エピローグ 『嵐』の前の静寂


 アイシャの聖国征服宣言、最強勇者による『星魔元素』討伐のための進軍を皮切りに、ついに動き出した四大国全てを巻き込む大戦乱。

 騎士だろうが冒険者だろうが、プレイヤーだろうが魔王だろうが関係無し、勝者だけが正義であり、勝った者だけが次のラウンドへ駒を進めることのできる死闘。


 俺も王国に攻め込める準備も着々と進んでおり、そんな俺の動きを察してか、それとも他に王国へ攻め込んで来る相手への牽制なのか、王国側も王都を守る動きをしている。

 


「俺たちと王国騎士団の一騎打ちには……まぁどう頑張っても無理そうだな」



 俺たちが調べることが出来た感じ、王国で巻き起こる大戦乱の陣容は、まず俺たち『大罪』陣営と、それに便乗する王国にいる魔王たちの一部が王都へ攻め込む側として存在する。

 そして王都やその他重要な拠点にて防衛するのが、『女神』・『七元徳』が後ろ盾にいるであろう王国騎士団が王都をメインに防衛し、名のある冒険者も王都で防衛、そしてプレイヤーや経験値の足りない冒険者が王都外の拠点を守る形で構えてくる感じになるだろう。


 ここからは予測の範疇を出ないんだが、戦いが盛り上がってきたところで乱入してくるハッピーな奴らも少なからずいるはずだ。

 状況に応じて出てくる様子見していた魔王であったり、面倒な奴らがワラワラと沸いて出てくることだろう……億劫だ。



「どう頑張って王国騎士団に擦り付けるか」



 目的は『女神』と『七元徳』であって、国を守っている王国騎士団の連中じゃない。王国騎士団を全滅させる時は、『女神』と『七元徳』が王国騎士団を倒さないと会うことが出来ない時ぐらいだ。

 さすがに立ちはだかってきた奴らと戦うことはあるだろうけど、無理な殺生なしない予定ではある。王国騎士団には他魔王や魔物の相手を頑張ってしてもらいたいところだ。


 『女神』と『七元徳』が後ろにいる以上、俺たちも油断してたら狩り取れられる側に回ってしまうので、もちろん……最低限の守りの札を『罪の牢獄』に残して、万全の構成で王都へ行くつもりだ。



「聖国は……本当にアイシャ1人で大丈夫なんだろうか?」



 アイシャの圧倒的な火力で、寄るモノ全てを燃やし尽くしてきた聖国での序盤の展開だったが、さすがに対抗戦力が多くなってきたことで厳しくなってきたのか、少しずつアイシャの侵略速度が低下してきている。

 聖国には、まだまだ猛者魔王がそれなりに残っていたことを考えると、さすがにやる前からアイシャも予測出来ていた展開なんだろうけど、正直心配ではある。


 いくら魔王単騎の力で言えば最強格とは言っても、猛者魔王に猛者人間だったりを相手にとるには戦術の幅が少ないように見える。



「隠し札が多くあるんだったら……話は別なんだけど」



 『黄金の火』がいくら戦闘において優秀過ぎる力とは言え、どこかしらの魔王や猛者人間が対抗する手段は……あれだけ数がいればあるのは当然だ。物量の力で『黄金の火』が押されてしまう展開も無くは無いだろう。

 

 そして、やはり漁夫の利を狙ってか、あまり聞きたくない名前まで聞こえてきてしまったのだ。



「『終焉之拳の魔王デッドスター』」



 そこまで話をしたことも無いし、戦ってるのを観たことあるわけじゃないけれど、魔王界では伝説が多いらしく……様々な逸話だけ知っている魔王だ。

 『魔王八獄傑パンデモニウム』の1人だけあって、魔王単体での戦闘に自信あります系の魔王であり、拳1つで魔王界のトップまで昇りつめたらしい。


 『魔王八獄傑パンデモニウム』の歴も1番長いらしく、幾多の挑戦者を拳1つで粉砕し続けた結果、あまりの強さに怯えたのか誰も挑むことが無くなってしまったそうだ。



「もしデッドスターが来たとして……アイシャにどうやって戦うのやら」



 戦闘狂の一面もあり、真っ向勝負を好む性格らしいので、弱ったアイシャに不意打ちなんて言う……俺がやりそうなことは絶対にしないだろうから、今のアイシャにタイマンを挑むのであれば、どのようにして戦うのかは気になるところだ。

 メビウスのように完全な相性対策が出来るのならば、勝つのは容易いことなんだろうけど、『神炎』の魔名を得て強化されたアイシャに正面から勝てる奴が魔王界にいるのか楽しみなところだ。


 

「最強勇者は心配するだけ無駄な気がしてきた」



 公国で『星魔元素』陣営を相手に戦う勇者陣営……というか東雲拓真。

 あまりの強さに心配するのが無駄になるほどに無双劇を続けているようだ。さすがこの世界で1番強いんじゃないかと一目見て分かる男だ。


 3つの能力で全てを解決しており、どんな魔物も人間も蹴散らしている。数が多すぎるので時間がかかってしまいそうなことぐらいが不安要素で、『星魔元素』のいるダンジョンに到着しても、なんだか苦戦はそこまでしないんじゃないかっていう変な安心感がある強さをしている。



「そんな最強勇者に好奇心を隠し切れない魔王がいるのが……一筋縄に行きそうにない要因だな」



 リンさんは元々興味を示していたらしいが、最強魔王の『皇龍の魔王クラウス』までもが公国に偵察を出して楽しむほどに、東雲拓真という存在は強烈らしい。

 最悪の展開になってしまえば、公国という存在が消し飛ぶような怪獣大戦争になる可能性だってある。


 欲張れば、王国での戦いを終わらせて公国に行きたいところだ。本当に欲張ればの話だけどな。



「ご主人様。準備が整いました……すぐにでも王都周辺に跳ぶことができます」


「アークに大軍勢で押しかけてくることも考えてたが……思ったより静かだったな」


「来るならご主人様が王都へ出た後でしょう」


「この短期間でどんな準備を互いに出来ているか……勝負だな」



 思い描いている通りの物語の進行度であれば、終盤戦に来ているはずだ。

 とっとと『原初』と『女神』にこの世界で引導を渡して、全ての世界線が平和になってくれるように……頑張ろうじゃないか。

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