第12話 甘い『師匠』


――『罪の牢獄』 居住区 会議室



 『破王鬼の魔王ゴウキ』vs『大罪の大魔王ソウイチ』

 『神炎の魔王メビウス』vs『焔天の魔王アイシャ』

 配下魔物無しの魔王同士の直接対決という特殊ルールだった魔王戦争。

 俺の方は阿修羅とポラールの猛特訓、そして豊富な『美徳』の力で難なく撃破することに成功した。

 アイシャの方は、『火』殺しのメビウスに一時絶体絶命の危機に陥ったが、俺に仕掛けてきてくれたおかげで助けることに成功、ドラグノフを『生命の炭』で糧とし、『火焔皇の魔王』へと進化したアイシャがメビウスを圧倒して終了した。


 無事勝利し、互いに魔名を手に入れることに成功したので俺とアイシャは自分たちのダンジョンに戻った。



「アイシャはドラグノフを失って……かなりダンジョン防衛が不安になっただろうから忙しくなりそうだな」


「兄様は盤石というわけですか?」


「俺は俺でやりたいことが多すぎるから……どんな感じに人員を割くか悩ましいところだ」


「1度に多くのことができる兄様陣営の戦力が羨ましい限りです」


「……よく言うよ」



 綺麗な青色のサイドテールを揺らしながら、今回のタイマンバトルの勝利を祝いに来てくれたのは可愛い弟子である『誓約の魔王ラプラス』、ちなみに師匠として大したことはしていないが、かなり慕ってくれているありがたい子だ。


 ダンジョンの守りをレクエルドに任せて、わざわざ来てくれたので時間を作って心温まる話合いをしている最中だ。



「俺とアイシャが騒がれていたよりも、さらに凄い活躍をしてるらしいじゃないか」


「レクエルドのおかげです。改めて『大罪』の『魔名』が反則的なのか身に沁みました……ずば抜けた単騎戦力は1体で破壊出来てしまいます」


「どっかの誰かに似て……先輩魔王に喧嘩を売って狩り取ってるだとか」


「兄様と違って『魔名』や魔物を得るたびに強く配合出来て、コアで数を増やせますから♪」



 同期の中でも強かった『沈黙の魔王』との魔王戦争に勝利し、同期魔王内での格付けを済ませ、その流れで自分が勝てそうかつ相性の良さそうな『魔名』を持つ魔王に戦いを仕掛け、レクエルドと自慢の『誓約』の力で狩り取っていく。

 俺やアイシャも魔王界でかなり騒がれ、とんでもないルーキーだと言われたが、正直それ以上の暴れっぷりを見せている。


 『七元徳』と俺の魔王戦争、今回のタイマンバトルや今世界で起きている戦乱の流れで印象が薄いのかもしれないが……ラプラスはとんでもない化け物だ。



「わざわざ『罪の牢獄』まで来て……何かするのか?」


「もちろん兄様に祝いの言葉を言いに来たのがメインです」


「メインは受け取ったからサブの方に進んでいいよ」


「兄様は面白味が無いときが多々あります。少しご相談がありまして、兄様に聞いていただけると助かるのですが……」


「師匠なりのアドバイスを送らせてもらうよ」


「ありがとうございます兄様」



 『破王鬼の魔王』撃破の報が魔王界に出回り、祝いを伝えに行ける状況になったので丁度良いとなり相談したかったようだ。

 ラプラスは様々な『魔名』を先輩魔王や同期と戦って獲得しているようだが、その過程で敵を多く作ってしまったようで少々面倒ごとが起きてしまっているようだ。


 先輩魔王から直接戦争を仕掛けられることは無いが、何やら冒険者やら同期魔王やらから仕掛けられているようで、戦力は良い感じに厚くなっているが不安があるようだ。


 情報収集能力に長けたレクエルドがいるおかげで、事前に対策をすることができるがレクエルドがいない場合、突出した個の力を持つ敵に苦戦してしまうようだ。



「兄様のように配合が上手くいきません。これはどの魔王も悩むところではあると思いますが……」


「単にランクの高いモノばかりを魔物に混ぜるだけじゃダメだからな」


「そこまでランクの高い魔名を獲得できたわけではありませんし、ソウルピックもそこそこ止まりです」


「『誓約』が基盤だから、どうしても単純な力ってよりも、搦め手で戦うタイプが多くなりそうだからな」


「レクエルドは単騎での戦闘に特化しているので、敵に多くの特記戦力がいると危険に陥ってしまうので……」



 先輩魔王にも喧嘩を売って、ダンジョンに乗り込んで破壊している割には真面目な考え方をしている。

 レクエルドも『大罪』の力を持ってはいるが、阿修羅のようにずば抜けた戦闘タイプってよりは、メルのような補助タイプなので不安になる気持ちもわかる。


 ラプラスはソウルピックと手に入れた魔名のおかげで、B~Aランクの魔物の量産に5匹のSランクの魔物の召喚に成功しているので、普通のルーキーならば最高の1年目になってはいるが、俺やアイシャと比較されると焦る気持ちも少し理解できる。



「レクエルドのような単騎で抜けた強さを持つ奴が……ん~、もう1体でもいれば変わりそうだな」


「望み過ぎと思われるかもしれませんが、早く強くなりたいのです。兄様のように配合が上手くないので停滞してしまっています」



 まぁ……確かに新米魔王からすれば高望みと思われても仕方ない。だが俺もラプラスと同じ立場だったら同じことを思うし、どうにかさらなる高みを目指そうと足掻いたことだろう。

 『大罪』のおかげで魔物の種類と数なんかは絶望的だが、単純な力と質は最高レベルまで行くことが出来た。結局魔王界は強くなれれば上にスムーズに進める仕組みなので、そういう部分では『大罪』は噛み合っていたと言える。


 可愛い弟子だからか、凛菜を思わせるからはわからんが、こんなに真面目に相談されると何でもしてやりたくなってしまう。

 きっとミルドレッドが見ていたら笑って馬鹿にしてきそうだが、俺は俺なりのやり方だと自分に言い聞かせておくとしよう。



「俺の配合は『大罪』のおかげだ。でもせっかくならラプラスの魔物を1体の配合を考えてみるのも面白そうだな」


「本当ですか!? 私ではセンスが無いようなので兄様に是非ともお手本を見せていただきたいです」


「これで大失敗したら笑えるけどな」


「兄様の考えを聞かせていただけるだけでも私としては、1つの情報になるのでありがたいものです」


「成功した配合の経験があるから……なんとかなるはず」



 正直自信はイマイチだが、最終兵器は思いついているので可愛い弟子であるラプラスのためにも、ここは師匠として人肌脱いで、ラプラスの俺に対する信頼ポイントを稼ぐと同時に、師としても偉大な魔王であることを証明しておくとしようか

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