第3話 燃える『聖国』


――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 俺がお昼寝している間に見ていた夢。

 メルとデザイアから聞いていたと思うけど、改めてラプラスとアイシャが俺のとっても親しい人物であるだろうということを伝えた。

 予想通り、そこまでピンとこないと言うか興味があまり無さそうな雰囲気が漂っており、ノッテくれるかと思った五右衛門ですらシーンとしている。


 なんだか話をしたことを後悔するレベルで空気が重い。



「記憶が戻る前に『焔天』と『誓約』と近づけたのは本当に偶然なのかのぅ?」


「ご主人様は確信なさっておりますが、お二人が本当に凛菜さんと愛火さんだとは限りません。私が『原初の魔王』であれば罠として今の展開を広げることも考えます」


「そうなんだよなぁ……だからどうにか確かめるために動きたいとも思っている」



 タイマンバトルが行われるまで時間はある。

 帝都にいって様子も見に行きたいし、王国についても実はそこまで詳しくないので調べておきたい。

 そして、1番気になるのは聖国の今後についてだ。東雲拓真が一喝したとは言え、魔王たちが『七元徳』の席を狙うことをやめるのを止めるのは難しいだろう。


 人間たちの争いが勇者によって一時休戦状態にあるからこそ、魔王や野生の魔物たちは暴れるチャンスだと感じて動き出す可能性は大いにあり得る。



「今のアイシャなら……あの席を狙うんじゃないかなと思うんだよな」


「ご主人様と話をしていたときも、強さと魔王としての立ち位置に拘っていましたからね」


「絶好のチャンスではある」


「すでに荒れておるところは酷いそうじゃからな……妾らが行けば魔王たちは驚くじゃろうな。最強勇者は王国公国側へ戻ったと思ったら! という感じで」


「とりあえず行ってみるか!」



 寝起きなこともあり、少し心配されはしたが身体的にはピンピンしており、やはり強くなったことも影響しているのか……未だに自分でも別人なんじゃないかっていう感覚がある。

 完全に『大魔王』になり、真の魔物へとなったことで、この世界をクリアしても元の世界に戻れないかもしれない可能性を考慮した上での選択だ。『原初』の爺さんなら意味不明なルールを言いかねないからな。


 とにかく……もう絶対に失敗はできない。


 そんなことを考えながら、俺たちは荒れているらしき聖都へと向かうのであった。








――聖国 『七元徳』ダンジョン跡地



――パチッパチッ



「強烈な気配がたくさんあるな。天使も残ってるし」


「ダンジョンは崩壊していますね。ご主人様の話では『七元徳の魔王』は必ず生きているということでしたが?」


「あぁ……絶対どっかしらでやってくる。あんな終わり方するような魔王じゃない」



 1番激戦区になっているであろうと予測した『七元徳』のダンジョン跡地。

 残された天使たち、聖都に近く、コアが無くなり崩壊しかけているとは言え、まだまだ立派な建造物やらアイテムが眠ってそうな場所。


 最強の魔王のいた場所だから何かあるだろうし、この場所を支配するということは聖都に1番近くに居座ることができる魔王になれるということだ。



「今なら混乱した聖都も征服可能だしな」


「また最強勇者が戻ってきて一蹴されるだけじゃがのぅ」


「いくら東雲拓真でも、1人しか存在していない以上……限界はありますから」



 東雲拓真の恐ろしさを知らない魔王は、まだまだ数多く存在するだろう。

 今でこそ俺は魔王界でも最強クラスなんて言われているらしいが、魔王単体としての評価は未だに低いままだ。

 ちょっとやそっとのことでは覆らない評価、俺としては頭を固くしてくれた方が油断してくれていて殺しやすいから楽だったんだが、最強勇者の軽く見ている魔王が多いということ……この周囲に感じる気配の数で教えてくれる。


