9月30日書籍発売記念外伝⑥ 『火』


 『大罪の魔王ソウイチ』と『焔の魔王アイシャ』

 片や魔王界の歴史でもNo.1に酷い初動を送り笑い者になった魔王。

 片や魔王界の歴史上でも珍しいレベルで優秀な魔王。


 そんな交じり合うことの無さそうな両者、魔王界の話題は『焔』一色だったのが、僅か一夜にして『大罪』が全てもっていってしまった。

 『銅』との魔王戦争を鮮烈な形で勝利し、配合によって誕生した『大罪』を司る魔物の圧巻の姿は、『焔』が新米魔王最強なのではないかという議論を一蹴した。


 

「魔王戦争勝者として1番乗りをしましたが……予想外の交じり合いですね」



 『焔の魔王アイシャ』からの打診に応えたソウイチ。

 新米魔王で唯一の魔王戦争経験者、そしてベテラン魔王ミルドレッドを師に持つという一気に名をあげた魔王であるソウイチに対し、新米魔王の中で1番優秀と評価された『焔』からのアドバイスを受けたいという打診。


 リーナとしては他者を比較的に信用せず、面倒ごとやストレスになりそうなことは徹底的に避けるような性格をしていると思っていたので、この会合は断るのだと思っていたのだが……結果はリーナの予想とは正反対の即断での会合であった。



「何故か初対面なのに……すでに私よりも信用されているのは気に喰いませんね。ダンジョンを軽く案内したのは意味があるのでしょうか?」



 付き合いが長いわけではないが、それなりにソウイチのことを隣で見てきたリーナから見ても……今ソウイチが行っていることは謎だらけである。

 『焔』が行う魔王戦争の相談を受けているようだが、ほぼ初対面とは思えないほどに真剣に相談を受けるソウイチに、ますますリーナの中の混乱は激しさを増していく。


 とりあえずリーナが出した答えは……アイシャがソウイチの好みである。

 そう思っておくことにしたリーナは改めて、この会合が両者に及ぼすメリットについて考える。



「先輩魔王が直接的には介入できない新米魔王同士の争い……『銅』との戦争を観戦すればソウイチ様を味方につけたいという選択肢は大正解ですね。問題も多いですが……」



 ガラクシアとポラールの2体がいれば、新米魔王同士の魔王戦争は、相手がどれだけ存在していても負ける確率は低くなる。

 ガラクシアとポラールが戦っている間に、ダンジョンコアや味方魔王が倒されてしまう可能性はあるが、あの2体が暴れるだけでそんなことは無くなるだろう。


 しかし、ソウイチは無闇に自分の手札を見せびらかすような戦い方を、自分の魔王戦争以外でするとは到底思えず、手伝ったとしても目立たないようにやりつつ、ワンポイントで仕事をするようなやり口で行くとリーナは予想する。



「魔王同盟を組んでも……『大罪』の魔物に味方は邪魔にしかなりませんからね」



 単騎でこそ最強クラスの力を発揮できる『大罪』の致命的な弱点。そして今後隠し通さなければならないポイントになってくるので、それを見せるような立ち回りをソウイチがするとは思えない。


 しかし、リーナには引っ掛かるポイントもあり……。



「初対面にしては……あの心許した感じ……まさかの展開も考えられますね」



 強い魔王であることに真面目で貪欲、まさしく成績優秀な魔王という感じのアイシャのような者が本当に好みだった説が割と有力になってきた事実に、リーナは少しソウイチのことがわからなくなったのであった。





――『罪の牢獄』 コアルーム



「……これが『大罪』。反則的な力ですね」



 ポラールの提案によって行われたスケルトンソルジャーとブリザードイーグルの配合、ブリザードイーグルのほうは、『大罪』の力は無いが尖った属性タイプの飛行魔物になり、堅実な戦力強化になった。


 リーナが思わず驚愕してしまったのはスケルトンソルジャーのほうである。

 新米魔王が初期のころにダンジョンの入り口だったりに配置することの多い低ランク魔物の代表格。アンデットを有用に使える魔王で無ければ、割と早い段階で召喚しなくなるスケルトンソルジャーの配合は、予想の遥か上を行く結果になった。



(魔物に配合物を選ばせる方法は変わらず……アンデットが聖属性の『魔名』を配合するなんて普通では考えられません……多くの魔王がそれで失敗してきているというのに、成功させるどころかスケルトンソルジャーをEXランクの怪物に変えてしまった……)



 スケルトンソルジャーは『無頼』の大罪を司りし、アンデットにして聖騎士王であるヘラクレス・アビスへと姿を変えた。

 真名も授かったことで反則レベルの力を有した魔物がまたもや『大罪』陣営に誕生してしまった事実……リーナはあまりにも速い進歩についていくのが精一杯であった。


 アヴァロンと名付けられた怪物は、あまりにも尖ったデメリットとメリットを持つ魔物であり、『大罪』の特性が1番表れている魔物だとリーナは感じた。

 味方1人として近くに居ては力を発揮できず、むしろ弱体化してしまう孤高の騎士王。群れで力をなすスケルトンソルジャーの特性は消え去ってしまった。



「……サキュバス・アークエンジェル・スケルトンソルジャー……低ランクの魔物をEXにまで昇華させる力、あまりにも強大な『魔名』ですね」



 強大なデメリットも納得……むしろデメリットを凌駕する圧倒的な力。

 『大罪の魔王ソウイチ』という存在が、日に日に最強の魔王への道を進んでいることをリーナは実感するのであった。

 

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