第16話 『化ける』者たち


――『百鬼夜行の桜華城』 中庭



 主である魔王の力の影響なのか、城の外の景色は変幻自在。

 桜が咲いていたり、雪が降っていたりとリンさんの気分次第でコロコロ変わるダンジョン『百鬼夜行の桜華城』。

 そんなダンジョンにある巨大な広場のような場所、『罪の牢獄』で言うところの『闘技場』エリアのような場所へとやってきた。


 リンさんの魔物は記憶が戻った俺だから分かるが、大体が妖怪関連の魔物たちばかりだ。至る所に潜んでいるのでこのダンジョンをクリアするのは相当大変なんだろうなと思わせる。



「……行ってくるね」


「ケガしないようにな」


「はーい」



 桜並木と雪の積もった木に囲まれた広い中庭。

 観戦しながら酒を飲むような場所に俺たちは観戦するために待機、そこからスライム形態のメルがゆっくりと中庭の中央まで移動していく。


 リンさんの傍に居る玉藻の前はメルを何度か見ているので、特に思うところ無さそうだが、至る所に居る妖怪魔物たちがスライムであるメルにガヤガヤと驚いている。

 俺のことはなんとなく知っているんだろうが、スライムが弱いという固定概念は捨てきれてないようだ。

 妖狐や鬼、天狗に一反木綿など本当に俺の記憶にある妖怪たちがたくさんいる。ウチにいる阿修羅や五右衛門もリンさん陣営と馴染める種族だな。


 

「ウチのワクワクさせる戦いしてな銀閣」


「嫌な役目を押し付けられてしまいましたね」



――ブワッ!!



 メルと同じように中庭の中央へ向かうのはリンさんや玉藻の前と同じような人型妖狐、銀色の尾を見るに銀狐ってやつなんだろう。

 歩きながら増えていく銀の尾、1本増えるごとに魔力の圧や気配が強くなり、中央に辿り着くころには九尾の銀狐へとなり、落ち着いた話し方だったのからは想像しづらい凄まじい魔力圧。


 銀と青色の和服を身に纏い、銀の九尾をゆさゆさ揺らしながら、中庭中央で向かい合うメルに丁寧に挨拶をしている。


 それにしても広い中庭だ……ウチの闘技場よりも少し広いくらいなので、メルも思う存分やれることだろう。



「お手柔らかに頼むよ」


「……メルのこと馬鹿にしてるね」


「随分辛辣じゃないか」



――ボンボンボンボンッ!



 銀閣と呼ばれていた妖狐の尻尾たちが銀閣の姿へと化けていく。見た感じは尻尾の数だけ増やせる分裂のようなモノだろう、それぞれから銀閣本体と同じレベルの魔力を感じるので、相当な分身術と見える。


 そんな銀閣のスキルを見て、メルは自身の身体から分裂体を大量に産み出していく。分裂体は少しずつ大きくなっていき、グニャグニャと形へ変形させていき、『破王鬼の魔王ゴウキ』の姿になった。

 『幾万の姿を写す神粘土アルテマ・スライム』と『完全模倣』によって、『破王鬼』と同じようなスペックパワーをもった分裂体を数十体誕生させることに成功したメル、さすがのスライム戦法だ。



「相変わらず何でもありやな~♪ ウチの銀閣でもあそこまで完璧に化けさせられへんよ」


「スライムならではのって感じですよ」



 筋肉ダルマな『破王鬼』たちに化けたメルの分裂体と、銀髪銀尾の妖狐である銀閣の戦い、両者数を増やしたは良いがどちらから仕掛けるかで静止した状態である。きっかけがあればすぐにでも激戦が始まりそうな空気だ。


 見た感じ銀閣っていう魔物は中距離や遠距離が得意そうなタイプ、武器を持っているようにも闘気を纏うタイプにも見えないので、とりあえずどんな感じで動くかの様子見をする意味もこめられた『破王鬼』の分裂体なんだろう。



「「「「「ガァァァァァァッ!!!」」」」」


「「「「「蒼天を射貫け『銀蓬火』」」」」」



――ドシャァァァァンッ!!



