第8話 『実験場』


 王国全土だけでなく、王国付近の地域にも衝撃と轟音を轟かせたシャンカラの『星を飲む灼天彗星キラナ・デル・ソル』。

 『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』どころか、ピカピカだった王都をも吹き飛ばすんじゃないかと思われた小さな太陽は、王都を半壊させてしまった。


 ボロボロになり、崩都と呼べるような惨状になった街には、 『美徳の堕落天アビス』を通して見た俺を絶句させるような光景が広がっていた。


 俺は王都がどれだけ美しい街だったか詳しく知らず、どんな人が住んでいて、どんな規律で生きているかを情報としてしか知らない立場であったんだが、まさかこんなことになっているなんて思いもしなかった。



「……シャンカラがミスしたと思ったのだが……若、化けの皮を剥がすための全力投球だったようだ」


『あぁ……王都にまともな人間が1人も残っていない実験場になってるなんて思いもしなかった』


「人間の形をしていたモノが肉塊になりながらも変形している姿を見ると……こうなることも予測の内だったという訳か」


『『女神』様による新型駒制作実験場ってやつか?』


「さて……最早王都の見る影も無いが、化けの皮が剥がれたここからが本番と捉えるべきか」



――ギャァァァァァァァァァッ!!



 王都に住んでいた『人間だったモノ』たちの肉塊が集い、様々な形をした化け物が次々と生まれていく。

 バビロンが完封していた白狼だったり、巨大なオーガであったり、黒い翼をもった堕天使であったり、多種多様ではあるが持ってる武器や身体の一部が『女神』産である改造をしてあることや、漂う『七元徳』の香りが、この王都の真の姿の意味を理解させてくれる。


 王都に侵入していた阿修羅も、さすがにこんなことになるとは予想できていなかったようで、珍しく驚愕と言った感じの雰囲気を出している。


 雄叫びをあげながら誕生していく化け物たちの中で、一際異質な気を放っている奴が前に出てくる。



『阿修羅』


「ふむ……委細承知」



 あんだけ理性無く、ギャーギャー騒いでいた元肉塊たちが、2体の異質な化け物が前に出てくると、それに付き従うように列を整え、黙って2体の行動を待つかのように大人しく変貌してしまった。


 1体は双剣白狼の色違いであり、フェルと似たような魔力を放っている狼さん。そしてもう1体はガラクシアを全体的に白色にしただけの瓜二つの人型。

 

 この実験場と言うか、『運命ヲ開ク導キノ聖槍ロンゴミニアド』もそうだったが、『大罪』に対する対策本部みたいな場所が王都……最初からそうだったのかもしれない。



「さて……鬼さんご機嫌よう♪」


「ガウッ」


「……『女神』が出した対策の果てが……真似事か?」


「『大罪の魔王』と似て口が悪いな~♪ 『原初の魔王』の選ばれしプレイヤーである『大罪』の力に干渉はできないけど、真似することはできなくもないっていう1つの実験ですよ♪」


『『聖槍』のような能力をメタるパターンと、ウチの面々の模造品を創造する2つ、まぁ後は正面から殴り合える力の3パターンくらい用意してるって話か』


「おぉ~! さすが『原初』に選ばれしプレイヤーだ! 女神様はウチの勇者さんよりは簡単で遊べる相手って認識だからね♪」



 最強勇者様のほうが俺なんかより余程強く、俺なんか対策は簡単で遊んでやろうって考えのようだ。

 『女神』や『原初』からすれば、王都なんか自分たちが創り出したゲーム世界の一部にしか過ぎないとは言え……遊びにしては規模がデカいもんだ。


 ウチの面々を真似してやれば攻略できるって考えも、俺なりに色々考えてきたことが相手からしたら『規模感』が小さかったことも、何もかもムカつく奴らだが、その余裕からか口が軽いのが毎度助かるから良いとしとこう。


 俺と東雲拓真が繋がっているとは言え、相手からすれば俺たちがやっていることは相手が望んでいる流れなので、特に危機感も無いのかもしれない。

 このまま行けば、東雲拓真が『原初』を砕くほうが先ってのは相手の見解のようだ。



「『神通力』の効き目もイマイチのようだ」


「干渉できないけど、女神様からすれば何回も見てれば対抗した力を生み出すことなんか簡単なんだから♪」


「ガウッ!」


「『大武天鬼嶽道』の効きはあるようだがな」


「Lvシステムは『原初の魔王』と女神様が2人で決めた根幹のルールだからねぇ♪ でもそんな数字を塗りつぶしちゃうんだから♪」



 本当に俺のことを見下してくれて助かる。

 生意気なことをやりすぎて、『女神』陣営からすれば、とんでもなく嫌われていてそっからくる舐めた感じなのかもしれないが、この口の軽い感じはどこまで行っても俺を助けてくれる。

 『女神』は伝えてないんだろうが、どうせこの2体も『大罪』を対策する実験の1つでしかないってのにな。


 阿修羅は淡々と敵の全体図を思い描いているんだろう。数が多く、ボロボロになって足場も悪い王都でどう戦いを終わらせるのかってのを。

 

 俺はゆったりと『美徳の堕落天アビス』を上空に向けて動かしていく。



「くすっ♪ 『七元徳』との戦いで少しは戦えるようになったけど、結局は部下頼りの小心者魔王ですね♪ ウチの勇者さんとは大違いです」


『その言葉自分の主に言ってやれよ。『大罪』にビビり散らかして3つも頑張って対策考えて実験しなきゃいけない……どっかで震えてる小心者女神様にさ」


「アァッ!?」



 こんな子どもみたいな煽りに対し、ガラクシアのパチもんと二足歩行フェルのパチモンが過剰なほどに反応してくれた。

 人のこと煽るんだったら、自分も煽られることぐらいインストールしてくれないと煽り合いにならないから、そっちも『女神』に対策しといてもらわないとな。


 上空に浮かんでいく『美徳の堕落天アビス』に視線を向けてしまうような隙を阿修羅が見逃すはずもない。



「『覇道・八雲物語ヤクモノガタリ』」


「ッ!」



――バシュッ! 



 攻撃してくださいって言う隙を阿修羅は的確に突いた。

 フェルのパチもんはバラバラに斬り刻まれ、ガラクシアのパチもんは左手左足が吹き飛んだ。

 阿修羅の『覇道・八雲物語ヤクモノガタリ』と同時に王都の上空に黒い雲が生まれ、風と雨が吹き荒れ始める。


 一瞬にして試合終了まで追い込まれたガラクシアのパチもんは、左手左足を斬られたのに笑っていた。



「ふふっ♪ なるほど……強くなっても本質は変わらずですか、配下の魔物もよく主を理解してますね♪ あの一瞬で1人やられてしまうなんて」


「斬る前に挨拶が必要だったか? 鬼神大嶽丸と申す魔物だ」


「貴方方のお仲間の1体とその他諸々が混ぜ込まれた堕天使型、ハシュマリムと申します♪」


「『天下風雷ノ陣』」


「せっかくお洒落が雨で台無しです♪」


「ふむ……雨も滴るなんとやらを目指すと良い」


「そうしましょうか♪」



――グチュグチュグチュグチュ



 阿修羅に斬られたハシュマリムの左手左足は一瞬にして再生し、ガラクシアと似た魔力を周囲に放つ。

 

 阿修羅は特に動揺することなく、『女神』産の魔物の大群と戦うことをどこか嬉しそうにしているのだった。


 

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