第4話 継がれる『灯』


 大蠅の羽音で煩かった戦場も、アイシャの火が全てを燃やし尽くしてしまった。

 前一緒に戦ったときよりも……遥かに上の段階へと進化している火力に思わず驚いてしまう。

 自分も『大罪の大魔王』へと進化して強くなったとは思ったが、アイシャもこんなにも強くなっているとは思わなかった。


 この火力の上がりようを見て、そういえばアイシャには恐ろしいスキルがあったなと思い出す。



「『生命の炭』」


「DEで魔物を呼び出すたびに強くなれます。真名持ちでなければ本当に少しずつにはなりますが……」


「ここに来たのも、それが目的だったのか」


「ソウイチの配下たちが一蹴してしまったようですが……」


「……リトス、ちょっと食べ残しが無いか散歩してきてくれ」


「きゅっきゅっきゅ♪」



 まだまだ喰い足りないって感じのオーラを頭の上のリトスから感じたので好きにさせてあげる。

 

 アイシャは割と自分のやっている事を教えてくれる。

 ダンジョンを最低限守れるだけの戦力は維持して、他のDEは全て『生命の炭』にて自身の糧にしていく。

 真名持ちで無い限り微量ではあるが、少しずつアイシャは強化されていっている……時間が経過すればするほど恐ろしいシステムだ。


 俺の記憶違いでなければ、アイシャの真名持ちはドラグノフ以外全滅していたはずなので、一気に伸びることはもう無さそうではある。



「ソウイチも……随分変わりましたね。外見は左腕以外変わっていませんが」


「『七元徳』にぶった切られたおかげで……まぁ色々強くなったな」


「随分遠い存在になりましたね」


「言うほどでもないだろ。『神炎』との準備はバッチリなのか?」


「ソウイチに邪魔をされなければ順調だったかもしれないですね」


「なかなかチクチクしてくるな」



 俺たちが跡地に集った奴らを一蹴してしまったせいでDEを獲得できなかったと攻撃してくる。

 聖都に1番近い場所であるこの地を制圧できれば、上手くDEを稼げる場へと発展させれる可能性があると考えれば、アイシャからすれば最高の場所だったと思えるのも納得の話だ。


 だけど、この地を支配していた『七元徳』を倒したのは俺だって話だ。



「俺が『七元徳』に勝ったのに……俺以外の奴がこの席に座ろうなんて話は……俺からすれば気持ち良くないな」


「ソウイチの口から魔王らしい野心溢れた言葉を聞いたのは久々ですね」


「野心的ね……割と常に野心的な魔王だった気もするけどな」


「『破王鬼』と戦う前の仕上がったソウイチも気になりますね」


「……遠回しに戦えって言ってるのか?」


「少しお相手していただけませんか? 気配から察するに、戦えるようになったのでしょう?」


「まぁ……DE獲得の邪魔した償い程度になるか」



――ゴウッ!!



 空を焼いていた炎が鎮火し、アイシャの周囲に黄金の火が灯りはじめる。

 そこまで距離が近い訳でもないのに、肌に伝わる凄まじい熱気に少し驚いてしまう。広範囲高火力を誇っていたアイシャだが、技の切り替えや出の速さまで磨いたまでなると、相当厄介なタイプになっているからだ。


 『破王鬼』前の良い調整だと思って、俺も存分にやらせてもらおう。

 そして拳を交えることで、もしかしたら本当に愛火なのかどうかも確かめれるようなことが起きることを願おう。



「我に宿れ『勇気ブレイブ』」


「なっ!?」



――ゴウッ!!



 アイシャの黄金の火と比べれば小さいモノではあるが、俺の身体にも火が宿る。

 先の『七元徳』と俺の魔王戦争で『七元徳』側の神熾天使であるフォティアが使用していたモノだから驚いているのだろう。

 

 『美徳』の力の1つである『勇気ブレイブ』。

 『堕落した七元徳』の影響で少しだけ性能は落ちているが、そこまで気になる者でも無いのでガンガン使用していく。

 『破壊の火』と『勇気の心』という誰でも解りやすい力な分、個人的に『勇気ブレイブ』は使いやすくて気に入りそうだ。



「『心に勇ましき熱を、スピサ・カロール拳に撃滅の炎を・スブリマシオン』」


「『七元徳』の天使……その力を使用している?」


「この程度で油断していたら殺されるぞ? 『烈日にて迸るプロミネンス・は紅炎の叫喚ドゥルヒブルフッ!』」


「『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテインッ!』



――ドシャァァァァァァァンッ!!