 『破王鬼』たちの雄叫びが開戦の合図。

 少しでも掠れば身体が爆散しそうな迫力のある分裂体たちの突進に対し、銀閣が放ったのは銀色の狐火と言われる特殊なスキル。

 小さな銀色の火ながら、分裂体たちの突進とぶつかった瞬間に生じたのは、凄まじい威力の大爆発であり、初手にしてはインパクトのあるぶつかり合いだ。


 メルの『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』や『嫉妬エンヴィー』関連のスキルが発動していないところを見ると、本気モードになるみたいだ。分裂体に前線を任せて後方で集中している。



「「「「「『怒剛狂槌』」」」」」


「「「「「気脈を巡れ『銀閃火』」」」」」



――ドドドドドドドッ!!



 宴会会場のような観客席で観るには、あまりにも激しく目まぐるしいスキルの嵐である。

 分裂体たちが闘気を拳に集めて振り下ろす『怒剛狂槌』に対し、対象の体内に直接打ち込んで爆散させる感じに見えた銀閣の『銀閃火』のぶつかり合い。


 しかし、身体の内側から爆散したところで分裂体は『スライム』なのだ。飛び散ったところで超速で収束して再生し、元の『破王鬼』へ変身体へと戻っていく。

 あまりの高速再生戦法に銀閣も苦労しているようで、とりあえず『銀閃火』を乱発して時間を稼ごうとしているが、超速再生と単純な数の差で押されているように見える。



「ほんま……考えられへん力を持ったスライムやわ。あの分裂・変身・再生だけどそこらへんの魔王やったら完封できそうや」


「銀狐さんも、さすがの距離の作り方と遠距離の手数の多さですね。まだ小手調べって感じですけど」


「ウチが満足できるようにやね♪ 色んなスキル見せてもらいたいわ~」


「……なるほど」



 リンさんの好奇心という感情をメルは確実に感じとってくれているだろう。そして俺があんまり手札を見せすぎたくないって思っているのも感じてくれているはずだ。

 それを考えた上での分裂体を『破王鬼』にして時間を稼ぎ、『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』や『嫉妬エンヴィー』のスキルを見せることなく、、見たところで理解することはできないであろう本気モードで片付けるつもりでいてくれているんだろう。


 さすがメル……銀閣もEXランクの手ごわい魔物なんだろうが、加減をしながらやっているってのを逆手にとった最高の方法だ。


 それに『星核の根』をこのダンジョンに伸ばすことができたら、リンさんの心の奥も読み取れるかもしれないっていうルートも見えている。

 ……さすがに気付かれて怒られる可能性が高いけどな。



「「「「「ガァァァァァァッ!!!」」」」」


「「「「「光を灼け『劫銀空狐炎』」」」」」



――ゴシャァァァァンッ!!



 咆哮をあげながら突進してくる分裂体に、さすがに見飽きたのだろうか、銀閣たちから極大の銀火が放たれる。

 凄まじい火力にメルの分裂体たちは綺麗に蒸発していく。さすがにスライムの弱点ってのはしっかり理解しているようだ。


 

――チャポンッ!!



「「「「「ッ!?」」」」」



 最後に残ったメルの本体から溢れ出る重苦しいレベルの魔力が放出される。

 並の魔物であれば立つことすら苦しく感じるレベルであろう青黒い『嫉妬エンヴィー』の魔力が中庭を覆う。

 視線を上に向ければ水の帳のようなモノが中庭を覆うように展開されていき、地面には少しヌメリ気のある水が薄く張られている。


 水の結界が日の光を閉ざし、銀閣たちが思わず足を止めしてしまうような重苦しい魔力の圧と薄暗くなり視界がとりづらくなった中庭。



「……スライムだからって舐めてるからこうなる」



――チャプンッ



 メルの呟きと共に、水の結界内の天井より落ち出でる1粒の水雫が『嫉妬エンヴィー』の魔力を吸収するように取り込んでいき、少しずつ大きくなる。

 誕生したのは青黒い輝きを放ちながら浮かび上がる小さな惑星のような球体。


 ゆっくりと回転しながら、薄暗かった結界内を青黒い光で照らしだす異質なるモノ。



「『宵明けにて煌めくマーキュリー・オブ水面の中の水星・ケリュケイオン』」



 本気モードの宣言とともに、この水星の中でメルを認識できる存在は俺以外いなくなった。


 


 


 

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