9月30日書籍発売記念外伝⑦ 『鍵』
――『罪の牢獄』 居住区 資料室
『焔の魔王アイシャ』との会合から僅かな時間で、ソウイチを取り巻く状況は激変した。
まだダンジョンとしては無名なはずなのに、高ランク冒険者パーティーの襲来。これは完全に『大罪』の魔物たちの実験台として扱われ、さらには今後の展開のために洗脳し配下として運用するという100点満点の結果を残したソウイチ。
リーナとしても冒険者を使ってダンジョンの知名度をあげる戦略というのは正解だと感じているし、ガラクシアの洗脳を解除できる存在が世界中探しても稀な存在であることを考えると、途切れることの無い宣伝効果が見込めるのが目に見えている。
「『焔』に肩入れしすぎだと思いますが……どうなのでしょうか?」
『焔』の『魔名』を狙う先輩魔王である『豪炎』。
『焔』とソウイチが接触したことを知り、『罪の牢獄』に冒険者を仕掛けたので、喧嘩を売られたと思い、まさかの堂々と宣戦布告をしにいくソウイチには、さすがのリーナも驚かされた。
EXの力を手に入れて枷が外れたのか……喧嘩を売られたのが癪に障ったのか……『焔』に肩入れした結果なのかは不明だが、自分にデメリットのある選択肢はなるべく避けるタイプに見えたソウイチの大胆な行動にリーナは理解ができない状態である。
「『豪炎』を迅速に殺すため……確認と陣を張りに行く策はらしさがありますね」
わざわざ話に『豪炎』のダンジョンまで行ったのではなく、新米だと油断している『豪炎』ならダンジョン奥地まで、わざわざ案内して威張り散らしてくれるだろうということを見越してまでの作戦。
その思惑は成功し、ダンジョンコアの目の前地点にポラールが転移できるような陣をこっそり作成してきたのである。
つまり……『豪炎』が『焔』の魔王戦争に出てきた瞬間、すぐにでも始末しに行ける状態を作り上げたということだ。
(いくらなんでも……『焔』を気に入りすぎでは? なんでしょう……やはり外見なのでしょうか?)
慎重なのか大胆なのか、隠したいのか目立ちたいのか……意味不明な事態になってきたことに理解が追いつかないリーナ。
迷宮都市を創り出し、かなり順調なルートを歩んでおり、迷宮都市運営は頭の悪い自分じゃ悪い方向に行くからどうにかしたいと言うあたり、いつも通りな気がするのだが、『焔』が関わってくる事案になると、どうもおかしいとリーナは感じるのである。
「そして自ら同盟を組もうと言い出した時は……思わず口を出しそうになりましたね」
自分の立場を低く見積もっているのだろうか? リーナか見れば、ガラクシア・ポラール・アヴァロンが居る時点で、確実にソウイチの方が魔王として上の立場の君臨しているのにも関わらず、自ら同盟を提案する謎めいた策。
『焔』の魔王参戦に同盟として参戦し、自分の魔王戦争の時以上のやる気を見せるスイッチの謎さ、それに相変わらずの報酬での豪運っぷりを見せつけ、悩みであった迷宮都市の運営を任せれそうな参謀魔物を手に入れる順調な流れ。
「一気に仕事がやってきて……なかなか余裕が無くなってきましたね」
新たな魔物ルジストルと迷宮都市の運営の中核になるように命じられてしまったので仕事が山積みになってしまったリーナ。
簡単に言えば完全なる投げやりなので、好きにやって良いと言う感じではあるが、それが1番大変なのをソウイチに伝えたいリーナなのである。
ルジストルはルジストルで何を考えているかわからないミステリーな性格悪いタイプの精霊なので、変なことをすると感づかれてしまうので動きづらいのが現状。
ソウイチの気分次第で激変しているのかと思えるような目まぐるしい状況に、さすがのリーナも混乱する毎日が続いてしまっている。
「魔王戦争当日ではありますが……そういえば配合解禁日だった気がしますね」
リーナは配合するならコアルームであろうと思い、コアルームへと移動するのであった。
――『罪の牢獄』 コアルーム
配合解禁日となり、どの魔物を配合するのか気になったリーナがコアルームで見た光景、それは『原初の魔王』の指示でソウイチの監視にきていたリーナにとっては絶望的な景色であった。
Gランクの中でも最低戦力とも呼ばれる魔物スライム。
スライムに真名なんてのは笑い話、スライムに配合枠を使うなんて、スライムに特化した魔王で無い限りありえない。
そんな魔王界の常識をぶち壊す配合が行われてしまったのだ。
(……壊している)
スライムと『大罪』、それに高ランクの配合物が混ざり合って生まれたのは、自由自在に姿形を変形させることのできるスライム。
星の力を行使でき、広範囲の情報収集に長けており、生物の心の内側までも機敏に覗くことが可能であるそうだ。
モニターに映し出される新たに誕生した『大罪』の魔物である、最凶スライムことメルクリウスの能力を見たリーナは悟ってしまう。
(……詰んでしまった?)
メルクリウスの力が自分に向けられた瞬間、主からの指示で監視に来ている存在であることがバレてしまう可能性が高くなった。
迷宮都市のほうに仕事をさせられる予定なので、どうにか離れられるがソウイチの様子を見ていられなくなる可能性が大いに高まり、ダンジョンにいる間は監視のことを決して考えてはいけない状況になってしまった。
監視として……完全な詰みな状態に陥ってしまったリーナ。
こうして、ソウイチが世界に疑問を抱き……『原初』と『女神』の敵対、魔王の不思議といった世界の謎を追求することを決断する最初のキッカケである。ホムンクルスメイド・リーナの真実が暴かれた瞬間であった。
リーナの秘密をキッカケに、ソウイチはこの世界の深淵へと歩を進めるのである。
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