第14章 『黄金の想い』

プロローグ 過ぎ去りし『想い出』


――20XX年 日本 〇〇大学



「大学にも夏休みがあって助かったなぁ」


「課題が怠いよなぁ……せっかくの大学1年の夏休みなんだから楽しませてほしいぜ」



 とある大学、講義を終え昼休憩の時間になり、どこかの店へと向かう2人の大学1年生。

 長期休み前なだけあり、前期のテストを無事に終えた安堵感と、休みに入るので何をして遊ぼうか考えられるワクワク感をプンプンに出しながら歩く2人の背中を見つめる。


 

(あぁ……懐かしい記憶だな)



 俺こと『大罪の魔王ソウイチ』が人間であり、ふざけた世界に行く前の日常。

 大学1年生として輝かしいとまでは言わないけれど、それなりに楽しい時間を過ごすことができていた時の……夢だろう。


 俺の姿は霊体みたいになっており、プカプカと浮かんで俺の過去の記憶を眺めるだけの存在になっていた。


 夢にわりには意識がしっかりしすぎている気がするが……どうしようもなさそうだ。



「織田っちの今日の気分的に何行くよ?」


「涼しい店内なら別に何でもいいよ」


「おっし! ラーメン食べ行こうぜ!」


「あいよ」



 『織田蒼仁おだそうじ』。

 『大罪の魔王ソウイチ』になる前の俺の名前だ。名字の方が呼びやすいとのことで「織田っち」と呼ばれることが多かった。

 そんな俺と昼食を食べに行っている奴は「佐藤蓮さとうれん」と言い小学校、中学校・高校が一緒で大学まで一緒になった大親友……もはや腐れ縁の奴だ。


 魔王戦争とかいう命がけの戦いをしている世界に比べて、日本はある事件を除けば平和な場所で、当時は講義やら課題に追われて怠かったが……それでも楽しい時間だったな。


 俺の行っていた大学は学びたい専攻分野へのコースわけは2年次からで、1年はとにかく基礎的なものを学びつくせという感じで忙しかった。


 色々思い出しながら眺めていると、2人は行きつけのラーメン屋へと到着し、食券を買い始めた。



(……夏だけどラーメンはたくさん食べたなぁ)



 大学から割と近く、提供時間も速くて上手いし、それなりの値段で食べられるってのもあり、何でも良いときはラーメンを食べていた記憶がある。

 一応食堂もあるのだが、お腹いっぱい食べるには値段が少々高く感じたので、入学してから2カ月ほどで行かなくなった。


 ラーメンと半チャーハンセットを食べる2人を眺めていると、ラーメン屋のTVからニュースが流れてくる。



『集団昏睡事件』の被害者の内3名が先程亡くなられたとの情報が入りました。という話に2人の動きは止まり、俺の動きも停止する。

 全ての元凶である事件、これが世界の何もかもを破壊し、俺たちの生活を今後……俺の場合はこの時点ですでに壊されていた事件なのだ。


 

「親父さん大丈夫か?」


「……相変わらず、仕事の話は1ミリもしない人だから分からん。ただ疲れているらしい」


「お盆はしっかり帰って労ってやれよな」


「この調子だとお盆も仕事詰めでそんな余裕無いだろうな」


「……こんなこと存在するんだな」



 『原初の魔王』とかいう当時聞いた俺はふざけた名前の犯人だと思った名前を名乗る者が起こした、謎だらけの集団昏睡事件。

 1年前に5000人規模で突然倒れるようにして昏睡状態に陥り、どんな手を尽くしても目覚めることなく……今も眠り続ける状態になっている恐ろしい悲劇。

 その事件を引き起こした張本人だと名乗る『原初の魔王』は、未だに解明されていない手段で世界中で事件を引き起こしている。


 混乱に陥った世界に対し、『原初の魔王』が見せたのは、ゲームの世界に迷い込んだ昏睡者たちの映像。

 そして、そのゲーム内で命を落とした者は現実でも死亡してしまうという意味不明な現象……そんなの嘘だと誰もが疑ったが実際死んでしまうところを見せられてはどうしようもない。



(『原初の魔王』の存在の欠片すら掴めず……警官だった父さんは疲れてたな。従妹が犠牲者になり……俺も参ってた時期があったからな)



 誰がどう頑張っても『原初の魔王』の尻尾すら掴むことができず、1年経過し、調査は行われているが一般市民にとっては、何とも警戒しづらい事件になっていた。



(今思えば……世界を創造できるとかいうファンタジーな存在が……この世に存在していたなんて驚きだけどな)



 後に俺も『原初の魔王』の世界へと入り込むことになるのだが、このころは『魔法』だとかファンタジーの力なんて現実には存在しないってのが当たり前だった。

 『原初の魔王』が『女神』との遊戯に勝つための選別行為であり、別にこの世界線で無くても良いなんていう軽々しい行為だったなんてのも思わなかった。



(従妹が犠牲になって……父さんが事件に関わるようになった。その時点で俺が関わることになるのも当然だったんだろうか?)



 『記憶の欠片』を全て集めることに成功した結果の夢なのだろう。

 かなり鮮明に思い出させてくれる夢に驚きだし、こんなに意識がハッキリしている夢ってのも経験が無いから驚きだ。

 出来ればこんな夢を見たくなかった。色々覚悟したものが揺らぎそうになるかもしれないからな……。



「速く逮捕されてくんねーかな」


「ここまでやって進展が無さそうなんだから……相当ヤバいんだろう」


「世界各国が結託してこれだもんな……どうなってんだ?」


「こういうのは油断したときに……また来るだろうから、どう警戒していいか分からんが気を付けておこう」


「さすが! その真面目なとこは親父さん似だな」



 

 

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