第20話 『聖天号令』


――黄天の秤



 ポラールがミカエルを、しっかり事前準備通りメタってくれたおかげで難なく撃破したことで、俺たちは『七元徳』が待ち受けるであろう巨大な天秤の前までやってきた。


 超巨大な天秤の前を余裕そうな表情で待ち受けるのは『七元徳の魔王アクィナス』。

 魔王でありながら女神の右腕であるという、なんとも面倒な存在であり、今いる魔王の中でも最強候補の1体。


 

「……随分と余裕そうな顔してるんだな」


「絶体絶命で為す術無し、困ってしまいました……」


「嘘つけ……どうせ今から本番なんだろ?」


「どのような展開を想定しているかは不明ですが、互いに想定通りではありそうですね」


「『美徳』たちがやられたのは想定通りなんだな」


「『黄天の秤』を出すには犠牲が必要ですから……」


「後ろのとんでもなくデカい秤か……」



 アクィナスの背後に聳え立つ巨大な天秤。

 ウロボロスの数倍大きいので、こんな大きいモノで1体何を測るのか予想もつかないが、わざわざ『真名』持ちの魔物たちが倒されなきゃいけないっていう摩訶不思議な条件の時点でヤバいのは確実。


 それにアクィナスから溢れ出している凄まじい魔力の圧、これだけ感じると神熾天使なんていらなくて、魔王単体だけで全部良いんじゃないかってくらい……とんでもない迫力だ。


 

「『大罪の魔王』……我が『七元徳』と対称にあるモノよ。最高の聖戦にて決着を着けましょうッ! 『聖天号令』‼」


「……聖戦ねぇ……」



――ゴウッ!!



 アクィナスの勇ましい宣言と同時に秤が眩い光を放つ。

 思わず目を逸らした直後、フワッとした感覚がきたと思い正面を見直すと、先ほどまでいた戦場ではなく、どこかのお城の玉座の間みたいなところにいた。





――???




「……前線に出てきたのは大失敗だったか?」


「貴方がダンジョンに引きこもっても同じ展開になっていましたよ。私の『黄天の秤』はどこに居ようと対象を逃すことは絶対にありませんから」


「……最強技かよ」


「これで楽しく2人っきりですね。安心してください……私の配下もココには来ることはできませんから」


「……秤に乗せられた2人だけが存在できる空間ってやつか」


「どうですか? 貴方の大好きな『初見殺し』とやらを受けた気持ちはいかかでしょう?」


「ん~……クソゲーだな」



 一応余裕ぶって話をしてはいるが、とんでもない状況になった。

 『七元徳』の言葉から察するに、神熾天使たちの犠牲で『黄天の秤』を誕生させ、単体では弱い俺を、どこにいようと2人っきりにするように特殊空間に転移させてきた。


 確かに完璧な『初見殺し』だ。

 発動条件もよく理解できないし、どこにいても対象になり得るってのは反則だ。あの面々が周囲にいて、俺にピンポイントに当てられたのなら、どこに居ても本当に無駄だったのだろう。


 『七元徳』と今からタイマンはさすがに絶望的だ。



「ちなみに元居た戦場も楽しいことになっているので、心配してもいいかもしれません」


「そこは大丈夫だ。ご自慢の『美徳』持ちの神熾天使が万が一数万体蘇っても、ウチの面々には勝てないから」


「……大層な自信ですね」


「戦うことに関しては最強だと信じてるからな」


「そんな『大罪』陣営の弱点……それは貴方の強さ」


「昔よりは強くなったんだけどなぁ……」


「私からすれば、まだまだ赤子程度の力です」


「……否定できないのが辛いところだ」



 ここは先ほど見えていた『七元徳』のダンジョンである城かと思ったのだが、天使の増援が無いので、似たような別の空間ってのは助かった。

 正対している感じ、一応『魔王八獄傑パンデモニウム』である俺でも……手も足もでない実力差を感じるので、さらに『七元徳』側に戦力がいたら秒殺されていたようなところだ。