 フィジカル化け物のフォティアみたいな縦横無尽な高速近接戦闘はできないが、それなりにスキルの使いどころや活かしどころは魔王戦争前の事前学習でも把握してたから使えるはずだ。

 『心に勇ましき熱を、スピサ・カロール拳に撃滅の炎を・スブリマシオン』で『破壊の火』を拳に纏わせバフをし、『烈日にて迸るプロミネンス・は紅炎の叫喚ドゥルヒブルフ』で火の拳圧を跳ばしながら牽制を行う。


 アイシャの『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』の一振りで一蹴されているが、手数が多い分鬱陶しそうなので良い感じだ。



「『赤い豹はトロキア・ディス燃え滾るトラクションッ』」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」



――ガシャァァァァンッ!



 『破壊の火』を纏い、弾丸の如く一直線に突進する『赤い豹はトロキア・ディス燃え滾るトラクション』と、アイシャの一振りが激突する。

 全てを灰と化す黄金の火と、全てを内側から焼き壊していく『破壊の火』のぶつかり合い。


 拳打と『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』による剣撃のぶつかり合い、互いに相手を1度でも触れることに成功すれば壊すことのできる『火』の力であるが、『黄金の火』と『破壊の火』は拮抗してるってことか。



「いつからそんな接近タイプになったのですかッ!?」


「相手のことを知った気でいると痛い目に合うぞッ!」


「はぁぁぁぁぁぁッ!!」



――ドシャァァァァンッ!



「まじかよッ!?」


「『火』でソウイチに負けるわけにはいきません!!」



 完全に意表をついた接近戦。

 アイシャも接近戦型というよりは中距離遠距離の火力で圧倒するタイプだと思っていたから、不意打ち気味で突貫してみたはいいが、まさか『破壊の火』が押し負けるとは思わなかった。

 『黄金の火』の力が想像以上に強い。それにアイシャの接近戦における『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』の上手さも想像以上だ。


 一振りで広範囲を薙ぎ払うことを1番の目的としている『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』の力を凝縮させて接近戦の立ち回りを強化するとは……。



「『日を喰らう灼焔龍プエスタデソルッ!』」


「『黄金に燃える炎鳥ヴィゾーヴニル』」



――ゴウッ!!



 拳打と剣撃の嵐の中、一瞬の空いた距離から放つのは互いの中距離スキル。

 『破壊の火』で燃え盛る龍と、『黄金の火』で燃え盛る炎鳥のぶつかり合いは、熱気と衝撃波を撒き散らしながら互角に終わった。


 アイシャの様子を見てみると、それなりの傷があるので『破壊の火』が効いていないわけでもなさそうだ。

 元々防御面は薄かった記憶があるので、やはり接近戦を仕掛けてみて正解だったようだ。



(……拳を交えても、確信を得られるなんていう漫画みたいな展開は無しか)



 俺がいた日本の漫画やアニメでは、拳や剣をあわせれば、相手の心が読めるだのなんだのとあったので、その可能性に信じてやってはみたが結果は残念賞のようだ。

 

 とりあえず軽く戦ってみて、色々気付くことでもあったのだろうか? アイシャは満足そうな顔をしながら『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』を解除した。



「なるほど……DEよりも良い経験を得ることができました。まだ私が足りなさすぎると言うことも」


「このまま『火』の対決をしていたら負けてた気もするけどな」


「互いに手合わせレベルの出力だったので、本気ならばわかりませんよ。では……数日後に会いましょう」


「互いに準備は怠らないようにしないとな」


「もちろんです」



 俺との戦いで得るモノがそれなりにあったようで、アイシャはダンジョン跡地から去っていく。

 俺は俺で収穫もあったし、リトスのお腹もそれなりに満たすことができたので良しとしよう。


 『破王鬼』とのタイマンの準備をしっかりとしつつ、『女神』の居場所や東雲拓真の動向についても、気を抜かないようにしなきゃいけないな。



 

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