第8話 『焔天』vs『大罪』


――ドシャァァァァンッ!



 突如上空に現れたアイシャから放たれた『黄金の火』で形成された剣での一振り『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』。

 あまりの不意打ちと、アイシャから攻撃されるなんて思ってもみなかった意識外の攻撃に完全に対応が遅れてしまい、俺は『黄金の火』の大波に飲まれかける。


 なんとか纏っていた『破壊の火』が『黄金の火』とぶつかりあってくれたおかげで致命傷は避けることができた。



「……危なかった」



――ジュ―……



 『叛逆の左腕』となった腕が少し焼かれてしまった。

 『破壊の火』を纏っていなかったら、立派な炭になっていたのかもしれない。

 アイシャの方を見てみると、アイシャは隙だらけだって俺の方ではなく、もうすぐ燃え尽きるであろう『破王鬼』に近づいており、燃え盛る火に向かって手をかざしている。


 アイシャの内側に感じるのは……『神炎』の気配。



「どうなってるんだ?」



――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!



 闘技場内全ての火がアイシャに吸収されていく、火と一緒に『破王鬼』までもアイシャの中に取り込まれていく。

 『焔天の魔王アイシャ』というより……『神炎の魔王メビウス』の気配が濃くなっていくと言うことは……そういうことなのか?


 まったく戦っている気配なんて感じなかったのに、どういうことだ?



「あれだけ意気込んでおきながら瞬殺されてしまうとは……情けないモノだなゴウキ」


「『神炎の魔王メビウス』……アイシャとの戦いは終わらせたってのか?」


「戦いが終わっていたら魔王戦争は終わっている。まだ私と『焔天』の戦いは終わってはいないよ。どちらかが死ぬまで続くのだから」


「自分がアイシャの内側に存在し、支配し続ける限り……必ず先に死ぬのはアイシャだと言いたげだな」


「素晴らしい理解力……『焔天』の力を使って、君の魔名を手に入れたいところだ」


「……よくしゃべるようになったんだな」


「他の『火』を支配している時は……少し感情が高まってしまうのが悪いところでね。『火』で私に勝つことはできないからね」



 魔王であろうが、全ての『火』を支配する能力。

 精神支配とかいうレベルでなく……完全に内側に入り込む寄生虫のような力。シンラの『神炎』に遠くもない力だが、また違った意味で『火』を殺す能力だ。


 要するにアイシャを使って俺と戦い、『大罪』の魔名を手に入れたいということだ。もしやられてもアイシャが死ぬだけで、『神炎』はアイシャが死ねばタイマンバトルに勝利した判定で、自分のダンジョンへ帰宅することができる。


 アイシャを使った1度っきりのノーリスクバトルってことか……俺とアイシャが同盟を組んでいることも頭に入れた、最高に性格の良い作戦だ。


 それにしても、よくしゃべるようになったな。俺は自分の能力でしゃべり続けれるとステータス上がるから良いんだけどな。



「来い『大罪の天魔銃アポカリプス』、出でよ『美徳の堕落天アビス』」


「殺せるのか? 同盟相手であり……君の大事な友を? その傷でやれるのか?」


「俺と似て……よく口が回るな。俺がこのまま勝ったことでダンジョンに帰ると思わないのか?」


「別に帰っても良いが……『焔天』を見捨てることができるのなら」


「今に見てろ……地獄を見せてやる」



 アイシャの気配を感じれなくなっている。

 どうにか手探りにアイシャの気配を明確に感じ取れるようになりたい。本当にアイシャの身体なのかどうか……まずは色々と確信を得ることから始めなきゃな。


 絶対に『神炎の魔王』とは言っても……完全にアイシャを負かすことなんかできるはずは無いんだからな。



「『黄金に燃える炎鳥ヴィゾーヴニル』」


「まじでアイシャのスキル全部使えるっぽいな」



――ドシャァァァァンッ!



 迫りくる『黄金の火』で形成された炎鳥を避けながら、弾丸を撃ち込んでいく。『大罪の天魔銃アポカリプス』と『美徳の堕落天アビス』の弾丸はダメージってよりも、当たってもデバフ効果を与えるのがメインだから、油断して当たってくれればありがいたものだ。


 今のところ完全に気配は『神炎』だが、使ってくるスキルは『焔天』のモノだけ……とにかくヒントを集めて確実な攻略法を見つけ出す。



「その弾丸は当たってはいけないようだ。『幕引きの篝火イグニス・ゼーレ』」


「強くなりすぎだろッ!?」


「メビウスである私の力もあるからね」


「『美徳相位ビトクノソウ置転換術イチテンカンッ!』」



――ゴゴゴゴゴゴッ!!



 俺の記憶では、それなりのチャージが必要だった気がする『幕引きの篝火イグニス・ゼーレ』。

 一瞬にして『黄金の火』が地上を覆い尽くそうと迫ってくる。

 なんとか飲み込まれる前に『美徳相位ビトクノソウ置転換術イチテンカン』で、浮いている『美徳の堕落天アビス』と自分の場所を入れ替えたので、事なきを得たが……アイシャ&メビウスの火が来るとなると怠い。


 確実にアイシャを助け出す方法を模索しようと思ったが、全然頭が回らないというかアイシャからの攻撃を防ぐのに精一杯だ。


 何をどうすれば解答が見つかるのか……正解の基準は何なのかを決めないといけないってのに、迫りくる『黄金の火』が余裕を与えてくれない。



「侵せ『正義エロジオン』、飲み込め『粗潰しの肥大正義ジャスティスロード』」



――ギュゴゴゴゴゴッ!



 個人的最強『美徳』である『正義エロジオン』。

 迫りくる『黄金の火』による大波や炎鳥を防ぐため、全てを吸い込み弱化させる『粗潰しの肥大正義ジャスティスロード』を展開する。

 飲み込み弱化させた分だけ、俺自身が強くなれるのでステータス面は問題無くなる。

 ただ『正義エロジオン』自体もそうだが、『正義エロジオン』のスキル全部が燃費最悪なので長時間の継続や連発は不可なのが難点だ。


 俺の『粗潰しの肥大正義ジャスティスロード』を見て、楽しそうにアイシャが微笑む。



「『七元徳』の天使の力……一体どういう訳なのか」


「アンタがアイシャのスキルを好き放題使っているのと変わんないだろ」


「全ての火は我が手の内に……ってね。『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテインッ!』」


「試さなきゃ始まらないかッ!」



――ドゴォォォォンッ!!



 『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』による炎の斬撃を避けつつ、あまり実験のような形でスキルを放ちたくは無かったが、あまり余裕もないので解決できそうなスキルを試していくことにする。

 『火』を支配する力、アイシャはまだ死んでいないのならば、精神支配や魂支配のような能力のはずと予測して、いくつか試しながら解決まで持って行く。


 まだ『美徳』の力を使いこなせている訳じゃないけれど、有効そうなスキルはあるので、どうにか直撃させていくしかなさそうだ。



「包め『タナトス』、『穿眼愛気』」



 『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』を振り回しているアイシャにむけて、必殺の目からビームッ! 届きやがれ!

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