 もし……本当に『大罪』と対称的な『魔名』であるなら、『七元徳』は魔王単体の力としては最強クラスである可能性がある。



「時間を稼げば配下がこの場に来ると思いますか?」


「さすがは『大魔王の頂きゴエティア』の1人……寛大な心で待ってくれるのか?」


「残念ながら配下は来ることはできませんし、待ちもしませんよ。少しお話を聞きたいとは思っていますが」


「『原初』の爺さんと『女神』関連の話か?」


「貴方は創られた存在ではない……私は創られた存在、色々と気になることがありますね」



 完全に立場が上になった『七元徳』は、これでもかと俺に質問攻めをしてくる。


 この世界で創られていない者として、この世界、人間や魔王といった様々なモノたちはどういったように見えているのか。

 この世界は最終的にどうなるのか。自分という存在はどうあるべきなのか、俺が何をしようとしているのか……色々尋ねられた。


 割と適当なこと言いながら、この状況をどう切り抜けるか考える。



(……デザイアやポラールが来れていないってことは相当ヤバいな。さすがに覚悟決めないと瞬殺される)



 『魔神之烙印サタン・スティグマ』で強化された現状でも、手も足も出ない。『原罪之アマルティア・烙印アドヴェント』を使ったとしても、上から力で押さえつけられて嬲り殺される未来が見える。



「……そろそろ終わりにしましょうか? この状況でも本心を語るようなタイプでは無さそうなので……これで『女神』様の勝ちが決まりそうですね」


「……こんな遊びで世界を創ってる奴に、まだ肩入れしてんのな」


「それが私の存在意義ですので……それに『大罪』に負けるのは認められませんから」


「……なら最後に教えてくれよ」



 俺は丸いカプセルのようなモノを出現させ、『七元徳』に勢いよく投げつける。

 攻撃スキルではないことが、すぐに察知できたのだろう『七元徳』は、丁寧にカプセルを受け取り、そのカプセルを見て疑問に満ちた顔をこちらに向ける。


 ちなみに俺が投げたのは、配合の時に使える俺の『魔名』である『大罪』だ。



「さすがにルーキーじゃあるまいし、自分の『魔名』残してるんだろ? 正反対に創られた力って言われてるのなら、『七元徳』の効果を最期に見せてくれないもんかね?」


「……殺して確認するつもりでしたが……まぁいいでしょう。さすがに『魔名』を見せたところで油断も何もないでしょう」


「……まぁ~結局は俺1人だと雑魚だからな。魔物の王である魔王とは思えない戦闘力で悲しくなるぜ」


「……最後の最後までひねくれ屋ですね」


「こういう性格だから仕方ないなぁ……次生まれ変わっても変わりそうに無いけどな」



 『七元徳』から放たれた光の弾を受け取る。

 『大罪』と対称とも言われているらしい『魔名』である『七元徳』、『大罪』は魔王にも魔物にも制限や尖りが鋭いけれど、敵を倒すことに特化した極悪な『魔名』である。

 今まで戦った感じ、集団で在ることに秀で、個としては強さを発揮できないけれど、相乗効果でとんでもないことになる『魔名』である。


 そして今、正対している感じ、『魔王八獄傑パンデモニウム』なんて目じゃないくらい……魔王として個の力に秀でている。



「……詳細だけ知ると、貴方の『大罪』は酷いですね。余程『魔名』や『聖魔物』が揃っていなければ役に立ちません。最初に授かる『魔名』としては普通外れと分類されるモノのはずです」


「……そちらさんの『七元徳』壊れた性能してんだな」



 『七元徳』

・ランクEX ・合成使用可能回数7回 ・真名数7

①コアに登録した魔物のステータスが低くなるが、アビリティとスキルのランクが1つ上がる。

②ソウルピックのピックアップの周期が通常の2倍速くなる。

③真名を授けた魔物が強力な共通のアビリティ・スキルを習得する。

④配合時に稀に起こる超変異が発生しなくなる。

⑤魔王のステータスが大幅に上昇する。魔王Lvが上がるごとに通常の魔王では習得不可な特殊アビリティ・特殊スキルを多数習得できる。

⑥配合時、全ての『魔名』と『聖魔物』と相性が抜群判定になる。

 

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