第3話 『神封じの狼』


 『大罪』の状態異常とネメシスの攻めを弾き返す鉄壁とも言える守り、そんな『神聖天装』をウロボロスと『UNION・SiN』したことによって可能となった毒を弾丸に纏わせて相手の内側に転移させる方法で撃墜することができた。


 イデアが難なく砦を制圧できたのだが、撃墜したはずの2体の天装から放たれたのは夥しいレベルの魔力と気。

 ビックリ箱のように飛び出してきたのは、とても眩しい光の巨人。全身が光の粒子のようなモノで構成されているのか波打っており、剣と盾をもった男のような形をしているデカい奴。



「一気に『女神』の存在感が大きくなったな」


「あの「神聖天装』ってのは前菜だったみたいかな」


「イデアはウロボロスと一緒にネメシス強化のために戻っていいぞ」


「……風邪引く前に逃げようかな」



――パキッ パキパキッ!



 ウロボロスと合体していたのを解除し、戻ってきたイデアに『神聖天装』は解析して得られた情報でネメシスを強化しにいくようにお願いする。

 目の前の光の巨人は、まだ肉体が定まっていないのかうねり声をあげながら、神熾天使と戦ったときにあった『聖神力せいしんりょく』を纏っている。


 素早い転移でウロボロスとイデアが消えていき、俺の足場が無くなってしまったことで地上にゆったりと落ちているのだが、地面が近づくにつれて思わず震えてしまうような冷気が漂ってくる。



「とりあえず安全に地上に降りるために……『美徳相位ビトクノソウ置転換術イチテンカン』」



――バキバキバキッ!



「うおッ! ウロボロスに乗ってて見えなかったけど、一瞬でこんな氷河期みたいなことなってたのか」


「ワウッ!」


「さぁ……あのデカいのもそろそろ覚醒しそうだし、やってやるかフェル」



 展開していた『美徳の堕落天アビス』と『美徳相位ビトクノソウ置転換術イチテンカン』して安全に地上に着地することができたのだが、そこに広がっていたのはフェルが展開していた氷の世界だった。

 遅れて到着したフェルが元気そうに近寄ってきたのだが、あまりの寒さに上手く体が動かないので、とりあえずフェルのモフモフに抱き着いておくことにする。


 フェルが展開した氷の世界の影響力があまりにも凄すぎて、光の巨人さんの下半身も凍り付いている。



――オォォォォォォォォッ!!



「縛ってやれッ!」


「ハオォォォンッ!!」



 雄叫びをあげる光の巨人。

 あまりの巨大さに少しの行動を起こすだけで衝撃波を放つようなインパクトのある存在だが、フェルに下半身を氷漬けにされているせいで動けていないし、俺たちが地上にいるので場所もイマイチわかっていないだろう。

 

 フェルの雄叫びによって巨人の周囲から飛び出てくるのは『貪り縛る足枷グレイプニル』。

 下半身を氷漬けにした後、神をも縛り付ける縄が上半身を縛り付けていく。



「どんな能力持ちなのか気になるけど、好奇心を出せる時期は終わったからな」



――ドドドドドドッ!!



 フェルの『貪り縛る足枷グレイプニル』で上半身を縛り上げながら、さらに地上から『氷月ノ神魔槍グングニル・ハティ』で追撃していく。

 こういったヤバそうな奴は覚醒する前に何もさせないように封じていくのがお決まりだ。きっと『女神』様の兵器だからとんでもない力を持っているだろうから、フェルのスキル手順は完璧だと思う。


 『貪り縛る足枷グレイプニル』でグルグル巻きになり、上から全身氷漬けになって完全に動きが停止した光の巨人。

 ダメージもかなり与えているんだけど、全然傷ついている感じがせず、何とか動きを封じていることができているが、『災禍』の状態異常も弾かれている感じだ。



「これ覚醒させてたら……そうとう面倒なのが誕生してた説あるな」



 フェルの本気出したら一帯が氷河期になってしまい、普通の奴ならまともに動けなくなるレベルだったのが今回功を奏している。

 目の前の巨人さんは覚醒してたら……たぶんヤバいレベルの存在だった。フェルの攻撃受けて傷ついている様子がなかったのが恐ろしい。


 『貪り縛る足枷グレイプニル』があるから、このままフェルの魔力ある限り封じておくことはできそうなので、とりあえず王都に行くメイン部隊が仕事を終わらせるまで、この巨人さんには眠っていてもらうことにしよう。



「それにしても……フェルの氷河期モード凄いなぁ。全開放してたら俺も氷漬けだったろ?」


「クゥ~ン」



 寒さから逃げるようにフェルの身体をモフっておく。

 単純に強い『氷』属性特化の力がここで大活躍だ。『大罪』の状態異常系統には耐性があったようだが、ストレートな力には普通と変化無いようだ。


 とりあえずフェルもここで巨人を封じておくことを理解してくれているようなので、この巨人を封じている間に調べ尽くしたところだが、イデアは一旦ネメシスの強化に入ってしまっている。



「みんながやってくれるのを信じて……とりあえずは待機コースだな」



 最悪巨人が覚醒しても、俺とフェルが全力出せば何とかなるだろう……と言うかならない場合は他の面々がこの巨人と遭遇したときも危ないってことになる。

 

 国境砦を抑えることに成功した。

 『神聖天装』とやらがまさか前菜だったのは驚きだった。今回得ることができた情報だと、王国騎士団の幹部格2人落ちたときに面倒なことが起こるって感じだ。

 確かに『女神』様が普通の人間に期待するのも変な話だなんて思っていたんだけど、やっぱり本当の化け物を隠すための蓑だったってことだ。


 この『神聖天装』と巨人でどこまでやれるのか実験的な感じで、ここに敵さん配置されてたんだと思うんだけど、なかなかに嫌な予感がするな。



「『七元徳』戦の情報を元に対策と耐性つけられてる説あるなぁ」



 イデアのスキルが通用しなかったのがこの説を濃厚にしている。

 もし『大罪』の状態異常系統に耐性をガッツリつけて待たれているのは面倒すぎる事案だ。

 そうなると『七元徳』戦はこの戦いにむけての事前準備みたいな感じも俺的には過ってしまうんだけど……そんな感じなんだろうか?



「今まで手札隠してコソコソやってきて良かったパターンになるな」



 フェルに暖めてもらいながら、今回暴れる決意をしているウチの面々がどんな風にやってくれるのか少しワクワクしてくる。

 


「この初戦もお相手さんは様子見だろうけど、俺たちだってこっからが本番だってとこ見せてやんないとな」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る