エピローグ 『戦乱の世』
――アーク ルジストルの館
「閣下のお昼寝6日目……随分と荒れてますね」
「そうですね。『原初』様も嘆いておられます」
「さすがに隠さなくなってきましたね。『原初の魔王』は『女神』を今にでも倒してほしいんでしょうね」
「同時に撃破を目論んでいるようですが、『原初』様は勇者に自身が負けることは無いとお考えのようなので」
「閣下が『女神』の元に辿り着くには……この荒れた世界は目につきますね」
ソウイチがアクィナスの影響で眠りについてしまってから6日目。
アークにあるルジストルの館では、街の長であるルジストルと、『原初の魔王』の配下であるリーナによる心温まる会話のやり取りが展開されていた。
『原初の魔王』の配下でありながら殺さずに身内に置いておく。扱いに困ったソウイチがルジストルに相談した結果なのだが、ルジストルはこの状況を日々楽しんでいた。
仕事は今まで通りこなしてくれるし、稀に面白い話もするので、ルジストルの中ではソウイチをここまで導く要因となったリーナをどうにかする考えは無いのである。
「聖都の崩壊が全ての始まり……これは王国の1人勝ちになりそうですね」
「公国には最強勇者、帝国はソウイチ様が戦力の大半を削ぎ、別に他国に興味なしの状態……そして聖都は崩れました」
「帝都には『罪の牢獄』の戦力も潜んでいますので、王国が手を伸ばすのは聖都と公国の1部……多くの魔王も暴れているのでどうなるものか」
アクィナスを失ったことで聖国騎士団の大半は消滅し、戦力が無いに等しい状態になってしまった。
そんな状況を見逃すわけもなく、聖国を支配してやろうと多くの魔王たちが動き出した。各地で小競り合いをしていた国同士の争いの均衡も崩れ、本格的な戦争が始まりかけていた。
戦力を維持できている王国が1歩リードの展開が予想される中、各地の魔王が精力的に暴れ出したせいで、何が何だか分からない状況にもなりつつあると考えるルジストルは、『大罪』陣営がどう動くべきか頭を悩ませている。
「帝都を手放すのは論外。『大罪』の『魔名』を狙うプレイヤーに魔王の討伐もあるとなると、『女神』の意識を割くのは最強勇者が公国の大魔王を討ってからになるでしょうね」
「随分東雲拓真を評価するのですね」
「閣下が最強と呼ぶ存在ですからね。対峙せずとも最強と呼ぶのは相当な力の使い手である証拠だと考えられますから」
「なるほど」
公国が東雲拓真により崩れれば、完全に人間界は王国1強の時代になるだろうとルジストルは予測する。
ソウイチが帝国を手中に治めてはいるが、別に人間界のトップに帝国をもっていこうなどとは考えてはおらず、あくまでも拠点の1つであり、情報収集とアーク繁栄のための場所であることが前提だ。
王国がこのまま手早く人間界のトップ国になってもらう分には、そこまで構わないと考えているルジストルだが、いくつか面倒なことが思い浮かぶ。
「そのまま帝都を狙うとならば……閣下の仕事が少し増えてしまいますな。王国の魔王たちにも狙いを定められ、他国の魔王も参戦してくるとなると面倒どころではない展開になりうる……か」
魔王が暴れる限り、人間たちは大きいことをしにくいと考えれるが、今ではどの国も魔王と繋がりがあると考えるのが常識なので、連携して仕掛けてくる可能性は大きくありえるのだ。
聖国全体が完全なる無法地帯となる前に、どうにかソウイチには目覚めてもらい手を打ってもらうべきとも思えてきたルジストルは、おもむろにペンをとりだして資料を作り始める。
「閣下が目覚めたとき……すぐに動けるようにしておくのも仕事の1つとしますか」
ソウイチが眠っている数日間で、あまりにも世界が動きすぎたことで、確実に慌てるであろうソウイチのためにも、ルジストルはいつも以上に悪い笑みをしながら死霊作りに没頭していくのであった。
――『焔輪城ホムラ』 ダンジョン内 会議室
「背中が遠く感じますね」
世界を混乱と謎に包み込んだ『大罪』と『七元徳』の魔王戦争。
肝心なところは映し出されることはなかったが、『大罪』の勝利に終わり、最強の魔王の1体であった『七元徳の魔王アクィナス』が死亡したことは、ソウイチの同盟であるアイシャにも大きく影響を与えていた。
同期であり同盟、考え方や目指す道は違えど、同じスタートラインから走ってきた友……それが僅か1年で遥か高み、今までよりも遠く追いつけない場所まで行ってしまった感覚。
悔しさと焦燥感。
2つの感情がアイシャの中を渦巻き、大混乱の世界に影響されてか、何が何だか分からなくなっているアイシャであった。
「追いつくどころか、足下にも及ばない実力差……『
ソウイチとアクィナスが消えてからのガラクシアとアヴァロンの一騎当千の活躍。それは観戦していた全ての魔王から笑みを消し飛ばした。
EXランクにすら驚愕していた魔王界を完全に置き去りにする、天下無双の力を見せつけた2体に対し、魔王たちは恐怖してしまったのだ。
もちろん……同盟であったアイシャすら、あまりの力に恐怖を覚えてしまったのだ。
『水の魔王』や『異教悪魔の魔王』との戦いのときから、圧巻の強さを見せつけてきたソウイチたちだが、今回の戦争での強さは異常を超えていたのだ。
「いけませんね……『神炎』との戦いに、聖国の戦乱と戦いがあるのに滅入っていては危険です」
あの強さの魔王がいる中……他魔王の存在意義は何なのか?
最早他の魔王たちはソウイチの糧になるために存在しているのでは無いかと疑わしくなってきたアイシャ。
自分も何か選択肢が違えば、あの領域に行くことができたのかと考えても、どう思い返しても不可能な域……ソウイチと戦える存在は魔王界の中には存在するのだろうか?
「だからといって止まってしまえば……ここまでの道の全てを否定してしまうことになります」
こんなに悔しいことは無い。
魔王の頂点への道を諦めたくない。絶望的だとしても僅かながらに可能性の道があるのなら……せめてそれを試してから考えたい。
そんな想いを胸に……アイシャは嵐巻き起こる聖国の争いへと踏み出す決意をしたのだった。
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