」


「奔れ『雷竜爪道』」



――ギャァァオォォォッ!!



 ダスティアが雷の魔力を纏った『聖剣エスメラルダ』を勢いよく振ると、雷の竜が数体五右衛門を喰らおうと襲い掛かる。

 

 『智慧の本源を断つ刃アマノムラクモ』を構えつつ、この大戦まできて様子見に回る敵勢力に対し、あまり良い気がしない五右衛門は素早く戦いを終わらすためにスキルを放つ。



「『八之俣分奪求大蛇懐刀ヤマタノオロチ』」



――ギャオォォォォォォォッ!!



 ダスティアが放った雷竜と、五右衛門の放った霊蛇が激しく激突し合う。

 凄まじい衝撃波を放ちながら、ダスティアの放った雷竜が消滅し、『八之俣分奪求大蛇懐刀ヤマタノオロチ』がダスティアを終わらせるために飛来する。


 今まで何度か見せたスキルではあるが、自身の特徴的な技に対し、どのような対応するか五右衛門はダスティアの動きから、敵陣営の対策方法を読むという意図で放ったスキルである。


 唸り声をあげながら、『八之俣分奪求大蛇懐刀ヤマタノオロチ』はダスティアを喰らおうと襲い掛かるのであった。

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