 そして至る所が燃えている……ただの火ではなく、黄金色の炎が混ざっている。この火はアイシャの『黄金ト焔害ノ剣レーヴァテイン』の跡のはずだ。



「やっぱり来てるな……『神炎の魔王』とのタイマンにむけて仕上げてるみたいだな」


「主……確認したいと言っても、方法が無いんじゃから無理は禁物じゃぞ」


「デザイアの言う通りです」


「きゅっきゅ~♪」


「ポラールとデザイアは好きにやってきてくれ……ケガだけはしないように」



 デザイア・ポラール・リトスに同行してもらっているので、東雲拓真みたいな怪物が出てこない限りは問題ないはずだ。

 デザイアとポラールは天使の残党やアイシャ以外の魔王とその配下たちを抑えに行ってもらった。音も無く消えていったが殺すではなく、できるだけ抑えてほしいなので殺気もなく恐ろしい消え方だった。


 俺はリトスと一緒にアイシャの気配がするほうへ進んでいく。



「リトスもご飯の時間にしていいぞ」


「きゅっ♪」



 大量の蠅が巨大な魔法陣を描く。

 天に輝く禍々しい色をした魔法陣から、青黒い魔力が溢れ、おぞまじい気配と圧を巻き散らかしながら現れたのはリトスの最強召喚獣の1体である『蝕啜王・蠅之神ベルゼブブ』。


 『暴食グラトニー』の魔力がダンジョン跡地を圧し潰さんとばかり勢いよく覆い尽くす。

 少し先で争い合う大量の餌を前に、蠅之神ベルゼブブは嬉しそうに声をあげる。



『ええ感じのご馳走やなァ……食ったろうやないかッ!』



――ブブブブブブッ!



『『大蠅齧啜空アトモスカフィア』』

 


 蠅之神ベルゼブブから生み出される無限とも言える蠅たち。

 空を蠅色で覆い尽くし、周囲から魔力という存在を吸い尽くすまで増殖し広がり続ける地獄を創り出す。

 空に広がり、そして上から大群となって襲い掛かる蠅たちに、とまどう魔物たち。

 様々な種族の魔物たちが蠅に近づかれただけで魔力を吸われ、一度身体に齧られたら最後、干からびるまで啜り続けられて死んでいく。


 あまりにも煩い蠅の羽音のおかげで、敵の悲鳴や嘆きが聞こえないのは良いが、さすがに羽音をずっと聞くのも頭おかしくなりそうなスキルである。



「きゅっきゅっきゅ~~♪」


「さすがにご機嫌だな」



 『七元徳』との魔王戦争では、あんまり満足いける食事にはならなかったようで、面倒くさがり屋なリトスが一緒に来るには訳があると思っていたけど、まさか本気の食事をするためだったとは……負けることは無いっていう余裕を感じるな。


 俺としてはリトスとのデュオは能力的にも相性が良いんじゃないかと思ってるので、ここらへんで波長を完璧に合わせておくのも大事な話だ。

 召喚獣を何体か呼べるので手数が多く、俺に無い機動力を補ってくれて、俺の燃費がイマイチな部分や耐久力の無さが招く体力不安を支えてくれるので相性は最高なはず……?



――ゴウッ!



『坊主の目的の子が来おったぞ!』


「『幕開けの篝火ビギニング・ゼーレ』」



 

 『大蠅齧啜空アトモスカフィア』によって支配された空を一瞬にして真紅に染め上げる灼熱の炎。

 前に見た『幕引きの篝火イグニス・ゼーレ』の上空版、さすがの広範囲スキルであり、『大蠅齧啜空アトモスカフィア』に対抗できるだけの力を有しているのは、やっぱ優秀だなと言える。


 前会ったときよりも、さらに鋭く力強さを増した強烈な気配。

 灼熱の空に浮かぶのは、やはり『焔天の魔王アイシャ』であった。



「とんでもない火力だな……相変わらず」


「相手を封殺することに尖った能力……相変わらずですね」

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