第6話 『天空闘技場』


――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 俺と『破王鬼の魔王ゴウキ』、アイシャと『神炎の魔王メビウス』のタイマンバトルが始まるまで残り2時間程。

 アイシャを『罪の牢獄』に招いて戦う前の食事の時間、ちなみにメニューは『寿司』である。


 魔王同士のタイマンバトルは伝統の戦場で行われるらしく、正々堂々戦えるような特殊な場所であるらしい。

 俺が調べた感じだと、『罪の牢獄』の闘技場とそこまで変わらないらしいので、あんまり気にする必要は無さそうだ。



「自信有り……という顔をしていますね」


「ゴリゴリの武闘派スタイルとの戦いは、自分なりには仕上げたつもりだ」


「『破王鬼』も、まさか『七元徳の魔王』を超えてしまうとは思わなかったでしょうね」


「あの鬼は俺を殺すことしか考えてない脳筋に見えたけどなぁ」



 俺を餓鬼と呼んで、ミンチにしてやると言った強気の姿勢。

 パズズの弔い合戦をするつもりなんだろうけど、あんまり事前準備をして丁寧に戦いを仕掛けてくる相手には見えなかった。

 弔い合戦ではあるが、勝つってよりも捻りつぶしてやるって意識の方が高そうなので……上手くいなしてやれると良いんだけどな。


 アイシャの方は難しそうな顔をしているので、『神炎』への対策はギリギリまで悩んでいるようだ。



「『火』の力を司る魔王同士の戦い……逆に難しそうだな」


「基礎スペックは相手の方が上ですからね。しかも魔王同士のタイマンに慣れてらっしゃるようです」


「長く『魔王八獄傑パンデモニウム』やってるんだから……相当単体戦力としての強さには自信がありそうだな」


「ソウイチと戦ったときにヒントをいくつか頂いたので……それを活かします」


「『火』の戦いか」



 『破壊の火』と『黄金の火』の激突。

 優秀とされている属性魔名同士、それも同じ火の力を司る魔王同士の対決。おそらく火属性の魔王として最強の2人の争いであり、互いに火のことは知り尽くし、何ができて何に弱いのかも知っているだろうから、どちらが上手く立ち回れるかのタイマンバトル。


 アイシャとしてはタイマンなのがありがたい話だと思うが、『神炎』にしても『魔王八獄傑パンデモニウム』の1人なのでタイマンは大得意なんだろう。



「天に浮かぶ4つの闘技場……割と近いところで戦うから互いの様子がわかっちゃうな」


「少し時間差ではじまるそうなので……私が戦い始める前に終わらせてください」


「恐ろしく頑丈そうなんだよなぁ……『破王鬼』」


「外見から頑丈さと剛力さは伝わってきますからね」



 いかなる方法であっても配下の魔物を呼ぶことも出来ず、その助けを受けることもできない魔王同士が戦うために存在する戦場である『天空闘技場』。

 『魔王八獄傑パンデモニウム』が好きそうな場所であり、魔王同士のプライドバトルするために造られた……個人的には不必要な場所な気もするが、魔王界にとっては神聖な戦場である。


 最初に俺と『破王鬼』が戦い、数分後に近くにある闘技場でアイシャたちが戦い始める。

 タイマン専用とは言うが、闘技場同士が割と近いので、飛行能力があれば乱入することも難しくはないという欠陥設計なのである。



「気にしても仕方ないか」


「参りましょう。……立ち塞がる者は全て焼き尽くすまでです」


「……おっす」



 やっぱ愛火だな。と思いながら、席を立つアイシャを追うようにして、俺も天空闘技場に行くためにコアルームへと向かうのだった。








――『天空闘技場』



――ヒュオォォ



 『大罪』vs『破王鬼』 『焔天』vs『神炎』のタイマン魔王戦争。

 そこそこ強い風が吹きすさぶ中、特に飾り気のない空に浮かぶ闘技場へと転移してきた俺とアイシャは、さっそく命を奪い合う相手と正対することになった。



「随分……イメチェンしたんだな」


「『大罪』……殺すッ!」


「……炎の化身」


「あまりこの状態にはなりたくなかったんだが」



 『破王鬼』の姿は以前会った3倍ほど巨大化しており、目が血走っていて理性がぶっ飛んでいいそうだが……ここで殴りかかってこないので一応理性有りなんんだろう。

 それにしても筋肉の塊すぎて……1撃パンチもらったら弾け飛んじゃいそうだ。


 『神炎』のほうがほぼ全身が燃えている。

 人間っぽい形態をして、顔がなんとか判別できるレベルしか原型が残っていない炎の化身。

 まさしく『神炎の魔王』、言ってしまえばシンラと似た力を行使できる可能性のある魔王だ。



「説明は不要みたいだな。さっそく始めるとしよう……すでにシャープが観戦席で盛り上がっているようだ」


「殺すッ」



――ヒュンッ



 『神炎』は全身燃えているとは思えないような穏やかさを、『破王鬼』は俺を殺すことしか眼中に無いようで怒り狂っている。

 毎度のことで実況があるようで、きっと魔王界では大盛り上がりしていることだろう。配下が最強だが魔王本体は雑魚であった俺が、タイマン最強クラスの『破王鬼』相手にどう戦うのか、『七元徳』に勝利して最強魔王席を取りそうになっている俺がここで死ぬ姿を観戦しようと熱狂でもしてるんだろう。


 アイシャと『神炎』は転移術で違う闘技場へと消えていく。


 残されたのは、俺と『破王鬼』の2人……すぐにでも開戦しそうな空気だ。



「配下が居なけりゃ何もできん餓鬼が……嬲り殺してやるッ!」


「随分デカくなりやがって……粉々にしてやる」


「ぶっ殺してやるゥゥゥゥゥゥッ!!!」



――ゴウッ!!



 『破王鬼』の身体から溢れる禍々しい闘気。

 怒りと憎しみに染まり切った闘気の解放は、まさしく衝撃波のごとく俺と闘技場を襲う。『破王鬼』周囲の地面は抉り砕け、ただでさえ上空にある天空闘技場の空気は何倍にも重くなった。


 俺も闘気の勢いで吹き飛ばされるところだった。まだ開戦してないはずなのに危ないところだったな。



「パズズが親友だったかは知らんが……俺だって負けられないな」


「フゥ―ッ! フゥ―!」



 今にも突撃してきそうな様子の『破王鬼』。

 あの超重量級から繰り出される攻撃は俺の耐久力だとヤバそうだ。鬼の種族なだけあって魔力と運以外のステータスはかなり高いはずなので、敏捷値も俺のが圧倒的劣っているとなると、なかなか気の抜けない戦いになりそうだ。


 まぁ……元々正面から気持ちの良い戦いをしようだなんて思ってもなんだけどな。



――パァンッ! パァンッ!



 上空に打ちあがるのは、魔王戦争恒例の開戦の合図。

 その身1つで全てを破壊する鬼の魔王、フィジカル重視の相手との対策はバッチリしてきたし、俺の戦い方を魔王界に見せつけてやる準備をしてきた。


 開戦の合図である花火音とともに、爆発的な加速で突進してきている『破王鬼』の存在を感じながら、俺は『堕落した七元徳』と『罪の魔眼』を発動させた。

 

 

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