第4話 『双剣』の神獣


 フェルの解き放たれた『氷月ノ神魔槍グングニル・ハティ』と『貪り縛る足枷グレイプニル』がビックリ箱のように飛び出してきた巨人を上手く封印してくれたおかげで、とりあえず最初の砦を抑えることに成功した。


 しかし、封印することに成功したのは良いんだが、俺とフェルじゃ巨人に致命的なダメージを与えることが難しいということも判明したので、他の戦場が良い感じになるまで巨人の近くで待機することになってしまった。


 イデアとウロボロスが敵さんの『神聖天装』を参考にしてネメシスを大幅強化してくれるそうなので、とにかくそれまでは見守るしかない。



「『美徳の堕落天アビス』の空飛ぶ戦場カメラ能力を使っていくか」



 使うことなんて無いかなって思っていた『美徳の堕落天アビス』のカメラ能力を留守番しながらでも情報を得るために使ってみることにする。

 実は先の戦いの中で『美徳の堕落天アビス』をばら撒いているので、そろそろ王都周辺の戦場に到着するはずだ。


 コアを弄っているときに出てくるようなモニターを俺の手元にいる『美徳の堕落天アビス』から展開してくれるので、フェルと一緒に観戦することができそうだ。


 そして映し出されたのは、自然豊かだった王都周辺が荒れ地へと姿を変え、『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』の世界の中で大量の強化スケルトンと王国騎士団員たちが争っている光景だった。



『バビロン! 聞こえるか~!?』


「おぉッ! 王の『美徳の堕落天アビス』が飛んでいると思えば……デザイアから聞いましたぞ」


『さすが情報が回ってるな。そっちのほうは大丈夫そうか?』


「我が無敵のスケルトン軍勢相手に2人幹部格が出てきておりましたが……劣勢だとわかった途端に人の皮を捨てましたぞ」



――ギャオォォォォォォッ!!



 なんと『美徳の堕落天アビス』周辺の音も拾えるスーパー機能があり、バビロンに寄ってくれたおかげでバビロンに戦場の様子を確認することができた。

 

 そんな中戦場に木霊する獣2体の雄叫び。

 『美徳の堕落天アビス』に映ったのは、バビロンの力で不死身の軍勢となったスケルトンに囲まれながらも、両手にもった巨大な双剣で薙ぎ払いながら進軍している2足歩行の大きな白狼獣人だった。

 部分部分に立派な黄金の鎧なんかも身に着けているので、あれが王都西門周辺の任されていた王国騎士団の団長・副団長クラスの人間だったんだろう。


 戦場を埋め尽くす機動力があって消滅させない限り復活し続けるスケルトンに対して、こんなにも早く正体を現すってことは、砦での光の巨人がバレたから隠す必要も無いって線もあるのかな?



『まぁ……これで王国騎士団の幹部格は人を捨てたってことが大体確定したかな』


「それに我が無敵の軍勢への対策をしているのを見ると……読まれておったようですぞ」



 フェルの3倍はあるだろう2足歩行の白狼たちがスケルトン達を巨大な双剣で薙ぎ払っていく、普通であればバビロンの力で不死身に近い性能で湧き出てくるスケルトンの量に飲み込まれるはずだが、双剣で砕かれたスケルトンたちが再生せずにそのまま消滅していっている。


 イデアの時からだったが、とことん『大罪』の力を掻き消す方向性で策を練り上げ、そして化け物たちを創り上げてきたようだ。

 『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』の中で、バビロンの都合の良い展開になっていない時点で相手のほうが今のところは上手くやっているってところかな。


 バビロンに対してデバフはかけないけれど、バビロンが他者にむけて発動する力をとことん狙って消しにきているってのは上手いもんだ。


『大丈夫そうか?』


「もちろん! せっかく我が王が来てくださったのであれば……あの獣から全てを絞りだして見せましょう!」


『あんまり気負い過ぎない程度で良いからな』


「『竜虚像・虚仮威姿ドラコーン・セトネ』」



――ギャオォォォォォォォッ!!



 突如現れたのは『虚飾ヴァニタス』の魔力で構築された巨大なドラゴンだった。その大きさは2体の白狼からすれば少しはビビってしまいそうなほどではある。

 スケルトンを薙ぎ払いながら猛スピードで前進してくる白狼たちも、さすがに真上に出現した巨大なドラゴンを無視するわけにはいかなかったようで、双剣を振り回して飛ぶ斬撃を放ちはじめた。



「ふむ……『虚栄の滅却ヴァニティ・フレア』」



――ギャオォォォォォォォッ!!



 触れれば両断確定ってほどに恐ろしい斬撃の中、『竜虚像・虚仮威姿ドラコーン・セトネ』の口から赤黒く禍々しい炎が放たれる。

 一瞬にして地上が『虚栄の滅却ヴァニティ・フレア』の炎に包まれる。しかし、そんな炎上の中を気にせず、雄叫びをあげながら斬撃を飛ばし続ける白狼たち。


 さすがにおかしいと感じたのか、『竜虚像・虚仮威姿ドラコーン・セトネ』に対して攻撃するのを止めて様子を見始めた。



「痛みも恐怖も感じぬが……疑う知性だけは持っておるようですな」


『本当にバビロン対策してきてるんだな。あんまり見せたこと無かったはずなのに』


「出でよ『黙示録の獣』」



――ギャオォォォォォォォッ!!



 『虚飾ヴァニタス』のスキルである『竜虚像・虚仮威姿ドラコーン・セトネ』と『虚栄の滅却ヴァニティ・フレア』、どちらも外見は禍々しくて恐ろしいのだが、中身はその外見にビビった相手の精神と肉体に悪影響を与えるモノであり、白狼たちはそれに気付いたのか『竜虚像・虚仮威姿ドラコーン・セトネ』を無視して突き進んできている。


 恐れれば怯ませる『竜虚像・虚仮威姿ドラコーン・セトネ』、そして暑さや痛みを想像してしまえばその通りの現象を与える『虚栄の滅却ヴァニティ・フレア』のどちらも効果がないのを確認し、バビロンも相棒である『黙示録の獣』を呼び出した。


 バビロンも『黙示録の獣』も、豪勢な装飾品をジャラジャラと身に着けているので、正直『美徳の堕落天アビス』ごしでも煩いんだが、状況が状況なのでツッコミよりも心配が勝ってしまう。



『『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』をどうやって防いでいるのか気になるな』


「最早王国騎士団にあらず……人の皮を被っただけの女神の犬どもに、我が手札を少し見せてやるとしよう」


『……やりすぎ注意だぞ』


「王からの許可も出た! 刮目して拝むが良い女神の犬よ!」



――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!



 ただでさえ『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』の中は『虚飾ヴァニタス』の魔力が濃いのに、バビロンからさらなる魔力が解き放たれ、『無千年骸骨王国思想ジ・バビロニア』の結界内が所々歪み始める。


 『虚飾ヴァニタス』の『大罪』バビロン。

 骸の王に刻まれし、真なる『原罪』の力、『黙示録の獣』からも凄まじい量の魔力が溢れだしており、さすがの白狼たちも接近を躊躇いはじめた。



「見るが良い! 『欺瞞色に染められしロイヤル・ストレ栄華に満ちた天の花ート・フラッシュ』」



 最高の札が披露される時が来た。

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