外伝 もしも『大罪』で無いのなら?


――『罪の牢獄』 コアルーム



「……なるほど、そんな勝負をするためにここまで来たのか?」


「せっかくの休み時間なので、閣下との争ってみるのも面白いかと」



 休み時間と言うか、1日も終わり良い子は寝る時間になった頃。

 いつもはアークの屋敷で寝ているはずのルジストルが何か企んでいるような顔で、寝る前に調べ物をしていた俺のところへやってきた。

 王国へ攻め込む前の大事な時期なので、何をしにきたかと少し身構えてしまった俺にルジストルが言い放ったのは、何とも拍子抜けするようなことだった。



「俺が『大罪の魔王』じゃなかった場合のダンジョン踏破ねぇ」


「閣下が『大罪』以外で魔名を決めて頂いて、決められたDEでダンジョンを作っていただきたいのです」


「それをルジストルが攻略するって感じね」


「所詮、机上の空論遊びにはなりますが……少しは楽しめるかと」


「寝る前のお遊びってことで付き合うとするかな」



 互いの脳内で戦い合うシュミレーションゲーム的な感じだな。

 ルールは簡単なんだが、肝心なのは俺が『大罪』以外で何の魔名を使うかって話だ。さすがに『七元徳』や『神狐』と言った壊れた魔名ではなく、割とノーマルめなのをご所望らしい。


 せっかくなので、今まで俺が出会ってきた魔名の中から選びたいが、戦ってきて印象的な相手はいただろうか? 『大罪』じゃないのなら、俺が使用できる魔物も違ってくるので、ウチの面子じゃなかったら厳しかった相手を選びたいところだ。



「うーむ……魔物をメインにするか、ダンジョンのギミックをメインと考えるか」


「閣下と言えば魔物をメインに置くイメージがありますな」


「今でこそ魔物メインの魔王なんだけど、最初は魔物の能力に頼ったギミック系のダンジョンを作る予定だったんだよ」


「爆弾に感動していおられたと聞きました」


「『魔像』『偽宝』……『水』もいいなぁ」


「さすが閣下、なかなか面白い選択肢ですな」



 ストレートに魔物の力で正面から迎撃するって形は、DE的にも称賛的にもコストパフォーマンスが悪いと思っているタイプなので、バビロン・メル・イデア・デザイアのような魔物をコア無しで創造できるタイプがいない限りは、確実に魔物の能力を駆使したギミック中心にしたほうが強いはずだ。

 

 今まで俺が出会ってきた中で、アイシャの『焔』だったり、『豪炎』や『滅獅子』なんかはパワータイプの魔物が召喚できそうだけど、それで勝ち抜くのは、俺の頭じゃ難しそうだと判断した結果、『魔像』『偽宝』『水』の3つを最初に考えた。



「閣下の選定基準が気になりますね。『溶解』も選択肢に入れると思っておりましたが……」


「ダンジョンに攻め込まれる形だから、俺は入り口で確殺できるようなギミックのことしか考えてなかったな」


「盛り上がりも何もない、エンタメ性のない発言ですな」


「意気揚々と入ってきて、入り口でグチャグチャになるって最高のエンタメだろうが! まぁDE稼げないし、人来なくなるから普通ではやんないんだけど」



 『魔像』のゴーレムやタレットのような自立兵器、『偽宝』のトラップ地獄、『水』の溺死確殺ルートとかなり悩ましい陣容だが、どれが1番多くのシチュエーションに対応できるのか考えなきゃいけない。

 対応とか言わず、いかに殺戮力を尖らせるかに思考を寄せるのも、手段の1つと言えば1つだけど……どっちのほうが良いんだろうか?

 

 色々考えると、本当に汎用性素晴らしくて尖らせることも可能な『魔像』を選択するのが1番な気がしてきたな。



「『魔像』かな。ピケルさんが殺戮者だった場合の再現が出来そうだ」


「相変わらず物言いが物騒ですな……閣下らしいですが」


「入り口に大量の爆弾と機関銃を装備したゴーレムを配置して、情けなく蜂の巣だな。ダンジョンは全部ロングレンジか罠で埋め尽くすのが良さげか?」


「ハハハッ! さすが閣下! やはり力を手にしても変わらぬようで安心安心」


「……もっと思考を進化させろってか?」


「いえいえ……単純に褒めているのですよ。いつまでも変わらない敵に対しての考え方に。その変わらぬ姿勢に我々配下は安心して着いて行けるのです」


「わざわざこんな回りくどい質問しといて……まぁ確かに変わって無いかもな」



 力を手にしたってのは、『七元徳』との戦いで俺が『大罪の大魔王』へと進化したことを言っているんだろう。

 俺自身が戦えるようになったから、今まで徹底してきた考え方を忘れてしまっていないかの質問をされていたみたいだ。確かに戦えるようになったからと言って慢心してたら恐ろしいからな。


 失敗の恐れなのか、単に必要としないのかルジストルは自身はこれ以上強くなることを望まない。

 今まで3回くらいは確認したことはあるし、ポラールやガラクシアからの説得があったのに、毎度毎度ご丁寧に断りを入れてくるので、こういった考え方に思うところがあるのかもしれない。



「1人くらい『罪の牢獄』に弱者寄りの思想があっても良いのです。皆と違う世界が見えることが……閣下の役に立つことがあると言うことですね」


「なんかそれっぽいこと言ってんな」


「つまり……これ以上仕事を増やさずに私に遊ぶ時間をくれと言うことですね」


「……ルジストルこそ相変わらずだな」


「ひん曲がった考え方こそ閣下の配下らしいでしょう?」


「あまりにも語弊がありすぎるだろ! ルジストル以外に歪んだ考えの奴ウチにいないぞ」


「閣下の思想が当たり前すぎて捻じれているのに気付いていないだけですよ」


「……そうなのか?」


「ふむ……閣下で楽しめたので、私は寝るとしましょう」


「お前本当俺で遊んで楽しんでるよな」


「刺激のある日々が送れて、閣下はなんと幸運なのでしょうか」



 ……少し相手にするのが面倒なレベルだし、結局何したいのか理解出来なかったが、とても満足そうな顔をしたルジストルはコアルームから去っていった。

 『大罪』じゃない魔名だったらって質問は単純に面白そうだったから、出来ればな本当に考え合って戦ってみたかったが、ルジストルは最初からその部分には興味が無かったようだ。


 なんで遠回しに色々言って来たのかは置いておいて、いつも雑務ばっかりしてくれているルジストルが、このくらいで楽しんでくれるなら俺としても良いのかななんて思ったりもする。



「初志貫徹……意外とみんな心掛けてるようでやれないことだからな。改めて胸に刻んでおくか」



 嵐の前でも、なんだかんだ『罪の牢獄』は本日も平和である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る