9月30日書籍発売記念外伝① 『始』


――とあるダンジョン



 『原初の魔王』の命により、もうすぐ目覚める新米魔王の支援・観察をすべく、まだ名前もないダンジョンへとやってきたホムンクルスメイドのリーナ。

 主である『原初』を満足させることができるかもしれない可能性を大いに持つ1人らしく、ただ側近として一緒にいることが『原初』からの命令だ。


 

「なんだ? どこだここ?」



 新米魔王が目覚めた声が聞こえ、リーナは部屋へと向かっていく。

 一体気付かれることはあるのだろうか? 本当に主を満足させる素質があるのだろうか? 様々なことを考えながらリーナは部屋に入り挨拶を行う。



「おはようございます。ご主人様」



 現状への困惑と不安。

 此度の新米魔王は全て、ある世界のある時代からやってきた人間。

 人間だった頃の記憶は封じられてはいるが、思考や行動は人間っぽいところが多く残っているとリーナは『原初』の言っていたことを思い出す。


 新米魔王であること、この場所はダンジョンであること、DEを集めなければいけないということ……リーナに対し様々な質問を投げかけるが、あまり頭に入っていない様子にリーナは少し困惑した。


 思っていたよりも優秀な魔王ではない……と。



「ご主人様、10分程落ち着く時間が必要に見えます。水をお持ちしますね」


「随分優しんだな」


「立派な魔王になっていただくのが仕事ですので」



 リーナは1度部屋を出る。

 優秀な魔王は、みんな自信と冷静さに満ち溢れている、元人間である名残のせいなのかは不明だが、今見た感じでは主を満足させる域に至るまで時間がかかりそうな予感をリーナは感じた。


 水を持って行くまでの10分間で、どれだけの情報を整理し、現状を受け止めた上で今後の方針を決めて行くことができるのか……リーナは楽しみにしながら水を持って行く。



「どうぞ、ご主人様」



 先ほどまでとは違って、とても落ち着いた顔つきになった新米魔王に対し、リーナは1つ感じたことがあった。



(……この状況化で信用しきらないなんて……)



 突然魔王として頑張れと言われ……頼れる存在がリーナしかいないこの状況で、疑いの混じった視線でリーナのことを見てくる。

 リーナはこの時に『原初』が期待する意味を理解することができた。優秀さでも冷静さでもない……冷酷さとひねくれ具合、そして現実をしっかり受け止める力。


 そして伝えられる『ソウイチ』と言う名前。

 新米魔王の名前には、全てに意味があり、人間だった頃と近しい名前か、いつか目覚める能力に関連した名前になると決まっているのだ。


 きっと『ソウイチ』という名前は人間だった頃の名前だろうとリーナは感じた。



「『大罪』?」


「『大罪の魔王ソウイチ』様の誕生ですね」



 なんとも物騒な名を持つ『魔名』だとリーナは思った。

 力の内を想像しづらい魔名に困惑しつつも、リーナは説明を続けていく。話を聞きながら悩むソウイチを見て、順応するのが速いと感心しながらリーナはダンジョンコアのもとにソウイチを案内するのであった。


 少しばかり足早な説明にもツッコミを入れながら頭に入れていくソウイチに、少し面白くなりながらもリーナは話を止めることなく続けていく。



「そうだな……ダンジョン名は『罪の牢獄』だ」


『ダンジョン名『罪の牢獄』承認』


(『魔名』に続いて物騒と言いますか……なんともネガティブな名ですね)



 ランクがSなので、確実にとんでもない力を持っているのは確かなのだが、見る限り外れと言える『大罪』の『魔名』、そしてダンジョン構造をあまり悩むことなく『洞窟』に決定し、自らの城を『罪の牢獄』と名付ける心意気。


 存在しているどの魔王とも異なるタイプの魔王。

 主が楽しみにしている存在なだけはあるが、『大罪』という大いなる制限がある力で大丈夫なのだろうかと心配になるリーナ。


 魔物を召喚しようとして、『大罪』の制約の重さに絶望しているソウイチを見て、さすがに同情してしまうリーナだが、ここで折れられても困るので幾つかの案を提案していく。

 一角ウサギを召喚し、ステータスを見ながら色々考えるソウイチを見て、最初の魔王戦争を乗り切れるのだろうかと思わず不安になるリーナ。



「コアで呼び出した魔物は指令が無い限り、基本は呼び出されたエリアに滞在して敵を待ちます」


「なるほど、魔物と罠の配置を考えないとな」


(……存外楽しそうですね。『大罪』の制約を見て普通なら心が折れても仕方ないような気もしますが……)



――チャラランッ♪



 主から届く、主の気まぐれプレゼントセットが届いた。

 なんて書いてあるのかまったく読むことができず困惑しているのだろう。初回のプレゼントは『記憶の欠片』を全て揃えなければ解読できないので仕方ない。

 プレゼント内容は主の気まぐれで、この『魔名』なので良い内容にしてあげてほしいと願いながら、リーナはソウイチとともにプレゼントを確認していく。


 初ログインボーナス・事前登録受付報酬・『魔名』ランクSまでの到達報酬・初心者限定ログインボーナスと、もし解読できれば世界に疑問を持ってしまう内容ばかり、主によって創られた世界であることにソウイチが気付けるかどうかリーナは楽しみになってきたのだった。

 なんて書いてあるか、本当は読めるリーナだが、適当に誤魔化しつつソウイチには進んでもらう。



「【ランクF魔物ランダム獲得チケット】か、まぁ使うか」


「それがいいですね」



 リーナが考えるに、ソウイチが今後活躍するのには『大罪』の制約との付き合い方が大事になってくる。

 ランクSなので絶対に強い部分があるはずなのだが、魔王の根幹に関わる魔物の部分のデメリットが強すぎて厳しい未来しか見えない。


 チケットとソウルピックが他魔王の数倍以上は大事になってくるのが明白なので、どのような引きをするのか個人的に楽しみなリーナである。


 スケルトンソルジャー、それに自分が進めたサキュバスをすぐ選択する辺り、なかなかの素直さも持ち合わせていると感心しながら、リーナはソウイチの初期準備を観察し続けるのであった。


 

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