第13話 光る『可能性』


――『誓いの広場』 コアルーム



 久々にやってきたのは『誓約の魔王ラプラス』のダンジョンである『誓いの広場』。今じゃ帝国内でもそこそこの知名度を誇るダンジョンであり、レクエルドを除いても5種のSランクが存在しており、多種多様な魔物がいるのも相まって、かなりの難易度なダンジョンに見える。


 『誓約』は癖が強いが条件を満たしている限りは凄まじいバフになる力ではあるが、魔物の組み合わせが難しくなりそうな感じもする魔名だ。

 単純な元素系統の魔名だったりの使い勝手や安定性には敵わないだろう。本当は癖が強い魔物は少数のほうが良いというのが俺の考えだ。



「1番手が『執着オブセシオン』の戦乙女ヴァルキリーレクエルド。Sランクの魔物たちも確かに力で押すタイプじゃないな」


「優秀な子たちですが、そこにいらっしゃる鬼様のようなタイプではありません」


「ふむ……若が真面目に師をしているのを見るのは新鮮で面白い」


「もちろん阿修羅にも仕事してもらうからな」



 ラプラスの配下であるSランクの魔物たちのスペックを確認しながら、どういった魔物を加わるのが理想か考える。

 何でもできる万能タイプの火邪天使レジス、巨体で鈍足だが防衛に適したプラチナゴーレム、遠距離武装に特化した戦乙女、妨害やデバフに飛行戦ができる氷属性の巨大怪鳥、多種多様な魔法が使用できる絡繰り魔導士……中距離遠距離で力を発揮できる魔物ばかりだ。


 そして、どちらかと言えばウチの陣営と似て、アビリティやスキルの豊富さや嫌らしさで勝ちに行けるタイプばかりだ。



「やっぱり阿修羅みたいなタイプが欲しいな」


「よろしくお願いいたします兄様」



 今まで手に入れた魔名やら、ソウルピックで手に入れた魔物やら聖魔物やらを好きなように使って良いと言われたが、パッと見た感じだと魔名が戦闘向けと思えるようなモノが少なく感じる。

 戦闘向けのも存在するが、既存の魔物たちと同じようなタイプになる未来が見えるものばかりなので困ったところだ。


 それに聖魔物に関しては、俺も何を配合すればどうなるっていうアレが理解できていないので、そこらへんは直感でいけると信じよう。



「『破王鬼』……これは使いたいな」


「そ、それは私のではなく兄様のです」


「頑張っている可愛い弟子にご褒美をあげたくなるのが師匠ってもんだ」


「兄様……そういうタイプでしたか?」


「本当に思ってるのもあるが、ついで言うと好き放題に開拓している感じが好きなんだよな」


「……なるほど」



 俺と違って1度配合で誕生させてしまえば、DEを使用してコアから何度でも召喚することが可能なので好き放題やれてしまう。

 単純な戦力強化になるので、回数が許す限り考えすぎずに配合できるってのは俺からすれば魅力的すぎる。


 『大罪』みたいに生まれるたびにダンジョンエリアを拡張しなくちゃいけないってタイプだと、少し配合を考えるが本来ならばルーキー時代は無限の可能性にむけて、どんどん配合すべきなのだ。

