第2話 『集いし運命』
◇
ラーメン屋の景色だった俺の夢は、気付けば見慣れた部屋へと場面替わりしており、俺と義妹が仲良く話をしている様子。
父さんが再婚したことで出来た妹、最初の半年間は色々あって距離があったが、俺が大学生のころにはだいぶ懐いてくれた。
俺が影響を受けるほどの癖の強い性格をしており、当時は色々大変だった記憶がある。
仲良くなった経緯は思い出すと長くなるので、今はやめておこう。
「確かに実家から近いけどさ……頻度凄くないか?」
「兄様はご迷惑ですか?」
「迷惑なわけじゃないけど……行動力凄いなって」
「大学に入学し、一人暮らしを始めてしまって私は寂しいのです」
「そう言われると……なんか申し訳ないと言えばいいのか?」
「ふふっ…本当兄様は優しいですね♪」
「織田凛菜」。
父さんが再婚した母さんの子……まぁ俺からすれば義妹だ。
身体が弱かった昔、大変な想いをした影響で歳にしては達観した癖の強い性格となり、敵を作りやすいなかなか苦労するタイプになってしまった義妹だ。
そして外見はどこからどうみても『誓約の魔王ラプラス』なのだ。ラプラスから服を貰ってきて、凛菜に着せれば完全にラプラスになるほどの見た目。
凛菜が俺をおいかけて、あの世界に来る可能性が大いにあるってのが……ラプラスが凛菜であること裏付ける1つのネタになる。
「大学1年生は忙しいと聞きますが、どうでしたか?」
「大学から近い場所に住めたおかげで1限も苦じゃないし、高校からの知り合いも多いから問題なく楽しいよ」
「兄様が楽しめているのなら良いですね♪ 私は疲れている父と、それを気遣う母に挟まれて大変です♪」
「うっ……」
「たくさんご褒美を所望致します兄様♪」
「仕方ない感じはあるな」
「はい♪」
こんな感じだったな。
2つ年下だったのだが、兄様と呼ばれているだけで実は俺が年下だったんじゃないかと言えるようなやり取り。口の上手さは凛菜のほうが上だったので素直に従っておくのが1番と割り切ったのはいつだっただろうか?
『原初』を追っていた父さん……まったく尻尾すら掴めないから疲労ばかりが溜まって行ってしまった。そしてそれを気遣う義母さんなので、なかなか重苦しい感じに凛菜は感じたのかもしれない。
元々父さんは口数が少なく、団欒の時間も口をそこまで開かないタイプなので何を考えているか雰囲気で読み取らないといけないのもあって……少し面倒ではあるからな。
「今更ですが……兄様は本当にお友達と離れませんね」
「小中高……そして大学同じ奴までいるからなぁ、本当にやりやすくて助かっているよ」
「そういう星の元に生まれた人なのかもしれませんね」
「運だけは昔から良いって言われてるしな」
「運以外でも兄様は良いところがたくさんあります♪」
物の少なく、木のデザインされた家具が使われているシンプルな部屋で行われるバカップルのような兄妹会話。
傍から見た感想だが……俺たちはこんな甘い会話をしていたのかと思うと、少し面白く感じる。当時は普通だと思っていたからな。
もしラプラスが凛菜であるならば、俺よりヤバい魔王になるだろう……それほどの才能と頭のキレを持つ義妹だからな。
ラプラスを絶対に死なせれない理由ができたな。凛菜が言った……そういう星の元に生まれてきたってのは本当なのかもしれない。
「愛火さんは本日いらっしゃらないのですか?」
「買い物済ませてから来るって連絡きてたな」
「会えるのが楽しみです♪」
「ほどほどにな」
『
高校で出会い、俺の恋人である人。
俺がこの世界に行くことを決意した1番の存在であり、それはなんでかと言えば俺の目の前でこの世界に誘い込まれてしまったからだ。
同時期にあの世界に入ったということは、同じ新米魔王であり……『焔天の魔王アイシャ』と瓜二つで性格も完璧に同じという衝撃である。
もし、記憶を取り戻す前に戦っていたかもしれない可能性があったかと思うと絶望だ。本当同盟組んでくれてありがとうって感じだ。
(俺は気付いたけど、アイシャの方は知らぬことだから……そこがなかなか辛い部分だな)
ウチの魔物たちに俺とアイシャが元の世界では恋人関係だったなんて話をしたらどうなるのだろうか?
五右衛門だけがノッテくれて、他の皆はどうでもいいみたいな冷たい空気になりそうだから、報告するのをやめておいたほうがいいのだろうか?
新米魔王を数体殺してきた……つまり元世界の人を殺した俺が言うのもあれではあるが、愛火と凛菜だけは絶対に失いたくない。
もちろん……これ以上の元人間たちの犠牲は勘弁したいのだが、全部把握するのは難しすぎる。
特にプレイヤーは俺がどうこうするのが難しいので、できれば勇者様にお願いしたいのだが、プレイヤーにも世界から出る手立てが魔王の討伐なので難しい話なのかもしれない。
「兄様と愛火さん2人にすると熱々ですからね。今日は私も可愛がってください♪」
「泊っていく気なんだな」
「父が久々の休み……せっかくなので夫婦2人で過ごしていただこうと思いまして」
「あの2人は気にし無さそうだけどな」
そういえばこんな日もあったなと2人の会話を聞きながら思い出す。
同じ大学だが学部が違ってキャンパスも少し離れた場所にある関係だった俺と愛火、同棲はしていなかったが週に何回かは泊まっていて色々楽しい時間を過ごしたもんだ。
凛菜とも相性の良かった愛火なので、凛菜にとんでも懐かれているので、相手を任せようと毎回考えていた記憶がある。
(俺があの世界に行く数カ月前の話……まだある程度は平和だった時期だな)
冬休みに映画館へ映画鑑賞に行ったこと、まさかスクリーンを見ただけであの世界に誘われるだなんて、この時は思いもしなかった。
今考えれば、携帯だろうがTVだろうが、映画館のスクリーンだろうが鏡だろうが、様々な場所から別世界への道を開ける『原初』を追っていた父さんは、本当に大変だったと思う。
これは俺が『七元徳』との魔王戦争に勝利し、眠っていた間に見た夢の1つだ。
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