第9話 『黄金の火』


 『美徳』の1つである『タナトス』。

 精神支配や魂に触れることができるスキルが多く持つ故、今回のアイシャ奪還の作戦に大いに役立つと思い、『穿眼愛気』という必殺の目からビームを放っているのだが、残念なことに当たる気配がしないのが悲しいところだ。


 『穿眼愛気』や『死眼愛握』の効力を知っているのか、目も合わせてくれないし、目からビームに掠ってくれもしない徹底っぷりである。


 広範囲を薙ぎ払える『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』や、『黄金に燃える炎鳥ヴィゾーヴニル』で距離管理を完璧にこなされてしまっている。


 こっちも『火』の力があるが、確実に吸収されるか支配されるだろうから使えないってのも痛いところである。



「『明けの明星ポースポロスッ!』」


「『天穿つ黄金の絶炎ゴールドプロミネンス』」



――ゴウッ!!



 『大罪』を付与することのできるカプセルの雨である『明けの明星ポースポロス』は、アイシャが自身を囲むようにして放たれた『黄金の火』による巨大な火柱『天穿つ黄金の絶炎ゴールドプロミネンス』によって難なく掻き消される。


 アイシャの身体を盾にできているってのに、随分と慎重な立ち回りをしてくる。

 もっと大胆に攻めてきてもいいはずなのに……そこまで俺の攻撃に警戒する意味があるのか、それとも攻撃を受けることが実は不味いのか、どっちかだろうな。



「魔力はどっちのモノを使っているのか?」


「さて……どうだろうかね? 『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテインッ!』」



――ゴウンッ!



 『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』をブンブンされるだけで、状況的にもとんでもなく厳しいのがもどかしい。広範囲に『黄金の火』を撒き散らしているだけなのに厄介すぎて攻撃の隙が難しい。


 殺すだけならいくらでも選択肢があるが、よりにもよって当てたいスキルが全部使いにくいのが面倒だ。


 もし、魔力がアイシャのモノである場合、どうにか『神炎』を引き剥がしたとしても魔力切れで危ない可能性も出てくるので、あまりアイシャにスキルを使わせたくないな。



「祈れ『信仰マディス』、『5分間『火』のスキルは使用不可』」


「なッ!?」



――ドサッ!



 あまりの魔力消費に思わず膝をついてしまった。

 『信仰マディス』の『美徳』、最強スキルである『讀言』。俺の放った言葉を最優先させる縛りの言霊であり、割合で魔力を消費してしまう燃費最悪のスキルである。

 条件によって消費魔力が変化するので、これでも抑えた方だが……思わず身体の力が抜けてしまうほどに魔力を消費してしまった。


 とりあえず全ての『火』は5分間使用不可になったので、確実に有利な状況にもってくることができた。



「5分……『焔天』の身体が馴染ませるのに良い時間かな」


「そんな余裕与えると思うな」


「ちなみにこの肉体を自害させるのは難しくない」


「本当くそったれだな」



 肉体を自害してアイシャを殺す。

 ありがちなことなのに完全に失念していた。そんなことも可能ってことは相当な支配力なんだろう。まだ馴染んでいないと言うことは良い情報だ。

 馴染ませることが可能と話をしているので、どっかしらでアイシャの精神やら魂が抗っているんだろう。


 2人の精神があるはずのアイシャだが、気配というか感じるモノは今となってはメビウスのほうの気配が濃すぎるレベルになってきており、アイシャをしっかり感じることができれば、やりようはあると思うのでどうにかしたいな。



「それにしても君たちは恐ろしいね。魔王になって日が浅いのに……この強さ」


「どっちも美味しく頂いていこうって考えてる奴がいるなんてな。今のところ計画通りって感じみたいだし」


「片方が『火』の魔王であることが良かった。同じ属性の魔王に対しては絶対的な強さを持っているからね……私は」


「ここからは上手く行かせるつもりは無い……って心意気ではいる」


「『焔天』だけでも良いんだが……『大罪』の力は逃したくないものだな」


「アイシャだって簡単には行かないだろうさ」


「……確かに、ここまで支配に抗う『火』は初対面化もしれない」



 支配されたアイシャから黄金に輝く小さな球体が出現する。

 その球体からは確かにアイシャの気配を濃く感じることができる。どんな状態か不明ではあるが、何かしらの方法で『神炎』の支配に抵抗することができているのが現状。

 完全に勝ってると思い込んでる油断ムーブを正面でしてくるのは大きな隙だ。

 どんな手段でもアイシャの支配を阻害されないと思っているところをギャフンと言わせてやらないとな。



「君のような異常者が同盟でありながら……この子は随分と意欲と覚悟に満ち満ちしている。詳細はまだ読めないが……少しの嫉妬がありながらも負けず嫌いなようだ、とても良い関係を築いているのには驚きだ」


「そうだな……俺が知っている『愛火アイシャ』と同じだ。だからこそ見捨てることができない」


「ふむ……いずれは君を超えて最強の魔王になろうとも考えているようだが?」


「そうでなくっちゃな……アイシャがいてくれるから俺も『最強魔王』の席に座ってやろうと思える」


「若々しい関係じゃないか」



 時間稼ぎの会話タイムなのだろうか?

 少し耳を傾けたくなる内容を語ってくるので気になってしまう。本当のことなのかは置いておいて……まぁそうだろうなと思うような内容なので聞きたくなってしまうのは許してほしい。


 アイシャの魂が封じられているであろう球体が少しずつ黄金から血色へと色が変化していっている。これがアイシャがメビウスへと完全に支配される過程ってことか? わざわざ見せつけることに意味があるかは不明だが……やるしかなさそうだ。


 魔力を一気に消費したばかりだが、次の大技に向けて魔力を集中させる。



「ふふ……この子は面白いな。君のことをどれだけ先に行かれても嫌いに慣れない不思議な魔王と評価していて、その気持ちにずっと悩まされていたようだ」


「『火』の支配……さすがにアイシャも想定できてなかっただろうな。こんな仕打ちまで受けてさ」


「君も火を司る魔王だったら話は楽に進んだんだけどね」


「俺は『大罪の大魔王』だからな……そしてアイシャも楽には終わらない」



――ゴウッ!!



 『讀言』の効果が切れる前に、アイシャの黄金の魂が完全に支配される前に間に合った。

 この方法で確実にアイシャに手を伸ばせるかは不明だが、今までの情報だったり俺の直感を信じてやってみるしかない。


 アイシャを1番感じ取れている今だからこそ逃してはいけないッ!



「律せよ『節制テンパランス』、泳げ『天海の旅魚ラビエル』」


「その力……」



――ドンッ!



 『天海の旅魚ラビエル』の出現に嫌な予感でもしたのか、全力で距離をつくろうと後退するアイシャを逃がさないように、俺も全力で前進しながら全てを放出する覚悟で魔力を練り上げる。


 『美徳』のスキルの燃費の悪さに少しイライラしながらも、俺は狙いを定めてスキルを放つ。



「『不浄を流す翡翠の川ポティスティリ』……そして『自制せしマンダラの球ラヴァトリーヂェッ!』」



――バジャァァァァンッ!



 『天海の旅魚ラビエル』たちの口から放たれたのは、低空飛行していては宙に居ても避けられない大激流である『不浄を流す翡翠の川ポティスティリ』、そんな激流の中を駆け巡る2種の球体である『自制せしマンダラの球ラヴァトリーヂェ』。

 これが今考えられる俺の最善手である2種のスキル‼ 全部飲み込め!

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