 この開拓感を本当は味わいたかった……一歩ずつ進んでいる感じが。



「おっ! かなり強い鬼族がいるな」


「私の配下で数少ない肉体派の戦闘種族です」


「せっかく阿修羅もいるし……やっぱ鬼だよな」


「若、鬼に詳しいわけではないんだが」


「ご利益的な話だから大丈夫だ」



 ソウルピックの当たり枠として入手した魔物らしい、1度も配合していないのにAランクの強力な鬼族。

 Aランクグランドオーガ、高ステータスに戦闘しか考えていない能力セット……まさしく求めていたスペックの魔物だ。


 阿修羅に俺が持っている魔名とラプラスの手持ちを見てもらい、グランドオーガに合いそうなモノを考えてもらう。

 自分と違って巨体な鬼のことは理解できん……なんて言いつつも真面目に考えてくれるところが何とも阿修羅らしくて良いな。


 メモしながら見守っているラプラスを背に、阿修羅と相談して魔名と聖魔物を決めていく。



「ラプラスの聖魔物をありがたく使わせてもらうよ」


「兄様のお好きなようにお願い致します」


「今更だけど、いくら師匠だからって好きにやらせすぎると…・…あれだぞ?」


「楽しそうな兄様を見ているのも楽しいですよ♪」


「……」



 なんか立場が逆になっている気がする。

 気付けばラプラスに普段そこまでやらない配合をウキウキしながらやらせてもらっている大魔王という構図になっている。

 完全に新しい玩具を買い与えてもらった子どもみたいな扱いになっていることに、少し恥ずかしくなってきたが、せっかく決めたので配合をすることにする。


 グランドオーガはかなりのDEを使う魔物だが、特に問題無いとのことなので新たに1体召喚してもらう。



 1.魔名カード『破王鬼』 ランクSS

 2.魔名カード『風蝗悪魔』 ランクSS

 3.魔名カード『大地』 ランクS

 4.聖魔物『魔牛の皮』 ランクS



――ゴゴゴゴゴゴッ!



 いつもの配合風景だ。

 巨体のグランドオーガが光っていると迫力を感じるな。今回は魔名カードは俺が3つだし、聖魔物はラプラスが持っていたモノを使用させてもらったが、今までの経験上では聖魔物のランクがSSを超えないとEXの魔物は誕生しないだろうが、これでも十分凄まじい魔物が生まれるはず。


 阿修羅が責任を感じているのか、少し緊張した表情で変わりゆくグランドオーガを見守っている。


 身体の大きさは少し小さくなって3mほどになったが、燃えるような長い赤髪を靡かせ、少しボロボロな紫の和服に4本の刀を腰に携えた4本角に4本腕の鬼が光の中から現れる。



「さすがにステータスまで見るのアレだから、ここはラプラスにだな」


「了解した」



 【悪風破王・鬼童丸】

 新たに誕生したSSランクの超強力な魔物。種族が鬼の系統なだけあってステータスは近距離戦方の重戦車、ゴウキとパズズという仲良し組の魔名の組み合わせの相性が良かったのだろうか、その2人の能力の一部を持っているようだ。

 ラプラスと鬼童丸の心温まる会話を聞きながら、どんな魔物か考察していく。


 グランドオーガよりも小さくなったが、圧倒的に増した威圧感や闘気、そして何やら隠遁の術に長けているようなので、面白い扱い方ができそうな魔物だ。

 単騎性能最高峰と言われた『魔王八獄傑パンデモニウム』の内、2体の魔名が使われた魔物だ。相当なタイマン性能をしているだろうから『誓約』陣営に望まれていた魔物だろうから良かった。


 何やらラプラスは真名を授けたようで、『誓約』陣営の魔物たちに祝われている。



「兄様……本当にありがとうございます。鬼様もご協力助かりました」


「若の頼みだ。鬼として主に恥じること無い活躍をするんだぞ」


「承知」


「よろしくお願いしますね。我が新たな刃『キザン』」


「御意」



 ラプラスに鬼童丸ことキザンが跪く。

 レクエルドにキザンが居れば、まず新米同士の争いに負けることは余程のことでないとありえないだろう。

 そして隠遁の術に長け、タイマンで戦う能力が高いキザンがいれば迎え撃つではなく、事前に仕掛けて殺しておくといった芸当も選択肢に入れることができる。


 感覚が麻痺しているが、SSランクの魔物ってのはとんでもなく強力だ。キザンを配下にしたことでラプラスは帝国では2番手3番手の魔王になったとも言える立場まで来たと言える。



(真面目だがユーモアもあり、配下に慕われ芯もしっかりしている。俺よりも上に立つ者としての考えがしっかりしている……まだ早いけど帝国はラプラスに任せたほうが上手くいきそうかもな)



 配下たちと楽しそうに盛り上がっているラプラスを見守りながら、眩しいくらいの光る可能性を感じた俺は、阿修羅と一緒に今後の展望について話し合った。

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