第15話 『好奇心』の大魔王


――『百鬼夜行の桜華城』 客間



 四大国が存在する大陸の外。

 まさしく和の国とも呼べる地、俺から見ればファンタジー京都みたいと言えるような場所を支配する大魔王がいる。

 『神狐』の魔名を持ちし『大魔王の頂きゴエティア』の1人、四大国にはあまり出てこず、『百鬼夜行の桜華城』で配下の魔物たちと宴会の毎日を過ごしているのではないかと噂されている魔王だ。


 俺は何度か面識があり、『罪の牢獄』にも何度か来てもらったことがあるような関係ではあるが、リンさんの好奇心がゆえの行動だと思うので、実際の仲がどのような関係なのかはイマイチわかってはいない。



「わざわざウチに会いに来てくれるなんて、もっと前もって言ってくれれば準備したんやけどな~?」


「リンさんの優しさには感謝しかないです」


「相変わらず真面目な子やな~♪」



 掴みづらい性格……というか俺みたいな若者に理解できるような甘いタイプじゃないって言ったほうがいいのかもしれない。

 リンさんは何度かコアのメッセージ機能で相談をさせてもらったことがあるが、ダンジョンにやってきたのは初なので緊張してしまう。


 目的は『星魔元素』や王国、『七元徳』の最後や『原初』の爺さんや『女神』についてだったり聞けたら嬉しいところだ。


 もし、リンさんが敵側だった場合は恐ろしいことになりそうだが、今回護衛に来てくれているメル・五右衛門・デザイアがいてくれるので、『罪の牢獄』に撤退することは可能なはずだ。



「ウチに聞きたいこと山ほどあるんやろうけどぉ……まずはウチから聞かせて貰おうかな~♪」


「……了解です」



 化かし化ける能力の持ち主であるリンさん。

 テンションの上がりようで、自分の姿が他の者に化けかけているところを見ると、余程好奇心を持て余していたのだろう。

 真っ赤な和服を身に纏った黒髪狐美女だったのに、さっきから髪の毛の色が変わりまくっている。


 畳の客間に正座している俺の背後に控えるメルたちですら、あまりのテンションの高さに引いている感じがする。

 ちなみにリンさんはテンション次第で話し方も変わるから、本当に難しい魔王だ。



「アクィナスとの魔王戦争見事やったわ! まだ君んとこの魔物に先があるってのは本当に驚かされたわ、魔物の質は間違いなくNo.1か2やね!」


「アヴァロンとガラクシアの本気モードですか……あんまり魔王戦争で見せたくなかったんですけど、ちょっと俺がドジしちゃいまして」


「誰彼構わず近くにおる奴皆殺し~♪ みたいな感じやったけど、すんごい迫力やったね!」



 さすがの洞察力だなと素直に感心する。

 ウチの『枢要悪の祭典クライム・アルマ』たちの本気モードは、俺の能力があったとしても、誰とも絶対に共闘できない孤独の刃だ。

 あの2人の本気モードを見て、No.1か2ってことは、きっと『皇龍の魔王』と比べられているんだろう。リンさんが言うってことは確かである可能性が高いから、ついに頂点まで来たって感じがする。


 俺はリンさんに『七元徳』の最後を報告する。自分自身が配合したことは秘密にしておいた。



「本当に~……君本体が強くなりすぎじゃない? さすがにアクィナスもビックリだっただろうね!」


「確かに動揺が激しかったですね」


「ウチも同じ場面になったら驚いて失神してしまうかも♪」


「他者を驚かすほうが得意でしょ?」


「暇な魔王の暇つぶしみたいなもんやね。君は本当に忙しそうだからね~……もうちょっと気楽に生きた方がええよ?」


「落ち着きが無いもので困ってます。『七元徳』に勝って舞い上がってるかもしれません」


「アクィナスはどっかで魂だけになって生きてそうな感じもするんやけどね~♪」


「……なるほど」



 まぁ最後の捨て台詞的にもどっかしらで生きているんだろうなとは思っていたが、俺よりも『七元徳』を知るリンさんも言うのだから確実なのであろう。

 リンさんに俺の能力の多くは語らなかったが、ある程度好奇心が満たされそうではあるレベルのことだけ教えておいた。


 こんな感じでリンさんはノリが良く、俺みたいな若僧を可愛がってくれるが、とんでもない戦闘好きでもあり、話に聞いた感じ配下の魔物も血の気が多いらしいので、出来れば話だけ聞いて帰りたいのだが……長引きそうだ。



「気になるなぁ~♪ いきなり強くなった方法やら、まだまだありそうな隠し玉、特に配下の子たちの本気モードって奴をもっと見たいわぁ~♪」


「ウチの本気モードは『殺』に特化しすぎて物騒ですよ」


「クラークだったり王国のことを聞きたいのは~?」


「……俺ですけど」


「ウチはどこ誰よりも知っとるよ♪ 特にクラークとは同期で何でも知っとるよ♪」


「……それは知りたいですね」



 好奇心の大魔王へと名を変えたほうがいいんじゃないかと思うレベルの溢れ出るウキウキオーラが凄い。

 そして、ここまで来るとリンさんが自分のダンジョンに招いた理由が見えてきた。『罪の牢獄』に興味をもって見学に来ていたのに急に変だなと思ったんだけど、最初からこれが狙いだったと思うと、本当に自分の欲に素直だなと感じる。


 リンさんの狙い……というか感情がを察知したんであろうメルが、俺の膝の上まで移動してくる。



「ますたー……良いよ?」


「純粋な知識欲だったか?」


「……うん。でも自分とこの魔物の方が強いんじゃないかって思ってるよ」


「その子は本当にウチのこと読んでくるなぁ~♪ 心の内だけは化かせへんから困ってしまうわ」


「……奥までは覗けない」



 メルの力を持ってしても心の奥底を覗けない謎の防御力。

 まぁ、そこらへんは置いておいて、リンさんの誰かしらの本気の戦いが見たいっていう欲をメルが自ら解決してくれると言う。

 リンさんの自分とこの魔物に対する自身に対しても、何かメル的に思うところがあったのだろうか、あまり見ない感じのやる気を見せている。


 メルは『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の中でも戦闘タイプじゃないのだが、ここまでやる気を出してくれているのなら、まぁリンさん陣営に知られてしまっても良いってことにするか。



「妾もこの3人ならメルが適任じゃと思うがのぅ」


「儂も右に同じく」


「メルが頑張ったら絶対に色々教えてくださいよ……リンさん」


「本当に君はウチの欲を満たしてくれる♪ これだから君から離れられないんよね♪」


「頼むよメル」


「……うん」



 わざわざ情報のためにここまでするかどうか、後に議論を巻き起こしそうな気もするが、メルがやる気なのと俺の直感がやったほうが良いと言っているので、ここは信じて進むことにする。


 俺たちはリンさんの案内でダンジョン内で戦える場所へと案内してもらうのだった。


 

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