第9話 『造られた罪』


 シャンカラの『星を飲む灼天彗星キラナ・デル・ソル』によって、最早廃墟の街と化してしまった王都、そこに広がったのは人間だった者たちが次々に化け物へと変身する異質な光景。


 さすがはたった2人の神様が遊ぶために創られた世界。

 俺たちから見て大きな都だった場所1つが、ただの化け物開発実験場だったなんて思いもしなかった。


 阿修羅の1撃に対し、即時再生という対応を見せてきた色違いガラクシアことハシュマリム。相方のフェルの色違いが即殺されることは想定内だったかのような反応だ。

 阿修羅の『天下風雷ノ陣』の影響で天候が雨へと変わる中、阿修羅を仕留めようと実験体たちが動きを見せ始める。



「むぅ~レベルは近いはずなんですけど……戦ってみると歯が立たないんですよねぇ」


「『色欲ラスト』の模倣と言うのは背筋が凍るものだな」


「そちら様が手の内を全然出してくれないから……まだまだですし、それに私は他のモノも学習してますよ♪」


「『大蛇海ノ大断オロチダチッ』!」


「『烈日にて迸るプロミネンス・は紅炎の叫喚ドゥルヒブルフ』」



――ドシャァァァァンッ!!



 阿修羅から放たれた巨大な斬撃に対し、ハシュマリムが放ったのは『七元徳』の中でも攻撃性能に特化した『美徳』である『勇気ブレイブ』の『破壊の火』を使ったスキルだ。


 2つの技はぶつかり合い、凄まじい衝撃波を発生させ、ただでさえ廃墟の地と化していた戦場を荒れさせていく。


 今まで見せたこちらの手札の対策を入れつつ、ガラクシアの力と『七元徳』の力を合わせた魔物か……厄介なもんだ。



「ふふっ♪ さすがにこの距離では大技の魔導は放てませんが……『破壊の火』でお相手しますよ♪」


「『四天阿修羅王』、散れ」


「あら~?」



 阿修羅が4人に分身する。

 さすがに他の実験体を気にしながら戦うのは面倒だと判断したんだろう。阿修羅本体と同じレベルで戦える阿修羅の便利分身たちが実験体たちを粉砕するために、大雨の戦場の中散り散りになっていく。


 ハシュマリムは他の実験体たちが倒されることに特に思うことがないようで、どちらかと言えば阿修羅のスキルが見れたことに対して嬉しそうにしている。



「『鬼気飢饉斬伐舞オニノタチ・コウベ』」


「そちら様は本当に周りに気を使わない技ばかりですねッ!」



――ズシャァァァンッ!



 大雨の中巻き起こる斬撃の嵐。

 触れれば両断間違いなしな斬撃がハシュマリムを襲うが、華麗な身のこなしで回避していく。

 しかし、後方の実験体たちは突然飛んできた斬撃の嵐に巻き込まれて大惨劇といった感じなので阿修羅の思惑通りだろう。


 ハシュマリムの性能は『七元徳』の『神熾天使』の少し上と言った感じがする。ガラクシアの能力の全てをコピーできれば、とんでもない怪物になるんだろうが……あちらさんもガラクシアが今まで見せてきた力の使いように困ってる感じがする。

 単純に阿修羅相手に使えないし、使いづらいってのもありそうだけどな。


 まぁ……阿修羅と戦う際に配下を大量に連れている時点で、弱いモノ虐めの最高峰である阿修羅のことを理解出来ていない。



「ふむ……やはりこの感覚は良いものだ」


「なんかこの一瞬で強くなり過ぎじゃありませんか~?」


「さて……模倣してみると良いだろう」


「その上から目線ムカつきます♪ 『心に勇ましき熱を、スピサ・カロール拳に撃滅の炎を・スブリマシオン』」


「いざッ!」



――ドンッ!



