第21話 『血色』の狂月
アクィナスが出現させた『黄天の秤』から放たれた眩い光、視界が晴れた時にはソウイチとアクィナスの姿は戦場から消え、気配も魔力も感知できない状況になった。
視界が晴れ、ソウイチとアクィナスが消えているのに追加して、倒したはずの神熾天使たち……それも『美徳』の力をしっかりと持っている『真名』持ちたちが何故か大量発生している現状。
1体でも面倒だった神熾天使たちが、何故か復活しており、自分たちを囲むように陣形をとって悠然と構えている。
ポラール達を囲むだけでなく、各六封城や『罪の牢獄』前……戦場の全てに現れた神熾天使たちに対し、ポラールたちの行動は迅速なモノであった。
「……とてつもない広範囲型の指定逆転移、私にデザイア、メルとウロボロスが居れば探し出せるはずです」
「逆に主の近くに居て正解じゃったな。そう簡単にくたばらんじゃろうから……妾らで急ぐとしとうかのぅ」
「あの秤も含めて根……張るよ」
「みんな違うとこ避難しててよ♪ この数は本気出さないと負けちゃうからさ! ここは探知に協力できそうにないガラクシア様にお任せを~♪」
「……任せましたよ?」
「ダンジョンはアヴァロン……道中はバビロンが本気出すだろうから、みんなはマスターのこと任せたからね♪」
「ご主人様は任せておいてください」
「は~い♪」
――シュンッ!
『美徳』の力を持ちし神熾天使の大群の中、ガラクシア1体を残しポラール達はどこかへ転移してしまう。
ソウイチとアクィナスが消えてから、あまりにも素早い行動のあまり、神熾天使たち誰1人として転移を止めることが出来なかったほどである。
『
そんな中……ガラクシアは武者震いを軽くした。
「何も気にせず、ただ視界に映るの全部壊しちゃう♪ みんなの前だと気恥ずかしいけど、誰も見てないなら……やっちゃうんだから♪」
神熾天使の大軍勢に囲まれる中、1人笑っているガラクシアに対し、1体のミカエルが淡々と言い放つ。
復活せし、神熾天使たちとそれに付き従う様々な天使たち、特段広い訳でもないエリアに数百のEXランク天使がおり、その天使たちがミカエルの発言とともに、一斉に殺気をガラクシアにぶつける。
――ゴウッ!!
「私たちは主の『号令』で天より舞い戻りました。先ほどまでの戦いの記憶は全員共有しております。降参するなら楽に殺してさしあげます」
「……マスターに手出しといて……全部全部全部全部……全部グチャグチャにして壊すッ!!!」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
最早ミカエルの発言など耳に入っていない。
ガラクシアから溢れ出す尋常じゃない『
完全に精神的に優位に立っていた天使たちがガラクシアの魔力放出に対し、動き出せないほどの凄まじい死を感じさせる圧。
ガラクシアと戦った天使たちの記憶を受け継いでいる、ここにいる天使たちは恐れてしまった。
つい先ほど戦った時と、あまりにも違うその様相に……。
「全部壊れて狂え! 『
常に笑顔で余裕あり、天真爛漫なガラクシアはそこには存在しない。
ソウイチが危険な目に合わされているという状況に対する怒り、自分の不甲斐なさに対するイラ立ち、全てを解き放つかのようにガラクシアの魔力は爆発する。
ガラクシアを中心に勢いよく展開されるのは血色の星が輝く暗黒の夜空。
一瞬にして青空から夜空へと様変わりした戦場、そんな中でも天使たちは動揺をみせず、ガラクシアから目を離さず、一斉に仕掛けようと魔力を練り上げようとする。
「出てきて『狂紅月』……狂って壊れろ『
――パキッ
紅い星々が輝く夜空に出現したのは血色に輝く巨大な満月である『狂紅月』。
そしてガラクシアのスキル発動宣言とともに『狂紅月』から眩いばかりの紅い光が天使たちを照らし出す。
『美徳』を持ちし神熾天使たちが揃っても防御不可能である無差別なる光である『
一瞬にして戦況を停止させた本気のガラクシアによる能力解放。
『
そして、存在するだけでガラクシアが使用する全ての『
視界に映る全てを壊すと決めた時に使用する『
いつしかガラクシアの格好も、いつもの軽鎧と黒のドレス組み合わさった武装ではなく、まるで舞踏会にでも出るかのような美しい漆黒のドレスに変化していた。
「アァァァァァァァァァァァッ!!??」」
『狂紅月』の光に照らされた天使の内1体が狂ったように頭を抱えて叫び出す。
そこから連鎖するようにして、『美徳』持ちの神熾天使たち以外の天使たちが頭を抱え、血涙を流しながら狂い叫ぶ。
天使たちの頭の中では自分は何者なのか、何をするつもりだったのか、何故こんなところにいるのか……何故か明確なのはガラクシア以外の全てを『壊さなければ』という言葉が響くのみ。
『美徳』を持ちし神熾天使ですら血涙を流しながらも、自我を保とうと必死に抗っている。
「アタシ以外の全部壊して……その紅瞳は『
「「「「「アァァァァァァァァァァ!!!???」」」」」
囁くようなガラクシアの言葉をきっかけにして、天使たちは互いを獣のように喰い殺し合っていく。
ガラクシアの色に狂わされた紅瞳の獣たちによる惨劇、なんとか自我を保とうと必死な神熾天使たちも、狂った天使たちの大群に四方八方から襲われ噛み殺されていく。
光を浴びたガラクシア以外の全てを狂わせ、目に見える者を噛み殺すまで止まれなず、最後には舌を噛んで自害するまで止まれなくなる強制洗脳スキル『
しかし、そんな狂った状況の中でも神熾天使たちは、さすがの抵抗を見せる。
「『
「『
「『
――ドシャァァァァンッ!
自我を保つのに必死な神熾天使たちは、とにかく広範囲を薙ぎ払えるスキルを使用し、噛み殺そうと迫りくる配下の天使たちを退けている。
先ほどまで余裕な雰囲気すら漂わせていた神熾天使たちは、死ぬまいと必死に抵抗を続ける。
これだけの天使が集い、互いをアビリティで強化し合っており、ステータスも耐性も前戦った時よりも遥かに上回っているはずなのに、この圧倒的なまでの差。
『七元徳』陣営誰もが予想できなかった……今まで1度も『大罪』陣営の魔物たちは本気を出していなかったのだと。
集団を苦手とし、個であることに強みを持っている部分を履き違えていたと天使たちは後悔した。
「個でなければ……互いを壊し合ってしまうレベルで凶悪という段階だったのですか……」
「『
――ブワッ!!
ガラクシアの身体から銀色の魔力が溢れ、足元には5つの魔法陣が形成される。
本来ならば隙だらけのはずだが、互いを壊し合う天使たちの波の中、自我を保ちながら、己の身を守ることで精一杯な神熾天使たちには、その隙をどうにもすることはできず……。
右手を高く掲げたガラクシアから放たれるのは破滅なる禁忌魔導。
「『
天使たちは、自我の崩壊を感じながら滅びの極光に飲み込まれていった。
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