第19話 『火の頂』
――バチッ パチパチッ
聖国のとある荒野。
至る所で黒煙が上がり、黒焦げになった魔物の死体が数えきれないほど転がっているという光景。
『七元徳』は消え、最強の勇者である東雲拓真も公国に再び移動していき、ソウイチとアイシャがタイマンバトルで傷を負ったことにより始まった何度目かの聖国の頂点を決める争い。
聖国外からも魔王たちが侵略し、そこに名のある冒険者たちもやってきたことで巻き起こった大乱戦、最後に立っていた者が勝者と言わんばかりの争いは聖国の中心部に存在している荒野にて激化した。
「……ハァ……ハァ……ゴハァッ」
「さすがに魔力の消費が酷いですね」
混乱を極める戦場に突如現れ、圧倒的な火力で見る者全てを焼き尽くして至った魔王。2時間も経たぬ中で進化した『火焔皇』の力を見せつけるかの如く薙ぎ払っていったのは『火焔皇の魔王アイシャ』であった。
ソウイチの助けもあり、なんとか『神炎』の魔名を手に入れたアイシャを誰も止めることはできず、『燃やす』という概念を付与できる『黄金の火』の前に、名だたる魔王や冒険者たちは塵になり消えていった。
『豪炎』の時と同じように、アイシャのパワーアップに必要だった『神炎』の魔名。その力を糧にしたアイシャはさらに強くなっており、魔力を解放しただけで近くにいる者は呼吸すら困難になっていき、触れ続ければ炎上してしまう灼熱の魔力を身体から放つようになっていた。
「ソウイチが嫌がりそうなタイプになりましたね」
元々『
魔力量が多いのに燃費をとにかく気にすることで有名なソウイチからすれば、低評価されてしまうであろうアイシャのスタイル、もし自分の力の全容が知られたら、ソウイチに苦い顔されそうだなと思いながら、アイシャは周囲を見渡す。
「途中から諦める魔王も多かったですが……DEは取り戻せましたね」
『焔の魔王』時代から、アイシャを支え続けてきた最強の相棒であるドラコーンは、アイシャが目指す頂きのための糧となり、アイシャの中へと消えていってしまったことで、アイシャ陣営の戦力が危険なレベルになってしまった。
『神炎』との戦いを終えたアイシャは残っていたDEの大半を使用して、ダンジョンの戦力を補強した影響で、DE不足だったアイシャは今回の乱戦で得たモノに満足そうである。
高火力で攻め貫くスタイル、自分の火力を押し続けることで勝ちを目指す『火焔皇』の力、後手に回れば捌くことは不可能とも思えるレベルに達したアイシャを止められる者は聖国には来ておらず、完全にアイシャの1人勝ちとも思える光景が広がっている。
「……公国のほうが興味を持たれているようですね」
最強勇者が『星魔元素』を討ちに行くと誰もが知るようになった今、『七元徳』が消えてしまい、戦乱にの影響もあって何も無いだけの場所の聖国よりも、『星魔元素』が居なくなり無法地帯になる可能性のある公国のほうが魅力的に感じる魔王が多いとアイシャは感じている。
『星魔元素』と戦う東雲拓真を討てば、魔王としての名は一気に上がり、もしかすれば席が空いている『
「……ならば私が聖国を治め、頂きに1歩近づかせてもらいます」
必要なのは崩壊状態であり、勇者の本拠地ともされる聖国を魔王である自分が立て直す覚悟と根気であるとアイシャは己に言い聞かせる。
魔王界では崩壊した聖国を『七元徳』のように影から王になろうという気概のある者がいない現状、一気に四大国の内の1つの王になれるチャンスではあるのだ。
立て直し完了間際を狙う魔王が確実に存在しているのであろうが、そんなことを気にしていては何も掴むことはできないと思いながら、アイシャは聖国を自分がどのような形で持って行けるか考える。
「……私ではソウイチやアクィナス様のような方法は難しそうですね」
今の迷宮都市ですら、ソウイチほど上手くいっている訳ではなく、本当にダンジョン攻略にくる冒険者の拠点の1つレベルの認識でしかないモノしか自分にはできないと感じるアイシャ。
終着点をどこに持って行くか考えていると、1つの良い着地点に辿り着く。
「……私としては聖国の王である認識と、大量のDEが手に入る環境であれば構わない。ならば人間と共存するのが良い訳でもないですね」
完全なる魔王の国。
勇者の本拠地である聖国を、完全にアイシャとその配下の魔物が支配する魔の国に変えてしまい、常に自分を討ちに来るような冒険者と勇者が存在するようにすれば自分の目的は果たせるのである。
今聖国にいる人間たちの大半は、他国に自分の悪名を広めてもらう宣伝柱にでもなってもらうのが良い、アイシャは人間からすれば平和の無き魔の国にし、聖国全土を自分を高めるための場にするというルートで行こうと考える。
「……ソウイチが言う魔王らしいというのは、このような思考のことを言うのでしょうか? 魔王の頂を目指す私には、必然の道だったのかもしれませんね」
魔王と魔物だけに焦点を当てた魔の国。
聖国としての歴史には終止符を打ち、新たなる国へと変えていくのには時間と労力がかかるであろうが、アイシャはこのチャンスは、それだけのことをする価値があると判断する。
あまり表には出ないが、完全に帝国の王であるソウイチとは違う形で、自分は聖国の王になってみせると、固い決意を持ったアイシャであった。
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