 阿修羅が浮かんでいるハシュマリムに向かって飛び込んでいく。

 ガラクシアと似た性能をしているならば、スキルを使わせる隙すら与えずに近接戦を仕掛け続けるっていう選択をしたんだろう。


 凄まじい速さで近接戦を仕掛けに行く阿修羅に対し、ハシュマリムは『心に勇ましき熱を、スピサ・カロール拳に撃滅の炎を・スブリマシオン』という又もや『勇気ブレイブ』のスキルでの対応だ。

 『女神』陣営は近接戦は『勇気ブレイブ』による『破壊の火』での対応ってのが現状導いた結論なんだろう。


 『破壊の火』を纏ったハシュマリムによるガラクシアの模造品とは思えない華麗な打撃に対し、『神通力』と『三明の神剣』のコンビネーションを加えた阿修羅の近接戦闘のぶつかり合いだ。



「『魔神の墳破』♪」


「『暴風濫拳ッ』」



――ゴウッ!!



 さすがに距離をとらないと攻め手に困ったのであろうハシュマリムから放たれた衝撃波に対し、相殺するかのように放たれた暴風を巻き起こす正拳突きが激しく衝突した。

 相性の問題もあるが、ハシュマリムをぶつけてきたのはお相手側なので、何かしら実験したいことでもあるんだろう。だけども今のところ阿修羅がハシュマリムの性能を様子見しながらも淡々と押している。


 『四天阿修羅王』により、周囲の実験体たちも次々と葬られていき、阿修羅の能力でもある雑魚狩りすればするほど強化されていく力で、どんどんステータス値が上昇していき、ハシュマリムもそれに気付きながらも何故こうなっているのか理解できていないようだ。


 効き目がイマイチとは言え、『大武天鬼嶽道』のある阿修羅に遠距離スキル中心であるガラクシアを真似たモノでは、怪しさは満点だが阿修羅有利の展開は目に見えたはずなんだけども……何をしてくることやら。



「ハァッ!」


「くっ! 『水平線上グラウィタスの超重圧・ホライゾン』」



――ズゴンッ!



 阿修羅に蹴り飛ばされたハシュマリムは、体勢を崩しながらも一瞬で巨大な魔法陣を阿修羅を中心に展開させ、魔法陣内に超重力を発生させる極闇魔導を発動させる。


 ガラクシアよりも魔導の展開が速いみたいだけど、威力と範囲に劣るような感じがするので、ウチの面々との戦いを想定してるんだろうなって感じる。



「喝ッッッ!」



――バキンッ!!



 阿修羅の一喝により巨大な魔法陣が砕け散る。

 どんな原理なのかは俺も理解できていないが、それなりの魔導を放ったハシュマリムは少し呆れたような表情をしているので、規格外と戦うことに頭の理解が追いつかなくなってきてるんだろうか?


 ウチの面々は基本的に初見殺しによる初撃必殺で戦闘を終わらせてきたので、長い戦いは最近になってからのデータしかないだろうから、なかなかにお困りの感じなのかな?



「鬼神を舐めるなァッ!」


「無茶苦茶すぎますよ! 『獅子王大暴嵐テオ・レオネードッ』!」



――ゴウッ!!



 魔導が阿修羅に対して無意味な行為だと判断したんだろうか、お次は『知恵ソフィア』の『神熾天使』であるフロネシスの闘技を放ってきた。

 魔導よりも闘技を使用するのは正しい選択だし、僅かに出来た阿修羅との距離をしっかり活用してくるのを見ると、しゃべりながらも選択を誤らない上手さがある。


 まだまだ学習途中の実験体とは言え……普通に強いのは困ったものだ。



「『大蛇海ノ大断オロチダチッ』」



――ゴシャァァァァンッ!!



 斬り刻む暴風である 『獅子王大暴嵐テオ・レオネード』と巨大な斬撃である『大蛇海ノ大断オロチダチ』がぶつかり合い相殺される。

 何度目かわからない凄まじい衝撃波によって、崩壊状態の王都はさらに酷くなっていくが、最早そんなことはお構いなしの激戦になってきている。


 相手側の援軍が無いのは誰かしら他にも戦っているってのもあるし、意図して援軍が来てないってのもありそうだ。

 

 ……もちろんこっちは遠慮なんてしないけどな。



「ここまで距離が開いちゃえば色々やっちゃいますよ」


「……ふむ。口調は似ておらぬが外見は本当に色違いじゃな」


「ふぇ?」



 ハシュマリムの背後には、誰にも囚われることなく、どこにでも現れる神様であるデザイア&ニャルラトホテプのコンビが次元の狭間より現れていた。


 ……まさしく神出鬼没なり。


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