第1話 世界の『混乱』


――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 『七元徳』との魔王戦争が何とも言えない形で終わり、結果として聖国の支配者であった『七元徳』が消えてしまったことで、世界の均衡は大きく崩壊しかけていた。

 ただでさえ各国の小競り合いが続いていた中で、聖国騎士団を失ってしまった聖国は各国の標的になりかけ、自国の魔王たちも『七元徳』の空いた席を狙うように表に出てくるようになった。


 そこで動いたのは公国にいた最強勇者様だ。

 本来の目的を一旦置いておいて、世界各国の争いや魔王たちを大人しくさせるために動いている。

 個人的には予想外だが、今更止めることも出来ないのでどうしようもない。少し落ち着けば、また公国の親玉狩りに行ってくれるだろう。


 どうやら俺は長いお昼寝をしていたようで、色々みんなとお話をしようと思う。



「とりあえずご迷惑をお掛けいたしました。みんなが落ち着いて対処してくれたおかげで助かった」


「……良い夢みたって顔してる」


「色々鮮明に思い出せました」


「妾は主が見ておった夢を覗き見させてもらったぞ……メルとじゃが」


「情報共有助かる。……世界は忙しいみたいだな」


「ご主人様の感想はどうでしょうか?」


「最強勇者様には誰も敵わないってのがよくわかるな」


「人間たちは争いを一時止め、自国の守りに専念するようになりましたからね」


「……無駄な命を散らそうとした国から潰しに行く。その一言で四大国を黙らせたのは凄いもんだね」



 長いお休みから覚めて、みんなの反応が特になかったので気にせず進めることにする。


 あれが勇者と呼ばれるにふさわしい存在だ。

 食堂にみんなを呼んで話合っているが、東雲拓真が最強勇者であることには誰からも反論の言葉は出ない。

 まさか一言で人間界を鎮静化の方向へと向かわせ、表立って暴れる魔王を土竜叩きかのように潰してしまうのは驚きの結果だ。


 『原初の魔王』と『女神』への挑戦が少し遅れる形になるが、どの道まだ俺もやらなければならないことが残っているので、まぁ……気にしないでおこう。



「……ますたーが『七元徳』倒した後から見るようになった『夢』?」


「あぁ……俺が魔王になる前の話だが、そろそろみんなには話をしとこうと思ってさ。1人で抱えとくのが疲れてきた」


「『記憶の欠片』が揃ったことで思い出したモノですか?」


「あぁ……それと『七元徳』を倒したことで、何故か鮮明に全部蘇った記憶だな」


「若が別世界の人間だったことや、『原初』と『女神』を追っていたことよりも重大な情報になるのか?」


「俺個人としては……とんでもなく重いもんだな。1部確証のないこともあるけど」



 なかなか重い話になりそうな空気をみんなが察してくれた。

 この流れでいきなり話始めるのも苦しいものがある。自分が集めておいてアレだが、せっかくなら近状報告からスタートしたほうが良かっただろうか?

 

 一応『大罪の大魔王ルシフェル』という完全に魔物になり、かなり強くなったはずだが、この真面目な空気に耐えられないので一旦逃げることにする。



「重たい話は少し置いておいて……みんな忙しかったし、この間の俺の能力についてでも共有しておこうか」


「ますたーの力……画期的」


「妾たちが3人までなら、全力で集団戦できるようになったのが革命じゃな」


「ハクとポラールの全力だけは主の力でもダメっぽいのがまた面白いもんじゃ!」


「……僕は1人でいいもん」



 『大罪の天魔銃アポカリプス』と『美徳の堕落天アビス』でガッツリ戦闘できるようになったとは言え、戦力的にはここでは低いほうなので、いつも通り補助側になるのは変化無さそうだ。

 『大いなる罪たちは星を目指す』といったアビリティが『大罪』のデメリットを緩和できるので、これまで避けてきた本気の集団戦が可能になる。


 集団戦の想定を最低限しかしていなかったので、ここ数日はダンジョンに待機している組はかなり集団戦の合わせをやってくれている。


 

「若も強くなったが、相変わらず難しい力ばかりで大変そうだ」


「阿修羅ほどシンプルな奴もいないけどな」


「左腕以外……見た目変わってない」


「主が弱いと見て誘い込んだ相手を一蹴できる策をやりやすくなって良かったもんじゃな」



 『美徳』の能力を使えるようになったこと、『真原罪之アマルティア・烙命印アドヴェント』で俺一人の時に大暴れしやすくなったこと、誰か一人居てくれれば『UNION・SiN』が使えることで幅広い戦略がとれるようになった。

 『美徳』の力は数が多すぎて覚えきれないので練習次第になってきそうだ。


 この後控えている『破王鬼の魔王ゴウキ』とのタイマンは正直問題なくなった。正面から接近して戦いたいタイプとは阿修羅みたいな化け物じゃない限り、俺の得意タイプなはずなので、準備を怠らなければ確実に勝てる相手になったはずだ。


 どちらかと言えばアイシャの方が心配することができる立場になった気がする。



「みんなにお願いして、1つずつ自分の力を確かめていかないとな」


「まずは魔銃の扱いからじゃな。デザイアから聞いた話だと外しまくったようじゃな」


「マスターガンバレ♪」



 『破王鬼の魔王ゴウキ』との戦いまで、まだ時間はあるので仕上げておきたいところではもちろんあるが、まさか銃がこんなにも難しいとは思わなかった。

 ゲームの世界なんだから、割と簡単にあたってくれるだろうとか思っていた自分を責めたい。


 記憶がしっかり戻ってから、この世界は『原初』と『女神』の創りだしたゲームのような世界であり、3つの世界線から人々がやってきている複雑な場所として認識をしっかりしているつもりだが……どうも難しいな。



「そろそろ……盛り上がったところで本題に行くわけだが」


「……メルから少しだけ聞いていますので大丈夫ですよ」


「……メルさん?」


「ますたーが話まとめて切り出すのに困ってたから、少しだけみんなに話した」



 そういえば俺の内側も見れるんだった。

 メルには感謝の気持ちを後に伝えるとして、ある程度聞いているのなら順序は適当に話をしても上手く纏めてくれるだろう。


 せっかくなら、俺の全部を知っておいてほしいので……不必要だとしても話をしていこうじゃないか。



「この世界ではソウイチって名前だけど、本名は織田蒼仁って言うんだ。よく織田っちって呼ばれてたな」


「……違和感スゴイ」


「呼び方は適当でいいよ。1人暮らししながら大学ってとこで勉強してた魔法も何も使えない人間だったんだよなぁ……そういえばだけど」


「学んでいたことや、家族構成とやらはメルから聞いたが、若は平和の国で楽しくやっていたと言うことか」


「『原初』の悪さに巻き込まれたのが運の尽きだったけどな」



 俺は他の人たちと違って自ら『原初』への道を知るために、このお遊戯の世界にやってきた唯一だったはずの存在だ。

 もしかしたら、ラプラスたちは自ら入ることを決断した人たちなのかもしれないし、ただ産み出された魔王なだけなのかもしれない。

 

 そして確信は持てないが、1つどうしても気になる事がある。



「ラプラスがどうしても義妹にしか見えないんだよなぁ。『織田凛菜おだりんな』って言うんだけどさ」


「主を追いかけてこの世界に来たということかのぅ?」


「性格的にも追いかけて来そうだし、記憶がないとは言え性格がそっくりなんだよな。あの懐き具合も一緒」


「ご主人様の後を追う……随分な度胸の持ち主なのですね」


「ちょっと壊れてるところもあったからな」



 俺は義妹である凛菜について話すことにした。



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